▼ 10、隣人さんたちめ私を萌え殺す気か!
真夏だというのに私の部屋のクーラーが壊れました。暑い中歩いて職場から帰宅し、そしてさあクーラーを!ンゴォオオっていう音を立てたと思ったらシュォオオっていう変な音を立てて止まる繰り返し。まだ19時頃だし窓を全開にしてクーラーの掃除をしてみたけどダメで、最終的にクーラーと室外機にチョップまでしてみたけどダメだった。そんなこんなバタバタしていたせいだろうか、隣からトンッという音が聞こえたと思ったらインターホンが鳴った。扉を開ける前に覗き穴を確認してみたら何かで塞がれているせいだろう、真っ暗だったので多分松田くんな気がしたので扉をそっと開けてみたら扉に手をかけられて顔を出したのは眠たげな顔をした松田くんだった
「うるせぇ…なんの騒ぎだ」
「あれ、もう寝てたの?ごめんね」
「昨日からずっと仕事でさっき帰ってきた…だからなんかあったのかって」
「クーラーが…壊れてしまいまして…」
「あっそ、で?」
「で?あ、直りません…」
「じゃあ俺の部屋で寝りゃいいだろ、着替えてさっさと来い」
「いや!いやいやいや!」
「なんか文句あんのか?」
「…あ、ありません」
怖いこの警察官…凄い形相で睨んで来るし、スーツのままだったから着替えて来いって事なんだろうけど、でもまだ私は寝ないよ!?なんて思いながらも松田くんの勢いに押されるがままに服を持って脱衣所に着替えに行ったんだけど、ぱたんっという音が聞こえたと思ったら物音がそこから聞こえたので入ってきたんだろう、リビングに行くと扇風機の前を陣取ってる松田くんがいた
「この部屋で過ごすのは無理だな」
あの扇風機の前で話すような独特の声がおかしくて笑ったら睨まれた。半そでに短パン…これくらいなら許されるだろうと思うと松田くんが扇風機を消して立ち上がった。なんか凄く押されたような気がするが本当にお世話になっていいのだろうかと聞く前に顎で早く来いとされるので部屋の窓や扉の施錠をしっかりしてから松田くんの家に入った。タバコの臭いはするけどもう少し違う匂いもするその部屋、座ってるように言われたのでテーブルの前に直接床に座ったら松田くんが麦茶を持って来てくれた
「飲み物飲んだかよ」
「いや…」
「飲め」
「ありがとう…ねぇ、松田くんもう寝るんでしょ?ついてきちゃったけど私いたら迷惑かと…あ、すごくありがたいのよ?涼しくて快適だし!」
「あぁ、だから俺は萩原んとこ行くからここは好きに使え」
「えっ」
「今の時期クーラー修理も取り付けも確実に時間かかるからな」
「ちょ、それは待って、申し訳無いからっ…」
「お前行くところあんのか?」
「な、無いけど…」
「だろ。じゃあそういうことで」
強引ってこういうことを言うのだろうか。さっさと荷物を持って出て行こうとする松田くんを慌てて玄関まで追いかけていけば鍵を渡された。私が口を開くと「じゃ」なんて言っていなくなる彼…開いた口がふさがらなくなったのって初めてだよ…
でもせっかく家を空けてもらっているのに使わないのは申し訳なくて、一応修理を頼んだら一週間後に無理やり時間を作ってもらえるみたいだったから平日だけど休みを貰って家で待機になった。松田くんはたびたび私の様子を見に来てくれるけど仕事ですぐに出て行ってしまうからその時アドレスを交換して修理してくれる日を教えたらその前日に松田くんと萩原くんが来た。来たっていうか、帰って来た…だけど
「お疲れー」
「お疲れ様…松田くんたち今日はおやすみなの?」
「あぁ、今日はおやすみで明日は非番だよ」
萩原くんが返事をしてくれて、二人が袋を持って入ってきた。自分の家じゃないけど自分の家と勝手は一緒だし、夜に本当に少しお世話になっていただけで、さらにいえばお布団とかは自分の部屋から持ち出して本当にクーラーさんに少しお世話になっていた感じ。今日一日あったから布団は端にたたんでいた
「何べんも言ったけど、ベッド使ってよかったのに」
「ううん、そこまでは…」
「ていうかじんぺーちゃん…彼氏でも無い男の布団に女の子はもぐりこめないって」
「ああ。女の子…ね」
そこでなんでちらっと見るの…確かに女の子っていうにはちょっと年齢的に無理があるかもしれないけど今の視線はとっても失礼だと思う。でもそれはともかくとしてもしかしたら今日二人がここに泊まるのかもしれないので、戻ろうかとまず枕を持ち出そうとしたら松田くんに腕をつかまれ、振り向いたらすぐに離された
「明日だろ?今日もここにいていいっつーの」
「いやいや、二人のせっかくのお休み前を邪魔するわけにはいかないわよ…」
「でもなまえちゃんと飲もうと思って来たんだよ、俺たち」
「ほら、飲もうぜ」
この二人って天使か何かなのかな…一人人相はあまりよろしくないし、むしろ職質されそうな警察官なんだけど心優しすぎて永遠に二人が幸せになってくれればいいって思ってしまう。なんで同性婚って出来ないんだろう、私二人が結婚するなら絶対式に呼んで欲しいくらいなのに!
とりあえずお隣さんである松田くんとその友人である萩原くんがあまりにもいい人すぎるのでお礼と言ってはなんだけど玉子焼きを作ってあげたら喜ばれた。改めて席について封筒に入ったお金を松田くんに差し出す
「何これ?」
「あの、光熱費…おうち借りてたし、外に追い出しちゃったし、しかもこうやって気を使ってくれたから…。諸々のお礼を含めて」
眉を寄せる松田くんに、萩原くんが松田くんの顔をちらっと一瞥をしてから私を見た。差し出した封筒は松田くんの手によって私のほうへと再び寄せられたけど萩原くんがそれを取った
「じんぺーちゃん、受け取ろうよ…受け取らなかったらもう甘えてくれないよなまえちゃん」
「うるせぇ、金が欲しくてやったわけじゃねぇよ」
「知ってる。だからこれはとりあえず受け取って、これは今度またなまえちゃんとじんぺーちゃんと…あと俺が一緒に飲む代として!」
あぁ、なんかそれだと気持ちだけっていうよりもちゃんと私のお礼とか受け取ってくれたんだなって少しは心が軽くなる。使うものは違うものとはいえども、受け取ってくれるだけで助かるなって思うし…私がうんうん頷いていれば松田くんが舌打ちをしてそれを受け取ってくれた
「ありがとう」
「別に」
笑ってお礼を言ったら松田くんが顔を背けてムスッとした顔で返事をしてきた。とりあえずビールを開けて乾杯しようって言ったのは萩原くんで、私の仕事の話しを愚痴ったり、過去の恋人だとか萩原くんが告白された事とか萩原くんの過去の恋愛系の話しに驚愕したり…と。
とりあえずつまみを食べながらお酒を飲んで…をしていたら松田くんたちの飲む量も私の飲む量も二人が買ってきた量も多かったので松田くんが自分のベッドにだれた
「あー…飲んだ…」
「ちょっとじんぺーちゃん、寝るなら俺んち行きましょうや」
「無理無理、このまま寝る。だいたいお前もこいつに当てられてすっげぇ飲んでただろ」
「じゃあ私自分の部屋に帰るよ、窓開けて眠るし大丈夫。お水飲む?」
ベッドにうつ伏せでこちらに顔を向けた状態でいる松田くん、体勢としては大丈夫かもしれないけどそこまで酔っていたら吐いてしまった時に困るだろうし、少しお水を飲んだほうがいいと思って起きているだろうかと思ってつついたら思い切り腕を引かれてベッドに顔面を突っ込んだ。私の背中に回る腕、それに気づいた萩原くんがこっちに寄ってきて腕を退かしてくれた
「こらこら!それはねぇだろ!おーい、じんぺーちゃん!」
背中から重みが無くなったので起き上がる、相手間違えたんだ…申し訳なくて萩原くんを見たら私に向かって謝ってきたのでむしろこっちが謝罪した
「んー…いいじゃねぇか、お前もここで寝ろ、萩原も泊まってけ、それなら問題ねぇんだろ」
「問題あるわよ!」
「何の問題?」
眠たそうにだるそうに言う松田くんの背中をべしべしと叩いていたら萩原くんが可笑しそうに笑っていた。なんの問題、って…そういわれたら色々出ないし、襲われる心配もないんだろうしただ寝顔とか見られたり寝起きの顔を見られたりするのが嫌なだけで…すっぴんならもうすでにすっぴんだし見られてしまっているし、メイクをしていてもそこはあまり変わらないのでいいとは思うんだけど…思うけど寝起きとか寝顔はちょっと
なんて渋っていたら松田くんが寝息を立てたので苦笑いを浮かべた。これならもしかして私が一番先に起きるのかもしれない、と
「ったくもう…でもなまえちゃんをこの無風の中家に戻すのも危ないし…引きずってでも連れて帰るよ」
「あ。だい、じょうぶ…泊まるわ」
気持ち良さそうに眠った松田くんを起こすのも可哀想だし、かといってここまで気を使ってくれているのにそれを無碍にするのもどうかと思うし。とりあえず自分の部屋で歯磨きをして、テーブルの上を片付けてからテーブルを退かしてたたんでいた自分の布団を広げた。
ベッドに座ったままでいた萩原くんが私が寝る準備をしたのを見てから電気を消したので布団に寝転がった
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「…ちょっとじんぺーちゃんもう少しそっち行って!」
「うるせぇな…」
おこしちゃった…私の気遣いの意味!!
「おいおい、俺を抱き枕にすんなって」
「邪魔だ萩原、下で寝ろ」
「下はなまえちゃんいるってば…。だいたいいつも一緒に寝てるだろ」
「お前が勝手に入って来んだろー…」
「ちょっとじんぺーちゃん、なまえちゃんが眠れないだろ、五月蝿いって」
「いって…!蹴んな」
なんっ…ちょ、背中向けてるし真っ暗でそっちを見ていても気づかれないとは思うけど何これ、何これ、しんどい!私の萌えと興奮が最高潮に達しているせいで私ぜんっぜん眠くないんだけどどうしたらいいの!?
わざとらしくそっちを向いたら二人がまだ押し合いしていたみたいだったんだけど、そのうち萩原くんが諦めたのでため息を吐いていた。影しか見えないけど松田くんの脚が萩原くんの上に乗っかったんだろう「重い」なんて小さな声で聞こえた
やばい、口から萌えが出そう。今私死んだら幸せな気持ちで眠れそう
まあ二人がそのうち大人しくなってしまったので私もお酒が入っていたこともあってそのまま眠れてはいた。なんども夜に起きたけど
ごろん、と上を向いて目を瞑っていればまたそのうち夢の中に入っていくんだろうと思って動かないでいたら、私の唇に温かくて柔らかい何かが触れた。何か、っても経験がないわけじゃないからわかる、唇だ
なんで?え、なんで?間違えたの?どっちが?
なんて思っても目を開けられるわけも無いのでそのままにして、そのうち離れた気配がしたし音が遠ざかったのが聞こえたしパッと目を開けて横目でベッドを見ても二人ともそこにいた
え!?じゃあ、今私にキスしたの誰!?!?!?!?!?!
っていう恐怖があって薄がけの布団の中に顔までたっぷり入った。
え、怖いわ、何それ、信じらんない、ここにお化けいたとか知らなかった…
もしかしていつもしっかり眠ってるから気づかなかっただけ?
でも二人の寝息が聞こえて来ると、一人じゃないから大丈夫って思えて怖くてもそのうち眠れた
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