▼ 09、隣人さんめ、血迷ったか
お風呂上り、まだ外からの風が気持ちよかったから扇風機だけにしていたのが仇となったか…お風呂上りはさすがに暑かった。私の腕は傷跡こそあるけど、綺麗に治っていたしもうすっかり湯船にも浸かる事が出来ていた。だからこそ調子に乗ったのもある…
お風呂上りのビールを片手に外へ出たら、ちょうど近所のお祭りで花火が上がっていたみたいで私の部屋からはよく見えていた。花火にビールに…最高
ベランダの柵によりかかりながらそのままでいたら「じんぺーちゃんこれなにー?」という声が聞こえた後にビリッという音が聞こえてまだ直ってないあの穴から萩原くんがこんばんは…。そういえばバタバタしてて折り返しの電話もしていなかった…多分部屋の中通らないといけないからどっちかはいないといけないのに、私も松田くんのほうも忙しかったのかもしれない。まあまさか説明していないとは思わなかった…
「こん、ばんは」
「こんばんはー…」
お互いがお互い苦笑いでいると、萩原くんが「ちょっとじんぺーちゃん!?」と言いながら室内に入っていったんだけどすぐに戻ってきた。
「また無言でコンビニに行ったのかも…」
はは、なんて珍しく乾いたような困ったような笑い方をしてる萩原くんから視線を逸らして花火のほうを見た。この間の夏祭りだけで何も夏っぽいことしてない。それにあの夏祭りも楽しいとはかけ離れていたような気がする…別に萩原くんも用事があるわけでは無いと思ったから無言で二人とも花火を見続けていた。花火の音が止まり、家の中に入ろうかと思ったら萩原くんが最初に振り向いたのでそっちを見る
「花火見えたか?……お前何やってんの?」
「萩原くんがあけたの。説明してなかったのね」
「忘れてたな…明日来るように伝える、俺は休みだし」
「お願いします」
萩原くんを見た後に私に気づいた松田くんがこっちを見てきた。何やってるのって聞かれても、花火を見ていただけで開けたのは萩原くんなんだけど…。萩原くんが「それじゃあ」と言って中に入っていったので私も入ろうかと思ったのに、松田くんに手招きをされたので歩み寄っていったら私のキャミソールの胸元を若干引っ張られた
「なにっ…!」
「誘ってんのかよ、バーカ」
っ…!!自分の家でこんな格好してるだけだからいいじゃん!だいたい中にちゃんと下着もつけてるのになんでこんな事言われなくちゃいけないのよ!ただのキャミソールに短パンじゃないのよ!!声にならない叫び声をあげて家の中に入って扉を勢いよく閉めた。もしあんたたちが家に来るっていうんならパーカー着るなりなんなりするわ!
私は怒りのあまりに暑くなってしまったから結局クーラーをつける事にして扇風機を消した。クーラーの温度は27度、うん、適温!
誘ってんのかって何よ!あんたなんて萩原くんに組み敷かれて若干照れてればいいっ…ベッドの上に乗って枕を叩きつける事何度か…そんな事を想像してしまった瞬間に怒りではなく別の何かのせいで暑くなってきた…。
深呼吸をして落ち着いてから、とりあえず私も上着を着に行かなかったことは軽率だったことは認めよう。だけど自分の家で何着ようが自由だっていう事は譲らないんだから!どうせあんたたちだってクーラーが壊れたりなんなりすればパンイチで一緒に過ごすんでしょ!
なんて若干思考回路が乱れつつもため息を吐いてから落ち着いた。
次の日に仕事に行けば女性社員の人に海に誘われ、仕事がなーなんて思って「うーん」と少しだけ渋っていると近くで休憩していた男がぷっと笑った
「出た出た。私仕事出来るんですー女」
「一人でなんでもやるもんな」
「女のくせにそんな頑張ってどうすんだよ」
「結婚する気ないんじゃねぇ?」
「って感じでなまえちゃん疎まれてる事だし、行こうぜ!海!」
この社員の子はオブラートに包むという事を知らないのか…ポンと肩を叩かれてすがすがしい笑顔で言われてしまった事もあり、とりあえずは了承した。海なんて全然行ってないからもちろん水着もないし、色々と買わないといけない…休みの日に買い物を済ませて準備をしっかり整えてから海に行った
「早く、早く入りたい!」
「あっついですもんね!先輩、なんでそんな悟りを開いた顔をしてるんですか…?」
「あぁ、もうおばちゃんにはきつい…もうかわいい子たちがきらきら眩しいのよ…」
「先輩おばちゃんにはまだ早いですよ!私パラソル持ってきたのでブッ刺しましょう!」
「ねぇ、この後輩怖いわ」
三人がかりで刺してみるものの倒れる倒れる…それでも久しぶりなのとこのバカみたいな状態が楽しすぎるし後輩は転がって倒れてるしで面白すぎて一人でシートの上にうつぶせで倒れて笑っていた。もう一人は一人でパラソルを起こして頑張ってるし、もう一か月ぶん笑ったよ
「ちょっと!助けてよ!後輩ちゃん脱いだし!」
「だって土だらけになるんですもん!気合入れてもう一回!」
あはは、と声をあげて笑っていたら、グラッとパラソルが再び倒れそうになり、それを掴んだ人の顔は見えないけど声は聞こえた
「もしかしてそのまま立てようとしてる?」
パラソルを避けたその人が苦笑いを浮かべて顔を出した。萩原くん…だ?
「え、ここで何してるの?」
「んー?」
あ、笑って誤魔化された。それから「ちょっと待っててね」なんて言われてポカーンとした状態で三人でいた。その後数秒後に二人に両腕をそれぞれ掴まれてあの人は誰なのかと問いかけられるものの、友人だと言っておいた…嘘は言ってない
それから少ししてパラソルを立てるためのスタンドを持ってきてくれればお礼を言って受け取ろうとしたら「重いよ」と言われて持たせてはくれなかったが、確かに砂に置いた時にどすっという鈍い音がしたので嘘ではないらしい。それにパラソルを刺してくれた萩原さんにお礼を言うと萩原さんが「いいえ」とだけ言い残していなくなった。やっと海に入れるようになった自分たち三人は浮き輪を膨らませてもらってから海辺のほうへ行くと女性がきゃーきゃー言っていたのでそっちに視線を向けたら4人がビーチバレーをしていて、そのうちの二人は知っている人だった
「さっきの人じゃん」
「まああの体であの顔ってきゃーって言うしかないですよね、特に…一人だけじゃなくて沢山の女性がわーわー言っていたら言いやすいですし」
「おや後輩ちゃん冷静な分析だね、イケメンには興味無いのかい?」
「いえ、好きです!でも自分の手に負えないイケメンはちょっと!若干イケメンくらいで!」
二人が可笑しそうに笑っていると、違うチームの松田くんと萩原くんがワーワーギャーギャやってるし、なんならほかの二人をそっちのけでやってるからもう私のときめきが止まらない、なんでそんなに仲良しなのっ!しばらくそれを続けているみたいだったので私たちは海に入った…少し泳いだりして、平泳ぎなんてしていたら三人ともそれは女の子が海でやる事じゃないなんて言って笑ってちょっと休憩しようかなんて言って海から上がったらこっちにボールが飛んできた
まだやってたんだ…
「ついでに休憩!」
なんていう審判みたいな人の言葉、私も前に飛んできたビニールボールを持ち上げたらこっちに息を切らして走ってきた松田くんがスライディングして私の前に転がった
「あーつっかれた…お前それちょっと持ってて」
「いいけど…これ水?汗?」
「汗」
ビニールボールが濡れていたので松田くんのきらきら光る背中を見て問いかけたら、案の定の返事が来たので手を離した
「あ、てめっ!」
ポンと、松田くんにあたったボールを、松田くんが起き上って片手でつかんだ。すると当然の事ながら二人に知り合いかと聞かれたから二人とも友達だと伝えるとなぜか拍手された。この二人は一緒にいて楽だ…色々聞いて来ないし。とは言っても私が例えば元彼の愚痴とか言ったら突っ込んでは来るんだけど
「それじゃあお疲れ様」
萩原くんも走ってきたのでその場を後にしようとしたら「疲れた」と言いながら再び倒れこんだ松田君が私の太腿に顔面を打ち付けた
「じんぺーちゃん…セクハラ?」
「ちがっ…!でも悪い…」
「いや、すぐそば通った私が悪かったです」
苦笑いを浮かべて今度こそいこうと歩き出したら後輩ちゃんと同期が私の肩を組んできた。「青春してるね!?」なんて言われたけどそんなつもりは一切ないんだけど…あぁ、ある意味日々の生活はとっても充実してるけどね、なんて
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