たとえばこんなお話いかが? | ナノ

04


次の日、通学中の電車の中で私の太ももに何かが触れたのに気づいた。鞄か何かだと思ったけど、温かい感じがしたそれにとりあえず露出している肌のどこかだと思う。私より背が少しでも高い子の太ももが擦ったとか、色々と考えられる事はあるけど、通り過ぎるように触ったというよりも撫でられたに近いから、私は混んでいるけどまだ身動きが取れるのでくるりと扉のほうに背中を向けた。なんでもないふりをして、携帯を弄りながら。学校の最寄り駅についてから出て、そのまま歩く。さっきのは痴漢かどうかわからないけど、とりあえずそれ以上の何かは無いので気にしない事にした

本日の下駄箱、上靴が無い。ゴミ箱に無造作に捨てられていたので拾い上げて何かの汁てきなものがついていないかの確認。とくに何も無さそうなので普通に足を入れようとしたけど、さっき確認した時にふと気づいたものをそのまま終わりにしたが、あとでやっぱり「あれ?」って思ってつま先を見ると画びょうが刺さっていた。いや、これ、貫通してる?あ、してない…あ、でもちょっと押すと痛いかも。なんて手を入れて確認してみる。たちの悪い悪戯なんだか、ちょっと遠慮してるんだかよくわからない。画びょうを引っこ抜いて、それを持って教室に戻り、教室内の備品の中にいれた
犯人がわかっているならやり返してもいいんだけど、こうされてしまえば犯人がまったくわからない。唯一平気なのは教室内だけで、一歩外に出ると何かしらある

トイレ入っている時に上からバケツジャーはさすがに思考停止した。
何がって、まだ拭いてないっていうのにトイレットペーパーが水浸し、あ、でもわりと平気な部分がある、と思って済ませてからトイレから出た。手を洗っていると、トイレに入ってきた同じクラスの後ろの席の子が私を見て一瞬びくっとする

「ごめっ…」

「この状態にびっくりしたのかお化けだと思ったのかどっち?」

「後者…。ちょっと待ってて、タオル持ってくる。ジャージは?あるの?」

「うん、ロッカーにいれてる」

「開けて平気?持ってくるから、保健室で着替えな」

「あ…りがと」

その彼女がいったんトイレから出たので、私はトイレの窓から外を見ていたら、本当に数秒後にまた扉が開いたので振り向いた

「え、なまえちゃんどうしたの!?」

ふわふわ子だった。私のところに歩み寄ってきた彼女は、私の格好を見て眉を寄せる。私の格好を下から上まで見ると困った顔をした

「蛇口でかかった…にしては広範囲だよね」

それからすぐに走る音が聞こえて扉が開くと、私の後ろの席の子が入ってきた。私とふわふわ子を見て微妙な顔をすると私にジャージとタオルを渡してきてくれて、それからその後ろの席の子はふわふわ子をジッと見てから足を踏みつけて出て行った

「いった…!」

「………一応聞くけど、大丈夫?」

「大丈夫…。昔仲良かったのに、ずっと睨まれてるの」

「そう…。私保健室行くから」

「うん、行ってらっしゃい。先生には言っておくね」

「よろしく」

足を踏んだ意味がよくわからないけど、理由も無しにする子じゃないとは思っている…でも両方ともほとんど知らないと言ってもいい人たちだから、介入するのも面倒で、廊下を濡らさないように上靴と靴下を脱いで、足を拭いて滴りそうなところの水をタオルでどうにかしてから保健室に入った

「じゃあ、先生ちょっと出て来るけど」

「はい」

保健室で着替えをするのを許して貰えたのでビニール袋に上靴を入れ、ベッドを囲うカーテンをちゃんと閉めてから服を脱いでいった。幸いにも下着まで到達していなかったので、ジャージを着るだけで大丈夫そうで、どうせ今日の帰りはジャージで帰る予定だったので後で着替える手間が省けたとほっとした。でも靴下が無い…靴下無しで色々するのはちょっとな。保健室の中に予備の靴下がありそうなのは小学生の時くらいか。少し落ち着いてからいこうと思ってベッドに腰をかけて、冷たくなった足先を正座をするようにお尻の下にいれて温めようとしたら、カタンという物音が聞こえて顔をあげた
その瞬間にカーテンが勢いよく開いて、私は後ろを振り向く。誰か他にいたのかな

「ちっ…」

舌打ちが聞こえて、とりあえず立ち上がり、服を入れる用に袋を貰おうと自分がいたところから出ていけば、反対側のカーテンが開いて、多分先輩だろう男の人が出てきた。こっちを睨むように見てきたので、私は軽く頭を下げてからビニール袋を取りに行こうとして、背中を向けた途端にその人の手が私の口を塞いだ。歯が自分の頬の内側に当たって痛い。本当にがっしりと掴まれてしまい、私はそれを取ろうと暴れたんだけど全然振りほどけなくて、ぐいぐいとベッドのほうに引きずり込まれそうになった時に扉が開いた。後ろの席の子

「…何、してんですか」

「話しが違うじゃねぇか」

「……はあ?」

その先輩らしき男の人が私を離すと、保健室から出て行った。後ろの席の子がこっちを見ると「彼氏、なわけないよね」なんていうので曖昧にうなづく。でもさっきの発言を聞いたらこの子がそう仕組んだと思うし、でもそれだとこの発言は無い?色々考えていたのに、彼女が持ってきたものを私に差し出してきた

「ドライヤー…使うかなって思って」

「ありがとう。助かるわ」

「先に戻ってるけど、大丈夫?」

「うん、ありがとう」

もう今の時間はさぼる。ちょっと電気泥棒失礼してドライヤーをして、あとは授業の途中から入るなんて気まずいのは嫌だし、注目の的も嫌なので保健室にしばらくいる事にした。寒いし、なんて布団の中に入っていると、いつの間にか眠っていたみたいで授業終了のチャイムが鳴った。あとは特に何もなく、ただ、後ろの席の彼女にドライヤーを返したくらい

放課後はいつも通りに生徒会室に行こうとしたら降谷が教室内に入ってきた

「今日10分ほど遅れるので鍵をお願いします」

「あ…はい」

「遅れるのは僕と景光のみですが、松田たちは…いつも遅いのでよくわかりません」

「了解」

なんとなくその考えはわかる。鍵を受け取ってから先に生徒会室へ行き、換気と掃除をして、それから定例会が始まる前にトイレに行った。戻ってきた時には松田が室内に向かって怒鳴り声をあげていた

「関係者以外立ち入り禁止って書いてあんだろ!出てけ!」

「でも私たちなまえちゃんから呼ばれてるんです!」

「はあ!?」

聞こえた。聞こえたよ、あぁ、でも鍵を閉め忘れていた私が悪いのか。しっかりと松田のそばに行ってから松田の事を見て「ごめ」と口を開くと室内から彼女たちを引っ張り出した松田が私を親指で差した

「こいつに友達がいるわけねぇだろ」

「っ…失礼ね!」

図星だわ。すぐに松田が私を生徒会室の中に突っ込んでから、彼女たちを無視して扉を閉めた

「お前も!謝ろうとしてんじゃねぇよ!」

「鍵、開けっ放しだったし」

「俺らが来るかもしれないと思っての事だろうが!」

「わかっててくれてありがとう!!!」

私がお礼を言うと、松田が言葉を詰まらせてからそっぽを向いた。なんなのよ…って思ってすぐに萩原たちが扉をそっと開けて入って来る。萩原なんて顔を手で覆い隠して肩を震わせていた

「キレお礼…。松田怯んでるし…俺、今で三日分くらい笑った…」

萩原がはあ、と大きく息を吐き出すと椅子に座り、降谷と諸伏が掃除の事についてお礼を言ってくれたのでなんてことないんだと軽く首を振った。さて、今日は仕事という仕事ではなくて、痴漢の事についての話しで、降谷が赤井に用意をさせたというものを広げるためにみんなで机をくっつけた。かつら、着替え、化粧品等々
本当にやるらしい面々はとりあえず着替えとカツラを降谷と萩原に渡して、それから打ち合わせになり、化粧については私はしないから松田がネットで調べたやつをやってみるらしく、私の顔を貸す事になりました

「まあでも、女にやるのと男にやるのは違うんだよな。」

「松田…なんでそんなサイダーみたいな匂いするの」

「あぁ、ポケットのお菓子」

「お菓子」

ファンデとかはさておきとして、動画を見ながら器用に私の目に何かをしている松田は片方を降谷用、片方は萩原用メイクとして練習するらしいから私の顔がどうにかなりそう。松田が話すたびに美味しそうな甘いラムネのようなサイダーのような匂いがしたので問いかけると、けしからん言葉が出てきたので松田のポケットの中に手を突っ込んだら松田がびくっと肩を揺らした

「痴漢はお前だ」

「ありがとう、おなかすいてたのよね」

「食うなよ!」

お菓子をひとつ失敬すると、食べようとしたんだけどこれ以上動くのはさすがに憚るし、ちらっと見上げた松田が真剣な顔をしているのでやめてあげた。それでも手にもったラムネらしきお菓子を食べたくて自分の手に握ったまま口の中に入れようか入れないか、目を弄っている松田の邪魔にならないように唇に押し付けたりして…でも食べるのに顎を動かしたりしたら駄目だろうか、なんて考えていたら、手を止めた松田が私の手の上からラムネを口に押し付けてきたので食べていいんだと思い食べた。
真剣な顔で化粧する高校生男子。しかも女装させるため…文化祭でこの技術使えるのでは。なんて一人で考えつつもジッとしていると化粧が終わったらしい

「降谷」

「ん?」

私の顔の真ん中に教科書を立てて、私はそのまま待機

「こっち降谷、こっち萩原」

「へぇ、いいんじゃないですか。女の人に見えます」

「私女よ…降谷は…似合うわね」

萩原はOL風、降谷はスカートは違うけど確か有名な女子高のセーター。ていうか校章入ってるし、絶対そう

「…誰の?」

私が問いかけると、降谷は私を一瞥してから椅子に座りに行った。なにあの反応、誰のなの。
気になるけど松田が最後の仕上げに二人にメイクをしにいったので、私は化粧落としを…

「化粧落とし」

「ねぇよ」

松田が即答したので諸伏を見ると、彼は苦笑いを浮かべて首を振った。そうよね、あるわけないわ

「まあでも、クラスの人に聞いてみようか。一緒に行こう」

諸伏に呼ばれたので彼と一緒に外へ出て、彼のクラスに行くものの、男子生徒しかいない。だいたいにして高校生で化粧しているのは帰宅部だけだと思うし、あてにはならない気がする。一応そのまま校内をうろうろしていると、ふわふわ子が職員室から出てきた。扉を閉めるとこっちに気づいたふわふわ子が私の顔と諸伏の顔を見て目を丸くさせる

「ど、どうしたのその顔…半分ずつ違う人だよ」

「ちょっと色々生徒会であって…。」

「あ、ねぇ、化粧落とし持ってない?」

諸伏に問いかけられると、ふわふわ子が「あったかも」と言って教室に一緒に行こうというので教室に行った。ふわふわ子がポーチの中からリップや鏡、日焼け止め等を出すと、汗拭きシートよりも少し小さいウェットみたいなものを取り出した

「あ、入ってる。どうぞ」

「ありがとう…買って返すわね」

「いいよぉ、そんなの…。でもなまえちゃんメイク上手いんだね?」

「私じゃないの、松田が」

ごしごししていると、ふわふわ子に怒られて、結局ふわふわ子がやってくれているんだけど、松田の名前を出すと一瞬動きを止めたので視線だけで見上げるとすごい顔をしていて、それでもすぐに笑みを浮かべた
なんかわりとこの子世話焼き…?

「そうなんだ」

ふわふわ子がメイク落としをしてくれたので、諸伏と御礼を言って教室から出ていった

「さっき、すごい顔してたな…」

「うん…松田の事好きとか」

「どうだろ…まあ、学年に何人かはそういうやついるだろうけど」

「よね…。そういえばみんな彼女いないの?」

「あはは、いないなー…」

「ふーん?好きな人は?」

「うーん、どうなんだろう。あんまりみんなでそんな話ししないんだよな…。あぁ、でも降谷は」

そんな話しをしていたら、生徒会室のほうから誰か走ってきた。金髪ロング…あぁ、降谷だ

「ゼロ?」

「たすっ…助けて!」

降谷が諸伏に向かって飛びつくと、萩原が続いて出てきた。あら、美人なお姉さん…
でも萩原が持っているのは女性が使う胸を盛るあれ。なんてもの持って出て来るお姉さんなの。なんて思いつつちょっとやり取りが面白くて少し離れた

「なまえちゃん、降谷ちゃんを捕まえて!胸はもっと盛るものだと教えてやって!」

「…それは…降谷の好みの問題だから…」

離れて見ていようと思ったのに無理やり話しに入れられたので苦笑いを浮かべた。さすがに胸とかはどっちでもいいんじゃないのか、そう思って今回は降谷の味方をしてあげようと思った矢先

「でも胸を触られる場合もあるだろ?」

と、Tシャツ姿で出てきた松田の言葉に「確かに」ってなった

「一応、囮として電車には乗る、でもそこまではさせない!この服は触らせない!」

「じゃあなんで借りてきたんだよ!!そもそもやってないのに捕まえられないだろ!」

「現行犯だとでっちあげる。そのくらいの違法行為は楽勝だ!」

「まあでも、高校生以外でもやられているかわからないけれど…降谷のほうがぷるぷるしてて狙われそうよね。可愛いし。その服にもし何かあっても、洗って返すんだから問題ないでしょう?」

「いや、僕の匂いをつけて返す」

「なんか降谷頭おかしいんだけど」

結局はその服を着るのをやめて、降谷は自分のカーディガンを羽織る事にしたらしい。結局そのセーターをどうするかは私にはわからないけど、なんか聞かないほうがいいと思う気がして。その後は女装組は赤井の車に乗せられて先に駅に行き、私たちはあとからタクシーで向かった。駅についてからは降谷には諸伏が近くから尾行状態で、萩原には松田、って言ったんだけど私について来るという

「されたことないから、萩子についてあげててよ」

「今日もそうとは限らないだろ。あいつは中身男なんだし、大丈夫だろ」

とりあえず後ろから知らないふりをしてついて来るというので、私はいつも通りに電車に乗りにいった。痴漢された時刻、そしてどこ行きの電車かも合わせて、違う車両にそれぞれ乗り込む。ちなみに今日で終わらなかったら明日も、明後日も…とちょっとずつ続けていくらしい
それでも毎日は難しいし、生徒会の仕事もあるから…やっぱり今日で終わってくれるのが一番いい

いつもとは違う電車、知っている人は当然ながらいない。今日は端っこのほうに行けなかったので真ん中で次の駅なんて書いてあるのを見たり、吊り下がっている広告を見ていた。連絡は交換しているので、何かあった時のみ連絡が来るようにしている。もしくはくだらない話しをする程度。駅を3個ほど通り過ぎた時、萩原から連絡が入ったので全員駅からおりた。駅の交番にいるというので、合流した松田とそっちに行くと、端のほうで体育座りをしている萩原と、その肩を抱く諸伏、それから色々警察に話している降谷と…多分犯人らしき人がいた

私はそこに密集しているのもどうかと思うので、交番の前で赤井に連絡した。少ししてみんな出てきて、ずーんとしている萩原が私を見て涙目になった

「ねぇ、この子いったいどうしたの?」

「なまえちゃん…なまえちゃんを囮にしなくてよかったって本気で思った」

私は一瞬私の事を心配してくれて、こんな感じになっているのかと思って一瞬感動したのに、私のほうに来た松田が小さい声で「掴まれたと」って伝えてきたから、何を掴まれたのかは理解した。別にいいじゃない、男同士!って思ったけど男同士なのが問題なんだろうか。とりあえず萩原のほうに行って萩原を見上げた

「元気だして。よくある事だわ…ほら、女の子同士って胸触りあったりするし、それと同じよ」

「フォローになってねぇよ。だいたいその為に俺たちが対策として色々話してた意味がねぇだろ」

松田に突っ込まれ、じゃあ他にどうしろと、と肩を竦める。すると萩原が元気なさそうな声で話しだした

「あのね、実際痴漢されると…しかも相手が男だと余計に…しかも触られると思わねぇだろ?…俺ね、すっごい声が出ませんっていう女の子の気持ちがわかった。それだったら痴女のほうがまだマシだろ、悪い子猫ちゃんだなって言えばいいだけだから」

「今萩子がその子猫ちゃんなんだけど」

どうやら私のこれは失言だったらしく、萩原が遠くを見つめて松田が楽しそうに笑っていた。

二人が一度着替えるために学校に戻っていき、私はそのまま帰る事になった。あ、あの二人の写真撮ってれば高く売れるかもしれない、と思ったけどさすがに駅の中、駅の外で写真を撮るのも撮りにくいし二人とも可哀想かと思ってそれはやめて帰路についた
今日はとくに追いかけられている感じは無かった



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