05
本来ならば生徒会は毎週何曜日にするって決まっていて、あとは忙しい時期には毎日集まるんだけど、それでも別に毎日集まらなくてはいけないという決まりはないらしい。無いらしいんだけど生徒会のメンバーは仲が良いからだろうか、ほぼ毎日集まっている。私はクラスはさておきとして、部活をやっているわけでも無いし、家に一人でいるよりも楽しいって思っているからここに足を向けてしまう
多分クラスでやる事も無いからだろうけど、誰よりも先に来て換気をして、掃除をしてからストーブをつける。そのうちこの上にヤカンでも乗せてやろうか、それともさつまいも…じゃがいも…なんて思ってしまう昔からあるタイプのストーブ。窓を開けていれば嫌でも冷たい風は入って来るし、掃除をして動かしていると手も冷たくなる。降谷は私が最初のほうにきているのに気づいてくれて、合鍵をくれたから今までみたいに適当に時間をつぶす事もなくなったから助かる…。生徒会の仕事の事を考えながら手のひらをストーブに向けていると、扉がノックされた
「山」
え、普通逆じゃないの?って思ったけど「川」って言うと扉が開く。入ってきたのは松田と萩原と諸伏。あぁ、それと生徒会の人たちがあったかいって感じるのは私がして当然だって思ってくれないで、あの松田でさえ掃除をする私にお礼を言ってくる事、それが凄く温かくて、優しい人たちだなって思う。だから最近この人たちの人気にも納得がいきます。見た目だけじゃない…
目安箱を持ってきた降谷が来たので、私たちは席について机をくっつけてからその目安箱の中身を降谷に全部出してもらうと、それぞれ何個かずつを自分の机に置いた。諸伏は取らないでノートを構える
「えーっと…降谷零さん彼女いますか」
「彼女はいません、次」
「三階の物置部屋の扉の立て付けが悪いので直してください」
「教師に言っておきます」
「生徒会顔良い」
「ありがとうございます」
「女性反対」
「あなたが決める事じゃありません」
「みょうじなまえ、一緒に死のう」
「嫌よ。西校舎の……PC室の準備室に幽霊が出ます。このままじゃ部活が出来ないのでどうにかできません、か…PC部」
「捜査します」
なんだかみんな早いスピードで話し過ぎて誰がなにをいったのかわからないけど好きな速さだ…
それから色々と出てきてはいたが、だいたいはお願いや要望のほかに愛の手紙、その中に私あてにも手紙が来ていた。パソコンで打ってある文字がちらっと見えたんだけど、見えた瞬間に松田がぐしゃっとした。隣に座っている松田が読まないからちょっと見ただけだったんだけど、私の名前と…他があまり見えていなかったのに
「ちょっと、なんだったの今の?」
「悪戯。分解しろ分解」
「はいよー」
萩原の手によって止める間もなく小さいシュレッダーにぐりぐりされてしまい、イカソーメンが出来上がった。そして私が問いかけてもふーんってしてくる松田。むかつくしほっぺ引っ張ってやりたくなるけど、そんな事出来るほど彼らとの距離は近くない
だから悪戯というのを信じるしかないし、私が見たら嫌な思いをするものかもしれない。だったらここは信じて黙っておくしかない気がして、これ以上何かを言うのをやめた。
PC部については、今日は活動していないらしく、また後日改めて部長たちに話を聞く事になり、今日は文化祭の話になった
「それじゃあ司会進行は俺がやります!書記はみょうじがよろしく」
「おっけー」
諸伏が立ったので私がノートを引き受けた。何か意見がある人、と言われたので元気に手をあげる私
「はい!」
「はい、みょうじ!」
「私たち2年生はさておきとして、1年生が一人もいないのが問題だと思います」
「来年に期待しよう!で、文化祭なんだけど何がしたいー?」
話し即座に戻した…
「今年も作ってある何かを買ってきて売ればいいんじゃねぇ?このへんでは買えないもの」
この人たち適当すぎる。これじゃあ人数も微妙なんだけど。三年生は自分たちのクラスでも出し物するから生徒会に入り浸りというわけにもいかないし。でも私が人数なんてものを考える事じゃないのか、そう思ったらその考えは捨てた
だから元気に手を挙げた。どうしても私はやりたい事がある、金の亡者といわれようとも!
「私コスプレ喫茶がしたい。松田が言ってたけど、どこかで買ったものをアレンジでもいいけど、簡単に出せるものと飲み物だけは豊富にしてみたり」
「楽しそうだな!」
諸伏が賛成してくれたので、降谷たちも結局クラスのほうもそんなに手伝いはいらないだろうし、という事で出し物を許可してくれた。あと降谷が喫茶店に慣れていると言っていたのでもしかしたら学校に内緒でアルバイトでもしていたのかもしれない。それはそれとしてあなたたちのコスプレ写真は売れそう。生徒会の予算を増やして…増やして私に何もいい事ないんじゃないの?
「一応聞くけど…生徒会って合宿とかある?」
「ありますよ。そのための売上です」
「やる気でる。じゃあやっぱり文句言わないでね…。あ、あと衣装は私作ってみる。家庭科は得意だから。降谷はアリスでいいわね」
「なんでそれでいいと思うんですか」
「似合うから」
「コスプレって他にもありますよね!?でも…それなら普通に執事喫茶とかのほうがわかります」
「……執事にする?私も執事したい」
「いいなそれ!」
萩原がそういうので執事喫茶、ってところを考えてみた。私執事やればもしかしたら女の子からちやほやされるかもしれないしもしかしたら美味しい事ずくめなのでは。自分の髪を一つに纏めてみたりした。こんな人いるわ、執事に。うんうん、なんて一人で納得しているうちに降谷のアリス姿が見たかったのに結局執事のほうへと話が流れていってしまった。執事服か…
でもそれはそれでいいかもしれない。
詳しい話はまた今度進める事にして、役員会の話になった。役員会はまずは文化祭全体の話を各クラスで選ばれた実行委員会に対する注意事項等で、あとはそれとは別に出店をしたいという部活動やクラスでまた集まり、食料を扱う人への注意等も細かく説明するとともに、出店が被ったクラスは被らないようにじゃんけんだったり
「執事喫茶って被りそう?」
「ですねぇ…毎年執事メイド喫茶やコスプレ喫茶、その他普通に喫茶店。それからお化け屋敷も人気あります。僕たちがいる学校は学園というものでも無いですが、来客者がとても多い人気の文化祭なのでそれなりの心構えも必要ですし…まあ、基本はじゃんけんですが…。僕が生徒会長なのでじゃんけんではなく、案を聞いてからにします。ただそこは公平を出すために僕以外の人たちで考えてください」
「じゃあ、ホストクラブ。すごく儲かると思う」
「お前は俺らを売る気だよな」
「使えるものは使いたい」
「聞いてますか」
「聞いてます」
降谷に丸投げされたのは当然か、じゃんけんのほうがやりやすいのに言い出しっぺの私が指揮を取って具体的にやりたい事、それの予算等を色々と計算する事になった。あとから伊達さんともう一人の生徒会も来て、今年は三年生の文化祭は一部のみの参加とし、一部は受験勉強に専念することになったが、伊達さんたちは手伝いには来てくれるらしい。
今日も当然ながらジャージで帰って、平和な日々を送った
最近不審なところといえば、雨の日用の替えとこの間みたいな時用にもってきている私の予備の靴下が無くなっている事。
私は雨用にもってきているはずなんだけど、それがいつも無い。体操着と一緒にロッカーに入れているのにあの時も無かったし。入れ忘れたかなって思ったけど、また無いのはおかしい。
でも私の靴下…誰か履いてる?いや、他人の靴下履くなんてそんな趣味ある子なんていないと思うし
生徒会の仕事、それから普通に授業、なんて日が続いていたその日、生理痛と眠気がひどくて保健室で休んでいる時だった。急に私の布団が捲り上げられて、顔全体を覆われ、もがいているうちに靴下を引っこ抜かれた。しかも布団の上に何か重たいものを乗せられているみたいで身動きは取れるけどいまいちここから出られない。しかも寝起きだったから考えるのに時間がいる。重たい、というよりもすごく大きい何か、これ動いて大丈夫なのかな?とさえ思ってしまい、枕元に置いておいた携帯を自分のほうへ引き寄せた
この間みんなと電話番号教え合って初めて電話をかけるのがこれ。
授業中出そうなのは…萩原か松田。私は萩原を選んで電話をかけたけど出なくて、松田に電話したら普通に出た
’どうした’
「私保健室にいるんだけど…、さっきまで寝てたんだけど急に布団が」
’いいから、簡単に言え’
「あ、へるぷみー」
’よくわかんねぇけど保健室行くわ’
松田って成績いいのに私と同じ匂いがする。なんて思いつつ、もうなんか、この中途半端な重さがむしろ気持ちいい気もしてそのまま眠ってしまおうかと思っていると扉が開く音が聞こえた
「うわ、なんだこれ…おいみょうじ、生きてるか?」
「うん、余裕で」
「じゃあちょっと写真撮るわ」
「え…まあ、いいけど…」
大人しく待つこと本当に数秒、私の上がひょいと軽くなったと思ったら足の出ている布団を下に下ろしてくれて私の顔が出たので私も起き上がった。うつぶせだったのが幸い…上向きだったら頭とか何かしらあったかもしれない。松田と目が合うと、松田が私の後ろに視線を移動させたので私はそっちを振り向いた
「まさかこれが倒れてたなんて言わないわよね」
「いう」
「ごめんね、助かったわ…」
「あぁ」
靴下の事は言わないでおいた。なんでこれが倒れた?そして私の靴下持っていかれるってどういう事。その後またお礼を言うと、反対側のベッドに松田が腰かけた
私はおなかも痛いので再びうつぶせに寝転がってから松田を見て、松田にどうしたのか問いかけようとしたら松田が微妙な顔をした
「先に言うけどパンツは見えてない。でもさっきの状況とお前の靴下がどこにも見当たらない事を踏まえて聞くけど…誰にやられた?」
松田がパンツって言った時点で笑いたくなったんだけど、いや、ふって笑ったら睨まれたので黙った
「…知らないわ。寝てたらばさって頭に布団をかぶせられて、靴下取られたんだもの」
「お前この間も靴下って言ってたよな?」
「……うん」
「あとで聞いたら記憶が曖昧になるかもしれないから今聞くけど、状況を聞きたい。まずはあれが倒れてきた時だけど、お前の様子を見るからに痛くなかったんだよな」
「そうよ」
「布団越しだからっていうのもあるかもしれないけど、少なくともたたきつけられたわけじゃないんだよな」
「うん、ばーんっていうよりも、のしって感じ。私が布団から出ようともがいている時によいしょって来た」
「脚…いや、いいや。引っかかれたりしたか?」
「してないと思うけど…。何、見るの?」
「そう言おうと思ったけどセクハラだろうが」
結局自分で起き上がってから脚を見て、松田が視線をなんとなく逸らしているのに気づきちょっとおかしくて笑ってしまった。今度は座ったまま松田のほうに向きなおると、松田が視線を戻してくる
「無いわ」
「じゃ、お前に少なくとも危害を与える気はまったくなくて、むしろ好意を持っているやつか。あとはお前が保健室で一人でいる事を知っている人物」
「好意持ってるなら靴下はぎとる嫌がらせしないでしょ…」
「そういう嗜好があるんじゃねぇ?」
その後もう一度靴下を取られた時の話をされた。足先の部分を掴まれたのか、それとも靴下の履く箇所を触れられたのか、人の手だったか、布越しのように感じたか。詳しく聞かれた
「あといつも思うけどアンタたち警察か何かなの」
「高校2年生です」
「そうね…」
「ま、とりあえず戻るから、お前は…もしかしてまた付きまとわれてる気がして眠れてねぇのか?」
「ううん、ただの腹痛…」
「あっそ、寝とけ」
「ありがと」
もう眠たくないけど、少し転がっていようと思ってもう一度布団の中に入った。松田が布団の上から私の布団をぽんと叩いて出ていき、私は眠くはないけど目は瞑っていた。
そのうち気づいた時には寝入ってしまっていて、チャイムの音と先生がいるらしい、椅子のキィという音で目が覚めた。なんか物凄い気だるい
「あら、どうしたの?また怪我?」
「様子見に来たんすよ」
「あぁ。みょうじさんね、女の子だから声をかけてからにしてね」
「はい」
松田の声が聞こえ、起きてるよ、というとカーテンが開いた。ん、と差し出された飲み物を受け取る。温かいココア
「ありがと…」
「腹は?腰もか?」
「大丈夫…さっきよりは」
「そ…。んじゃ、昼休みに生徒会室で飯食うから、お前も来い。話がある」
「うん、了解よ。ありがとう」
腹痛、の意味がわかってこれなら相当…。あいつ手馴れてるわ…
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