03
みょうじなまえ。学校でも目立つ存在だし、見かければすぐにわかる。同学年でもそいつ含めて三人、三年生に一人、一年生に二人ほどいる生徒から目を引く存在がいるけど、みょうじだけはちょっと違う。だいたいは数人でつるんでいるし、女子はよく一緒にいるなと思う代表例たち、そんな中でもみょうじはだいたい一人で歩いているし、媚びうるような姿もない。ただ赤井にはよく懐いてるな、と思うのは二人で歩きながら赤井の事を軽くだが拳で殴ったりしていた。それが今では生徒会の一員
一言言うならめんどくせぇ。次の日には閉じ込められてるし、朝には俺の下駄箱にお札貼ってあるし、あれ絶対みょうじのに貼ってあってそれを萩原が俺のにやったか、それかみょうじの独断だろ。さらに三日目、廊下を歩いていて、前をみょうじが歩いていたんだけど、決して近くは無い距離だったから、その間に入って女生徒がみょうじに向かって飴玉を投げつけていた
そして逃亡する女生徒、痛そうな音がしたと思ったら振り向いたみょうじがそれを拾って、開けて口にいれた。なんだあれ、嫌がらせじゃないのか?お賽銭?
そんなわけで気になったので生徒会室で萩原と二人のときに聞いてみた
「人にお賽銭という名前の飴を投げつける事がご利益あるの?ってどういう事。じんぺーちゃん大丈夫?」
「…だよなあ…」
自分でもバカな事聞いたと思ったんだけど、なぜかそんな噂が回ってるんじゃないかって思ってしまった。じゃあやっぱり嫌がらせか?なんて思いつつ他のメンバーを待っているとみょうじが入ってきた。聞くのもどうかと思って聞くのはやめておく
また違う日の事
一階の廊下で何かを外にポイポイ投げているみょうじがいたから近づいていったら、ミミズやら芋虫やらを外に捨てていた
「うわ、お前何してんの…」
「下駄箱に入ってたのよ」
「お前それ…」
嫌がらせに入るんじゃねぇ?そう言おうと思ったのに、全部外に出し終えたみょうじが手をパンパンと叩いた
「平気、虫も嫌いじゃないし。私が嫌いなものは勉強、それだけ…それよりも私のために嫌いな虫を頑張って捕まえたんだって思ったら愛しくならない?」
「ならねぇ」
特に助けを求めるでもなく、なんでもない顔をして生徒会に来ては降谷と俺に仕事を教わって覚えていくみょうじ。今では誰よりも仕事をしている状態で、やれ資料が曲がっているだの、一つ順番が違うだの小うるさい姑になった
生徒会室の掃除をしているのはほとんど降谷と諸伏だったが、みょうじも加わって俺らが行くときにはわりと楽しそうにしゃべって作業をしていた。俺の印象はみょうじは一匹狼であまり人と関わりたくない人、なのにその印象とは全く違いしゃべるとかなりしゃべる
あいつが入ってから一週間か、みょうじは放っておけばそのうち飽きると言っていたけど嫌がらせはエスカレート。生卵を投げつけられていた時もあったらしいが、萩原曰く、投げつけてきた人を追いかけてブレザーをなすりつけたとか、まあ、たまにあいつに卵ネタはそれからもたまに聞く
進路の事で生徒会には自分とみょうじしかいなかった日、みょうじはいつも通りに外を見ていた。あいつがたそれがれる時はだいたいそこだ
「俺から、お前に嫌がらせしてるやつらに言おうか?」
「ううん」
「でもお前色々大変だろ」
「いいの、これは私の戦いだから」
「なんの戦いだよ…」
「あとクラスの人たちは一部を覗いて私にすごく好意的だから頑張れる」
「だから、頑張るなって」
「こういうところで男が出て来ると余計にややこしいの!大丈夫だから」
「…あっそ、わかった」
頼られたら多分面倒だしだりぃ。だから生徒会に入らなければよかっただろ、とも言いたい。それでもむしろ言って来なかったらそれはそれで気になるし面倒だと思う自分は相当捻くれてるな、なんて思う。見た目はわりと好み、でも見た目だけでどうこう思うほど自分は浅はかな人間でも無い、っても別にこいつに好きとかいう感情は特にない。無言で、室内にいる時も気まずい感じも無ければ居心地もいい、今の時間もそんなに嫌では無い
進路相談は自分たちは終わっているので、他のやつらが帰って来る頃には太陽が落ちてきているので帰る事になった。萩原たちが来る前に、あいつが「でも靴下無くなったのは困るのよね」と呟いたのは結局聞いたのは俺だけで、あれだけが多分あいつが助けを求めていた事だというのに、事が起きてからじゃないと気づかなかった
「あのさ、痴漢の事なんだけど、また助けてって来たじゃない?」
「ああ」
私が声をかけると、施錠しているから扉の前で立っていた彼らの視線が私に集まり、降谷もがしゃん、と音をたててちょっと曲がってしまっている扉の鍵をしっかりと閉めてから返事をしてこっちを向いた
「囮出すのはどう?」
「…あのね、女の子のなまえちゃんを危険な目に合わせるわけには…」
「萩子と零子でどう?」
「ん、ん?」
「あははは、ゼロと萩が!?女装すんの!?」
「待って、俺化粧勉強する。誰よりも可愛くしてやるよ」
当然だけど私がやるとも言ってない。だけど萩原が私の事だと思って止める気持ちはわかる、わかるけどもう一度言うけど私がやるとは言ってない。萩原と降谷なら可愛い顔しているし、萩原綺麗系、降谷可愛い系でひっかかると思う。なにぶん犯人の狙いがわかってないし、それなら降谷と萩原で囮を出してみるのはどうかと。その言葉に萩原が笑顔でもう一度言ってくれ、みたいな顔をし、諸伏は楽しそうに笑っていて、松田なんて真顔で乗ってるしあまりわからない私から見てもちょっとウキウキしてる
「いや、ちょっとそれは…」
「そう?降谷が嫌なら私がやるわね」
「女性にそんな危ない事させるわけ無いだろ…。たとえそう言わせようとしている罠だとしても」
「ふふ。でも本当にやってもいいわ。すぐさま助けてくれるなら」
「いや…萩子やります」
萩原が搾り出すように言うから苦笑いを浮かべてちょっとだけ申し訳なくなった。一応高身長だけど、まだ、まだモデルだよ、で通じるくらいだと思う。ただ最近みんな骨が痛いとか唸ってる時があるから、成長期って今だっけって考えたりする。ってもそれも人それぞれだから実際は私もよくわからないけど。とりあえずその日は解散して、私はいつも通りに電車に乗って家の最寄の駅で下りて、自分の家までの道のりを歩いた。
気のせいか、なんとなく誰かにつけられている気がして、振り向いた。わざとコンビニに入って、また出る。自分の携帯の中には生徒会の人たちはいない…電話番号交換してない!せいぜい赤井がいるだけ…。赤井に電話をかけたくない私はコンビニから出てまた家へ向かった。もしかしたら気のせいかもしれないし、でも歩いている途中に足音がついてきている気がして道を曲がってみたらまた曲がってきた。キリ無い、どうしよう、と思いつつも家に帰りたくてずっと走っていると、バイクの音が聞こえた。私の走っている道路の横からだけど、私は急ぎすぎて飛び出してしまい、バイクは徐行していたおかげか、キィ!と音は立てたけどぶつかる事無く停まり
「みょうじ?まだ家じゃなかったのか?」
聞きなれた、でもくぐもった声に、すがるように松田だと思うヘルメット被ってる人のほうに寄ってから後ろを振り向く
「…どうした?」
「気のせいかもしれないけど、尾けられている気がして…でも、やっぱり気のせいかも」
「ちょっと見てくる。待ってろ」
「嫌っ…!いい、いいから…松田がいなくなったら私また恐怖心でこのへん走り回るお化けになりそう…」
「…わかった。とりあえずお前の家まで送る」
バイクを押してついてきてくれるらしい松田にほっとしてから甘える事にして家まで歩く
「でも、なんでここに?家このへん?」
「あ、それ。お前駅で別れた時財布落としてたから。悪いけど中の保険証見た」
「ありがとう…」
拾ってくれたのが松田でよかった。私は定期券いれをバッグにぶら下げているからお財布の事は考えていなかった。でもバッグに入れていたのになんで落とすのか、と思ったがバッグのチャックはしまっている…。あ、私帰りに何か食べ物買おうと思って長財布なのにブレザーのポケットに入れていたんだった。自分のポケットをぽん、と叩いた後に財布を受け取って今度こそバッグに入れてチャックを閉めた
コンビニでも何か食べるという気持ちよりも恐怖心のほうが勝っていたから何も買っていないんだった。松田に家まで送ってもらい、松田にお礼を言った
「ありがとう、助かった…本当に」
「どういたしまして」
「明日…昼ご飯か何か購買で奢るわね。ガソリン代含め」
「いや…。あー、じゃあもらっとく。ちゃんと鍵閉めろよ」
「はい」
松田が帰って、家の中に入って施錠をしてから私は靴を脱いで玄関にぺたりと座り込んだ。松田が来なかったら?財布落として無かったら?本当に気のせい?なんて思いつつ自分の服装を見た
女子高生って、唯一のブランド品よね。これが悪いのか、これが。ってなわけで私は明日からジャージで帰る事を決意した
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