たとえばこんなお話いかが? | ナノ

02


生徒会に挨拶に連れてこられた時、なにかの緊張のあまりに心臓が口から出そうになっている私はノックの前に扉を開けた。ちなみに生徒会は絶対に関係者以外立ち入り禁止になっていて、普通の生徒はそれを守って扉を無断で、ましてや無言で開けたりはしないが、もう一度いうけど極度の緊張状態だった私は扉を何も言わずにガンッと音を立ててスライドさせつつも前に出た。室内全体を見渡せるその扉、しかも私は前に出てしまったから死角なんてものは無い。見てしまったのは室内に立っている生徒会役員、確か諸伏っていった人、その人に萩原だったと思う人が腹部に手を回して臀部を触っていた。臀部…まあ、ケツだよね

「年齢間違えました」

フリーズした状態の室内、こっちを見る無数の目に耐え切れず今度は声をあげて扉を閉め、私の背後に紹介するために待っていた赤井秀一のほうを振り向いた

「私こんな怪しい生徒会入りたくない!」

そう伝えたのもつかの間、今度は生徒会室から扉を開ける音が聞こえてそっちのほうへと振り向いた

「扉を開ける時ノック必須、無断立ち入り禁止、関係以外立ち入り禁止。ここにわざわざ大きく貼ったものが見えないのか?」

生徒会長降谷零、冷たい印象がたっぷりとあるがどこかの誰かという諸伏にはとても柔らかい雰囲気を見せて可愛く笑うという噂のこの組織のボス。この人の言うことはご尤も。それでも緊張して開けてしまった私が見たものは変えられない。何も言えなくてとりあえず謝罪だけは伝えたけど、降谷は視線を赤井へと向けてから「この人が?」と問いかけてきて、赤井が頷いたのだろう、結局中に入れてもらえた。中に入った時には先ほどのわけのわからない状況では無く、みんなが席についている状態で、ちょっと一部気まずそうにしていた

挨拶するように、と言われたので前の黒板に行き、立ったまま私が口を開いた

「…2年…2年C組みょうじなまえです。ここで質問がありますが、皆様はできてやがるんでしょうか」

「誰が出来てるだ」

消しゴムをぽんと優しく投げられた。あのくるくるパーマは松田だ、知っている。私はそれをキャッチすると空いている窓から投げたふりをしておく

「ってめ!」

「投げられたので、いらないのかな、と」

「落ち着け松田。彼女は投げてない」

「んなもんわかってんだよ!!」

そんなわけで私と松田は最初から喧嘩する面子だったのは確実。ちなみにこの後赤井がいなくなってから萩原から聞いたのは、最近痴漢が多発しているらしく、その状況で声を上げられないときにどう動けば振りほどけるか、なんて事を実験していたらしい

「生徒会ってなんでも屋さんじゃないけど、意見箱にたまにそういう相談事みたいなの入ってる時があるから、解決出来るときは俺らで考えるんだよ」

「そう…ごめんなさい、初見あれだったから本気でそういう集団かと思った。降谷なんて写真撮ってるし、松田なんてそれを真剣に見ているから…」

「いや、うん、なんかごめん」

萩原がちゃんと説明してくれて、その内容が生徒を思っての事だったからちょっとだけ見直したのと同時に、あんたたち警察か何かなの?って少なからず思ってしまった事は確か。一応生徒会の仕事をちょっとずつ教えてもらいつつ、生徒会のロッカーも使っていいよ、なんて教えてもらった。私は本当は監査の位置に入るんだけど、実際監査が忙しくなるのは少し先だから、最初は生徒会の雰囲気になれつつ書記をするように言われた

「本当にいれんの?」

「俺は賛成だよ。ずっと男ばっかりだったし」

「めんどくせぇ事になるのが見えてんだろ。しかもこれ。…こいつの噂聞いてるだろ」

「わかった…。」

「ほら、こいつもこう言って」

「松田が噂を信じるバカだって事はわかった」

「松田よかったね、ゼロの次に色々言える友達が出来て」

なんで私のほうがいろいろ言われて、ヤンキーみたいなこいつがなんっで女子たちに好かれているのかわかんない。私から見たらこの松田なんて一番ヤンキーじゃないのよ!せいぜい萩原と諸伏が紳士ってくらいで、降谷なんか見なさい、興味無さそうに学校新聞なんか見てるから!私と松田が立ち上がって睨み、睨まれ睨み返しをしていると、間に伊達さんというちょっと老けて見えるんだけど一つ上の学年の人が入ってきた。
ちなみに生徒会は三年生が三人、二年生がここにいる面々でほとんど二年生で成り立っている。降谷はもう生徒会長という立場にいるけど、元々の生徒会長である伊達さんもよく顔を出してくれる

私は伊達さんはこの学校の中で唯一好き
私が一年生のときに上級生に突き飛ばされて転んだ時に、私をひょいっと立たせて、私の膝の傷に何の予告も無しにマキロンという消毒液をぶっかける適当さも好きだし、それをなぜ持っているのって突っ込みたくなるところも、噂に左右されないところも好き
あとわけのわからない爪楊枝食べてるところもわけわからなさすぎて好きだわ。特に恋愛じゃない、人として好きの領域

「なんだなんだ?ちょっと落ち着けよ」

って、伊達さんに言われたから落ち着いて席に座った。ちなみに私に仕事を教えるのもこの松田、書記は諸伏だからそのまま書記になりたいのに、この松田と仲良くしろと言う。夕方まで伊達さんがいてくれたし、私も夕方までいて、下校時刻になったらみんなで廊下に出た。その時に、部活動が終わって帰ろうとしていた同級生が私を見て「え?」という顔をして一緒にいる子と顔を見合わせていた

「諸伏くん、またね」

「うん、さようならー」

生徒会の人に挨拶をすると、生徒会の人たちも当然ながらちゃんと返す。私はその子たちの背中を見つめていると、その子たちがふりむいて、そしてこそこそしながら目を背けて行ってしまった

「友達がほしい…」

「急に何呟いてんのこの子」

萩原さんが苦笑いを浮かべて私の前に立った。自然と見上げる形になってしまうが、身長が大きいみんなを見ているのはちょっと疲れる。私の願望を口にしても、反応してくれたのは萩原さんだけ、生徒会のみんなが戯れながら歩いている姿をちょっとだけうらやましく思いながら帰った次の日の朝、私の下駄箱にはお札が貼られてあった

なんっでお札!?もう少し画鋲とかなんとかじゃないの!?あけにくい、全力で開け難いしこんなの貼られたら本当開けて上靴はいたらダメなんじゃないかと思えて来る!
私が自分の下駄箱で立ち尽くしているのを気づいた人はクスクスと笑って履き替えて行く。唯一とくに私を嫌ってるわけじゃなさそうな女子は、下駄箱が隣だからか、私の下駄箱を見てビクッとして「うわなにそれ!」って言いながらやっぱりそのまま行ってしまった

「おはよー、なまえちゃん…何…面白いことされてるの?」

「おはよ。画鋲より悪質よね、これ剥がしちゃだめなの?って気にもなる」

「うん、じゃあ綺麗に剥がしてみよう」

そういってニヤニヤした萩原が本当に丁寧にはがしていき、それから移動していったので靴を履き替えて追いかけてみると、松田と書いてある下駄箱に丁寧に貼っていた。なるほど、お札は破ったりしなければ丁寧に扱えばいいのか、なんて変な事を考えつつも萩原の悪戯が終わってから教室が隣なので一緒に行った。

「あ、そういえばなまえちゃんって電車通学?」

「うん」

「そっか、気をつけてね?」

「あぁ、あれね、ありがとう」

昨日のことを思い出して頷いた。でも私が乗っている車両ではそんなの無かったと思うけど…でも被害者の子が声をあげていたら警察も電車の人も何かしら動くはず、それが無くて生徒会に言っているという事は何も言ってないし、周りにも気づかれていないのかも

萩原と別れてから教室の中に入って、とりあえず自分の椅子と机には何もされていなければ、特に教室の中の雰囲気は悪く無い。昨日の子が教室内にはいるけど、どうこうというわけでは無かった。まあ、私が入ってくるとわかってて窓を開けていてくれる人もいるし、うちのクラス…いい人たち過ぎない?あれ、そういえばそうだ、今更気づいたわ…
嫌がらせされるなら窓を閉めておくよね、それなのにわざわざ開けてくれているし、今私が来たらそれに気づいて近くの生徒が窓を閉める…。……気のせいか、嫌われていなければ話しかけられる事もあるだろうし。授業の準備をしていると、後ろの席の人につつかれて振り向いた。さっき下駄箱で会った子

「みょうじさんの下駄箱って何か封印されてるの?」

「…私もそう思ってあけられなかったの」

「あぁ、それで固まってたんだ…」

ふふっと無邪気に笑われたところで先生が入ってきた。せっかく女の子とお話が出来たというのに、なんてうらんだ視線を送っておけば、朝礼が始まって、また少しの休憩が終わって授業が始まる。今日は特に何ごともなく終わったんだけど、帰りのHRが終わったらあのふわふわ子が話しかけてきた。実はあの子同じクラスなの

「なまえちゃん!」

「はい…」

友達か。なんて突っ込むわけでもない、別に女の子の間で急にちゃん付けとか気にしてないから、急に名前で呼ばれようがなんとも無い。ただ話しかけられた事にびっくりして返事をすると、にこやかな笑顔で手を握られた。これはどうかな

「ミスコン、頑張ろうね!」

「…え?」

「え?この間決まった…でしょ?いたよね…?」

「みょうじさん寝てたっつの」

「ええ!?で、でも頑張ろうね!?」

ミスコン、クラスから男女二人ずつ選ばれるあれ。後ろの席の子が帰る時に私が眠っていた事を教えてくれて、ふわふわ子が驚くもののまた頑張ろうといわれた。何を頑張るのかよくわからないけど苦笑いで頷く。話しをするあれも無いし、ふわふわ子は少しだけ苦手な所があるからもう行こうと思って立ち上がり、教室から出た

教室から出たところで、目の前に腕を組んで立たれ、その人の足元から段々顔へと移動する

「みょうじなまえ?」

「…ええ」

「ちょっといい?」

三年生の先輩でした。わかりやすく学校の裏側の授業で使われる倉庫の中に入れられ、壁ドンされるようにして囲まれる。私はとりあえず小さくなるしか無かった。そして今から何言われるのかはわかる、多分生徒会の事だろう

「生徒会、赤井先生に言われたっていうのはなんとなく察してる。でも辞退しな」

「大方、赤井先生に言われたなら充分言い訳になるし大丈夫だと思ってるんだろうけどあたしたちはそれで納得なんてしないから」

「生徒会、やめるの?やめないの?」

生徒会、生徒会…。あのよくわからないBLごっこ…いや、警察ごっこかな、していた人たちの良さが私にはわからない…。わからないからこそ、なんでこんなふうに言われるのかわからないし、別にあの人たちに囲まれて高飛車になっているわけでも無い。どちらかといえば甘やかしてくれるわけでもなく、仕事はたっぷりと教え込みますみたいな雰囲気だってしっかりとあるし、生徒会に入りたいっていう人は山ほどいたって聞いた。でもすぐにやめさせられるっていうのも聞いた、それはこんな人たちがたくさんいるからだろう

あともう一つ。彼らのせいで先輩に呼び出しくらう。私は何も悪い事してないのに
だから、思い通りになるのは悔しくて、でも一人に対して数人で、誰も味方がいないのは少し怖い。それでも「嫌です」って睨んで言ったら、ちょうどマットの上だけど突き飛ばされた

「やめるって言うまで出てくんな!」

次々と出て行く先輩たち、いやな予感がして立ち上がった時には扉がしまって、それからがちゃん、と音が聞こえた。真っ暗な中、小さな鉄格子のついた窓の向こうから太陽が差し込んでいてかろうじて中は見える。マットは外で使う用のマットが何枚か、あとは白い線を書くやつ、メジャー等外で使うものばかり。とりあえず授業用のグローブをつけて扉を殴ってみる。無理。ボールなんてあててバウンドしたら私のほうがダメージ食らうし
あとは椅子が2脚あるけど…って思って壊したら赤井にお願いする!と思ってやってみたけど、私の手がじんじんして、椅子が壊れた。さようなら、チェア
色々と試したけど、何にもならなくて、バッグもスマホも全部教室で、マットの上に座ってため息を吐き出した。人の迷惑になる事はまったくしてない、多分。なんなら教室の隅っこで体育座りでもしているんじゃないかってくらいの人間なのにどうして放っておいてくれないのか

段々と太陽が落ちてきたのか、明るい空の色がオレンジ色に変わって、そのオレンジ色が倉庫を照らしていた。暇だわ、お腹もすいたし。なんて思っていたら、ガチャン、という音が聞こえて扉が開いた

「…大丈夫か?」

「お腹すいた」

「大丈夫そうだな」

中を覗き込んできたのは松田で、私の返事にほっとしたように息を吐き出した。電話で私がいた事を誰かに伝えているうちに私が出て、松田がまた施錠する。荷物を置きっぱなしにした私がいないもんだからみんなで探し回っていたらしく、さらに伊達さんは知ってそうな人を校門で捕まえては質問してくれていたらしい。でもその前に松田が見つけてくれたらしいけど

「はー、よし、とりあえず校門行くか」

「荷物置きっぱなしよ」

「萩原が持ってる」

「なんで私がここにいるってわかったの?」

「勘」

「あぁ、そう…大した勘ね。……入ってたった一日の役員をどうして探してくれたの?みんな」

「…お前が昨日、書記のページを一番最初から読んでたからじゃねぇ?」

「だって仕事すぐに覚えろって言うんだもの。とりあえずどんな話し合いをしているのか知りたかっただけ」

「そこだろ。無断で休むとは思わなかったわけ」

「ああ…そう…ありがとう」

「ん」

その後は二人とも特に話す事はなく、校門に行ったらみんなが待っていてくれた。何か食べて帰るかって話しになったから、学校の近くのラーメン屋さんに連れていってもらう事になり、私が替え玉を三回したらみんな目が丸くなっていた。お腹いっぱいになったところで、みんなと別れて電車に乗って帰宅しましたとさ

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