Secret in the moonlight | ナノ


▽ sequel 2


それからあっという間に30分が経過し、安室が退勤する時間になった。どこか意気揚々とした梓のさあさあ早く上がっちゃってください!というにこやかな笑顔に見送られ、荷物をまとめた安室はカウンターで待っていた優華に声をかける。

「お待たせしました。帰りましょう。」
「はい。」
「優華ちゃん、またね。」
「うん、またね。梓ちゃん。」

安室はお先に失礼しますと梓に声をかけると優華とともにポアロを後にすると、安室の車が止められている駐車場へ向かって歩く。たわいもない話をしながら足を進めていくと見慣れた白のFDが目に入った。

「どうぞ。」
「ありがとうございます。」

安室は優華とともに助手席側に回り込むと当たり前のように助手席のドアを開ける。優華が微笑みながらお礼を伝え助手席に滑り込むと、安室も運転席へと乗り込む。そしてグローブボックスから小さな機械を取り出すと盗聴器が仕掛けられていないかチェックをする。優華はその様子を黙り込んで見つめる。しばらく時間が経ち、異常がないことを確認すると、安室は探知機をグローブボックスにしまい込む。

「もう大丈夫だ。・・・一週間ぶりだな。」
「うん・・・会いたかった。」
「僕もだ。」

安室の仮面を脱ぎ捨てて本来の自分である降谷の口調で声をかけると、優華も降谷仕様の話し方に切り替える。二人の想いが通じ合った日から一週間。お互い仕事もあり、特に降谷に至っては3つの顔を使い分ける多忙な日々を過ごしている為、なかなかお互いの都合がつかず、ようやく今日会うことが出来た。降谷はそんな優華の髪にさらりと指を通すとそのまま後頭部を自分の方に引き寄せるようにして、桜色の唇にキスを落とす。優華は未だ慣れないようでどこかぎこちないながらも幸せそうに降谷のキスを受けている。降谷にとってそんな優華の反応が愛おしくてたまらない。本音を言うとこのまま抱きすくめて思いきりその唇を堪能したいのだが、ここは誰に見られているかもわからない街中ということもあり、若干不満ではあるが軽いキスにとどめておくことにした。名残惜しそうに優華の体を離すと安室はそのまま愛車のシフトレバーを動かす。車はそのまま二人が出会った海へと向かって走り出した。

「梓さん随分喜んでいたみたいだな。」
「うん、正直急にポアロに行かなくなってしまったからどういう反応されるかなって行く前はちょっと不安だったんだけど・・・喜んで迎えてくれて本当に嬉しかった。」
「だから言っただろう?心配することはないと。」
「うん、零の言う通りだった。それにやっぱりポアロは温かいね。本当大好き。」
「そうか。」

嬉しそうに笑う優華に降谷も目を細める。

ポアロが温かい。

それは降谷がまだ優華への想いをぼんやりと認識していた頃にポアロに来ていた優華が口にしていた言葉だ。あの時は優華の正体が掴めず距離感を掴みかねていたというのもあるが、それにしてもまさか優華とこんな関係になろうとは予想だにしていなかった。そんなことを思いながら降谷がチラリと優華へと視線をやると、優華は目を閉じてまるで車の座り心地を確認するかのようにシートに深く座り込んでいるのが目に入る。そんな優華を見て降谷は口端をあげる。

「車が懐かしいか?」
「ばれちゃった?・・・そうだね。この座り心地の微妙さがたまんない。」
「ははっ、普通は逆だがな。」
「この車は走りを楽しむ車だもの。それくらいがちょうどいいの。」

その瞳をキラキラとさせながら話すその姿からは、以前優華自身が言っていた通りFDへの愛情があふれているようだ。きっと優華も昔は心の赴くまま愛車と色んな場所へ走ったのだろう。降谷はぼんやりと頭の片隅でそんなことを考えた。

「さすがは元FD乗りだな。」
「ふふ、まあね。・・・でもまさかまたこの車について誰かと話が出来るときが訪れるなんて夢にも思わなかった。」

どこか儚く笑う優華に安室は少し複雑そうな笑みを浮かべる。ちょうど目の前の信号が赤になり車が止まったタイミングで降谷はそっと優華に手を伸ばすと髪を撫でる。一瞬驚いたように目を見開いた優華だったが、すぐに気持ちよさそうに目を細める。

「いつだって話を聞いてやる。優華はこれから僕と一緒の時を歩むんだから。」
「・・・零。」
「生憎僕は欲張りでな。君を手放す気はさらさらないんだ。よく覚えておいてくれ。」
「・・・ありがとう、零。」

降谷の言葉に眉を下げて一瞬少し複雑そうな表情を浮かべた優華は、それでも嬉しそうに微笑んだ。

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