Secret in the moonlight | ナノ


▽ sequel 1


「優華ちゃん!?」

梓はこれでもかというほど目を見開いて入口から入ってきた人物を見た。そこにいたのは随分と前から来店しなくなってしまっていた優華だった。

「梓ちゃん、お久しぶり。」

ポカンとしている梓の反応に優華は少し気まずそうに、でもどこか嬉しそうに微笑む。その笑みを見て梓はふと我に返ったように優華の元へと駆け寄る。ちょうど今は店内の客もほとんどおらず暇な時間だ。少々話し込んでも問題はないだろう。

「お久しぶり、じゃないわよ!突然全然来てくれなくなって・・・本当に寂しかったし、心配したんだから。・・・元気みたいでよかった。」
「ごめんね。梓ちゃん。」

申し訳なさそうに眉を下げる優華に、梓は唇を尖らせながらもとりあえずその剣幕は収める。別に常連客が減ったことに対してどうこう思ったわけではなかった。ただ仲良くなれたと思っていた優華が何も言わずに姿を消してしまったことに一抹の寂しさを感じてしまっていただけなのだ。だからこうしてまた会えただけで嬉しかった。

「ううん、また来てくれて本当に嬉しい。カウンターでいい?」
「うん。お願いします。」

梓は優華をカウンター席へ案内しながら、そういえば優華が来なくなったのは安室とのデートの後からだったなとぼんやり考える。あの時の安室とのデートはおそらく上手くいかなかったのだろう。そのためポアロに来にくくなったというのが梓の予想だった。それがまたこうしてポアロに来たということは優華の中で気持ちの整理がついたのだろうか。そんなことを考えながらも下手に触れていい部分ではないだろう。そう考えた梓は優華がカウンターへと腰をおろしたのを確認すると注文を尋ねる。

「今日は何にする?」
「アイスのカフェラテをお願い。」
「オッケー、ちょっと待ってね。」

そう返すと梓はさっそくアイスカフェラテの準備にとりかかる。エスプレッソコーヒー、ミルク、氷と準備をしていき、手際よくアイスカフェラテを作る。その様子を優華はぼんやりと見つめていた。

「お待たせ。」
「ありがとう。」

優華の前にアイスカフェラテを置くと、優華は頬を緩ませてアイスカフェラテを口に含む。その瞳が幸せそうに細められた。

「やっぱり美味しい。」
「ふふ、それはよかった。」

二人して顔を見合わせると笑いあう。そこにはまるで空白の時間などなかったかのように親しみに溢れていた。

「すみません、戻りました。」

するとそこへ安室がバックヤードから姿を現した。買い出しから戻ってきた安室のその手には色々なものが入ったビニール袋が握られている。あ、と梓が思った一瞬の後に、優華の姿をとらえた安室は一瞬目を瞬かせた後に柔らかい笑みを浮かべた。それはただの客に見せるようなものではなく、例えるならば愛しい存在に見せるような甘さを含ませた笑みだった。

「いらっしゃいませ。優華さん。」
「透さん、こんにちは。」
「・・・・ちょっと待って。」

何か聞き捨てならない言葉が入ってきた。二人の挨拶を耳にした梓は思わずその会話を遮るように手を前に出してしまった。そんな梓に二人は視線を向ける。

「優華ちゃん、今安室さんのこと、「透さん」って言ったよね?」
「あ・・・うん、まあ・・・。」
「つまりそういうこと?」
「・・・えっと・・・その・・・。」

右へ左へと視線をさ迷わせながら頬をかく優華に梓の視線が突き刺さる。予想していたとはいえこの視線は気恥ずかしい。想いが通じ合えたとは言え、恋愛経験があまりない優華にとっては安室を恋人だと公言することはハードルが高い。そのため酷く挙動不審な言動になってしまったのは仕方ないことだった。

「梓さん、あんまり優華さんをいじめないであげてください。」
「安室さん人聞きの悪いことを言わないでください。」

梓がじろりと安室に視線を送ると、安室は少し困ったように笑みを浮かべた後、優華の元へ歩み寄る。優華を見つめるその顔にはやはり甘さが含まれていた。

「で、やっぱりそういうことなんですね?安室さん?」
「梓さんのおっしゃる通りです。・・・ね?優華さん?」
「・・・そうです。」

顔を赤くして困ったように視線をさ迷わせる優華を見て梓は破顔する。

「そっかあ・・・!よかった。」
「へ?よかった・・・って?」

きょとんとする優華に梓は笑みを深める。その瞳の奥にはほんの少しのイラズラ心が見え隠れしている。

「だって安室さん、結構前から優華ちゃんのこと気になってたみたいだもの。優華ちゃんとのデートにこぎつけたまではいいけどその後優華ちゃんはポアロに来なくなるし、安室さんに何か知らないか聞くと困ったように笑うだけだったし・・・てっきり安室さんふられちゃったんだろうなあと思ってたのよね。」
「・・・梓さん。そのあたりにしてもらえます?真実じゃなくても優華さんに振られるとか・・・本気で勘弁してほしいので。」
「ふふ・・・わかりました!」

困ったように眉を下げて頬をかく安室に、梓はここまでにしておこうと話を終わらせることにする。

「で、優華ちゃん?これからはまた顔を出してくれるのよね?」
「うん、もちろん。また来させてもらうよ。」
「よかった!楽しみにしてるね。」

嬉しそうに笑う梓に優華も笑い返す。

「あ、優華さん。」
「はい?」
「僕、あと30分で上がりなんです。よければ待っててくれませんか?」
「はい。わかりました。」

安室の言葉に優華は嬉しそうに頬を緩めると頷く。そんな優華を見つめる安室の視線も優しい。二人のやり取りは甘くて本当に二人が想い合っていることが手に取るようにわかる。梓は無意識のうちに口端をあげる。

「はいはい、ごちそうさま〜。」
「あ、梓ちゃんっ!」

梓は二人の幸せを心から願いながらカウンターから離れた。

prev / next

[ back to main ]