Secret in the moonlight | ナノ


▽ 19


夜も更けて日付が変わったばかりの時間帯。降谷は本来の職場で先日風見から受け取った優華の追加調査報告書を読み進めていた。予想通りと言えば予想通りではあるが、やはり何の手掛かりもない。「桜月優華」は確かに存在するのに彼女を調べると出てくるのは10年前の情報ばかりで現在の彼女を証するものは一切出てこない。公安の総力をもってしてもわからないとは一体どういうことなのか。まるで「桜月優華」という存在は幽霊のようだ。

だが、「安室透」として優華と幾度となくポアロで過ごしてきた降谷は、彼女は限りなく白に近いと確信していた。―いや、白であってほしいと思ってしまっているというべきか。どちらにしてもこれだけ四方八方から調べつくしても何も出てこないということはこれ以上の調査は意味がないと思われる。となれば。

「このあたりでいい加減キリをつけるべきか。」

降谷はそう呟くと窓の外へと視線をやる。そこには大きな満月が見下ろしていた。

―――――

「東都水族館、ですか?」

安室の特製ガトーショコラに舌鼓をうっていた優華はその手をとめて安室を見た。

「そうなんです。今度探偵の方の仕事絡みで事前調査が必要でして。それで優華さんにお付き合い頂けないかと。日程は優華さんの都合のいい日で構いませんので。」
「・・・何で私なんです?梓ちゃんとかお友達に頼んだ方がいいんじゃ・・・。」
「私と安室さん、休みがかぶること滅多にないのよ。だから私は難しいかな。」

梓はすかさず安室の援護に入る。顔には安室さん頑張ってとあからさまに書かれており、安室は内心苦笑する。

「さすがに男同士で水族館は遠慮したいですし、女性の友人は生憎みんな恋人がいるので浮気だのなんだのと勘違いされかねないことに巻き込むわけにもいかないですから。」
「あーそれは確かに・・・。」

ただでさえ安室はこの外見だ。目立つことこの上ないし、もし見られたらたとえ疑わしいことが何もなかったとしても必要以上の修羅場になりそうだ。誰だってそのようなことは避けたいに決まっている。

「この前同僚の方と来られてた時に彼氏はいないとおっしゃっていたでしょう?なので優華さんにお願いできたらとても助かるんですが。」
「えーっと・・・。」

どうしたものかと優華は躊躇したものの、本当は別に構わなかった。困っている相手がいて自分に出来ることがあるならば出来るだけ助けてあげたいと思っていたし、自分が一緒に行くことでそれが安室の助けになるのならそれは構わなかった。そう思っていても即答できなかったのは先日の疾風からの忠告が脳裏によぎったからだった。

関わりすぎるな。

疾風は優華のポアロ内での様子を見てそう言った。この店を出て外で二人で会うことになったらそれはもはや関わりすぎと言えてしまうのではないか。

優華はそう思い、一瞬躊躇ったが、次の安室の言葉にあっさり快諾することになる。

「もちろん費用は全て僕持ちですし、お礼に次回優華さん専用特製ケーキのスペシャルセットをお付けしますので。」
「行きます。」

特製ケーキのスペシャルセット。その言葉にフォークをグッと握りしめ真顔で即答する優華に安室はニッコリと笑う。梓は安室ではなくケーキでつられるのか・・・と少し安室が可哀そうになったが、それでも安室が大きなチャンスを得たことに変わりはない。梓は安室に頑張ってと心からエールを送った。

「それじゃあ連絡先を教えて頂いてもよろしいですか?」
「はい、ちょっと待ってください。」

優華は鞄からスマホを取り出すと安室と連絡先を交換する。すると梓が私も混ぜて!と交じってきて、優華は結局安室と梓と二人の連絡先を手に入れたのだった。なんだか生きていた頃のような感覚に少しくすぐったく感じる。その後安室とお互いの休みと都合を照らし合わせた結果、東都水族館に行くのは次の土曜日に決まった。

「では待ち合わせの時間など詳細はまた連絡しますね。」
「わかりました。」

次の土曜日で片をつける。

安室は優華に柔らかい笑みを見せながらも心の内では強い決意を秘めた。

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