Secret in the moonlight | ナノ


▽ 12


衝撃の事実に優華が思わず安室に視線を送ると、その先には女子大生らしきグループと仲よさげに話す安室の姿が見える。・・・やっぱりモテモテなようだ。

「どうかされました?」

優華の何かを思案するような姿に女性店員は不思議そうに首を傾げる。

「いや、安室さんてすごい方だなあと思いまして。紳士的で格好良くて料理も得意だなんて・・・私こんなに美味しいもの作れないし、女として完璧負けてるなあなんて思っちゃいました。」

生前もそれなりに忙しい職についていたこともあり、そんなに料理をすることもなかった。作ったとしてもパパッと作れるスピードメニューが多かった気がする。そんな優華の言葉を聞いて女性店員がコーヒーの準備をしながら苦笑いする。

「安室さんは特別ですよ。あんなに何もかも揃ってて更に料理も得意な人なんてそうそういませんよ。それにお客さんはまだ若いんだからいくらでも今から吸収できますよ。成人式を迎える頃には料理が特技ですってなってるかもしれないですよ!」
「えっと・・・。」

どう返事を返したものか。

優華が一瞬返答に詰まると、安室がクスクスと笑いながらこちらにやってくる。ようやく女子大生達から解放されたらしい。

「桜月さんが記録更新を目指した理由がよくわかります。」
「ははは・・・。」

こうもはっきりと未成年と断言されると、もはや苦笑いするしかない。だが、二人が何について話しているのかよくわからない女性店員は二人を交互に見やり、頭にはてなを浮かべている。

「・・・私これでも23です。」
「・・・ええええー!!私と同い年!?て、てっきり高校生くらいかと・・・。ごめんなさい!」
「いえいえ、気にしないでください。本当昔からよくあることなんで。」

あまりにも必死に謝る姿に優華は笑いながら答える。

「一昨日僕も梓さんと全く同じことをしちゃいました。」
「本当ですか!?よかった・・・私だけじゃなかった・・・。私、榎本梓と言います。お名前伺ってもいいですか?」
「あ、はい。桜月優華と言います。よろしくお願いします。」

同い年―最も優華にとっては身体年齢ではあるが―ということもあり、その後二人はお互い名前で呼び合うことになった。朗らかで気さくな性格の梓のおかげで、初対面にも関わらず優華も梓との会話を楽しみながらハムサンドを満喫する。その後優華が食事を終えたタイミングを見計らって半熟ケーキとアイスミルクティーが出てきた。大好物のケーキを見るなり優華の目がキラキラと輝く。その姿はただでさえ童顔な優華を余計に幼く見せるが、優華にとってそんなことはどうでもよかった。ナイフとフォークを持って一口サイズに切ると、パクリと口に入れる。

美味しい。まさにその一言だった。とろっとヨーグルト風味で甘さ控えめなクリームがかかっており、こちらもハムサンドに負けず劣らずの絶品だ。しかも甘過ぎないこのケーキは何個でもいける。まさにフォークがとまらなくなる危険なタイプのケーキだ。

幸せすぎてとけそう。破顔しながら半熟ケーキを満喫する優華を見て梓は笑う。そしてこれも安室作のレシピだと聞いた優華は軽く遠い目をしてしまう。

天は二物を与えずというけれど、あれはきっと嘘だ。

そんなことを思うが、今の優華にとっては何より優先すべきはケーキを味わうことだ。さっさと意識を切り替えると再びケーキへと意識を戻した。優華が半熟ケーキをじっくり味わって食べ終わった頃、安室が優華に声をかけてきた。

「お口にあいましたか?」
「とっても美味しかったです!全部美味しすぎてただただ感動です。梓さんに聞きましたけど、ハムサンドも半熟ケーキも安室さんがレシピ開発されたとか。安室さん本当凄すぎます・・・。」
「そこまで言われると照れちゃいますね。でも喜んでいただけて僕も嬉しいです。」

頬をかきながら照れくさそうに答える安室に、本当ですよ!と改めて優華が強調すると、ありがとうございますと笑いながら答える。

「というか、お二人とも随分仲良くなったみたいですね。」

名前で呼び合っていることに気づいた安室が梓に視線を送る。

「ふふふ、いいでしょ〜安室さん。」
「そうですね。羨ましいです。」

と言うと、安室は優華の方へと向き直る。

「ということで僕も優華さんとお呼びしてもいいですか?」

ニッコリと効果音がついていそうな笑顔で言われ、優華は固まった。

「・・・はい?」
「そもそも優華さんと先に知り合ったのは僕なのに、僕を差し置いて梓さんの方と仲良くなってしまうだなんて・・・寂しいです。僕も仲間に入れてください。」
「べ、別に構わないですけど。」

別に名前で呼ばれることに抵抗感はない。疾風や先輩である都筑も優華のことを名前で呼ぶため名前で呼ばれることには慣れていたので、特に気にするほどではなかった。それよりも。

・・・安室さんてやっぱりいい性格してる気がする。

天気予報風に言うならば「いい人、時々黒い人。」といったところか。

優華はそんなことを考えながらストローをくわえてアイスミルクティーを飲む。バランスを崩された氷がカランと音を立てた。

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