此れが恋だと云ふのなら



初恋は実らないと言うが、わたしの人生初の告白は見事に成功した。それがいけなかったのかもしれない。嫌われたくない、誰にもとられたくない、という思いが強過ぎたのだ。

「別れやすか」
「……え、」

仲良くやっていたはずだった。完璧ではなかったかもしれないが、周りからは素敵な彼女だねと言われていた。気が利くところが良いと褒めてくれていた。それなのにも関わらず、彼、総悟くんは突然別れを切り出したのだ。

その瞬間、わたしの頭には何がいけなかったのだろうという疑問がぐるぐると駆け巡った。わたしと居ても楽しくなかった?気が合わなかった?

「えっと……それは、どうして?」

恐る恐るそう問い掛けると、総悟くんは一言だけ口にした。

「アンタといたら息が詰まるんでさァ」

わたしはそれを聞いて絶句した。思いも寄らないことだった。私は総悟くんと釣り合えるような人になりたくて頑張っていたが、それがいけなかったのだ。なんてわたしは馬鹿なんだろう。

そもそも彼は元々怠惰を好む性格だ。そんな人が今のわたしのような人間と居て楽にしていられるわけがなかったのだ。

「本当に、ごめんなさい」
「別に謝る必要はありやせんよ」
「でも、わたし、」
「前の方が良かった」

溢れそうになる涙を押し殺しながら謝罪を口にすると、総悟くんは少し慌てたようにわたしの言葉を止めた。そして、沈む太陽をぼうっと眺めながらぽつりと言った。

「前みたいに、友達だったときの方が楽しかった」
「前、みたいに」
「下らねェ話したり、深夜までゲームしたりとか」
「そういえば、いつの間にかそんなことしなくなってたね」
「俺は名前といられるなら、友達だろうが恋人だろうがどっちだって良かったんでさァ」

今考えれば、昔はもっとお互いの距離が近かったように思う。恋人となってから、意識してしまうからか二人の間にはいつも数センチの隙間が空いていた。その隙間は時が経つにつれてどんどん広がり、埋めることが出来なくなったのだ。

わたしが彼を恋愛対象として好きになったからだ。だけど、総悟くんはわたしのことは好きでも、そういう意味では好きではなかった。恋愛対象としてわたしを好きになれなかったのだ。

「わたしがその関係を崩しちゃったんだよね。ごめんね、好きになんかなって」
「謝らなくて良いから、だから、前みたいに戻りてェ」
「ごめんね……それは無理だよ」
「なんで、」
「好きだからだよ。好きになっちゃったから、もう友達には戻れないよ」

総悟くんはわたしの目を見て逸らさなかった。しかしわたしはその視線を受け止めることは出来なかった。彼の言いたいことはよく分かった。彼は友達としてのわたしが良いのだ。だけどそれはあまりにも惨すぎる。

総悟くんは引く手数多で、自分から恋心を伝えるなんてことは滅多にないだろう。だから分からないのだ。好きと言って、それを受け入れてもらえたときの嬉しさも、好きな人にとって自分が一番の存在であるという喜びも。

「私たちは恋愛なんてしちゃいけなかったね」
「……そういうこと言うなよ」
「ごめんね。じゃあ、またね」
「連絡くらいはしてもいいだろィ」
「……返せたら返すね」

今の総悟くんには、何を言ってもわたしの気持ちは理解出来ないだろう。精々、失いたくないと思う程の相手を見つけて、恋をして、思いっきり振られればいいのだ。「友達でいたかったな」って。



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