交ざり合う白



「……会いたいなぁ」

霜月、冷たい風が肌に突き刺さる夜のこと。何か用事があるわけでもないのに、何となくふらっと外へ出てしまい、わたしは予想以上の寒さに挫けそうになっていた。人っ子一人居ない公園のベンチに座って、かじかむ手を擦り合わせながら思い浮かべたのは亜麻色の髪の少し意地悪な彼のこと。

仕事の都合や連絡の行き違いでもう何日も会っていない。毎日会っていたときはなんとも思わなかったというのに、珍しく会えない日が長く続いたせいか、どうも恋しくなってしまったようだ。

今までこのような感情に縁のなかった恋愛経験ゼロのわたしには、この感情をどう扱えばいいのか全く分からない。会いたい。沖田さんに会いたい。ただ、それだけ。

「誰に会いてェんで?」
「う、わっ!?」

ぼんやりと答えの出ない思考に耽っていると突然背後から誰かに話し掛けられ、わたしは驚いて大きく肩を揺らした。咄嗟に振り向くと、そこには寒そうにマフラーに顔を埋めた沖田さんがいた。

想えば通じ合う、なんていう少女漫画によくある話はどうやら本当だったらしい。全くと言っていいほどわたしはそれを信じていなかったけれど、現にこうやって彼は、沖田さんはわたしの目の前に立っている。驚きながらもそっと彼の袖に手を伸ばせば、もこもこと着込んだ服が手に触れた。

「さわれる……」

夢じゃない、と呟くわたしを沖田さんは怪訝な目で見た。自分でもおかしいと思っているから、この妙な言動は許して欲しい。なにせずっと会いたいと思っていたもので、もしかしてこれはわたしの都合のいい夢なのではないか、とひどく混乱していたのだ。

「どうした、頭でも打ったのかィ」

沖田さんは呆れたような顔をしてわたしにそう問いかけた。すっと手を伸ばしてわたしの額を触り、自分の熱さと比べて熱じゃねェか、と少し笑った。

「打ってないし熱もないです!とっても元気です!」
「じゃあ何か変なもんでも」
「食べてません!」

次々に繰り出される、明らかにわたしを馬鹿にしている質問に思わず反射的にそう答えると、沖田さんはついに声を上げて笑った。沖田さんもそうだが、夜中にこの声のボリュームは良くなかったかもしれないと少し反省するも、時既に遅し。近所の人に怒られやしないだろうかと一人焦っているわたしをよそに、沖田さんはまた緩く笑みを浮かべた。

「なァ、俺に会いたかったんだろィ」

沖田さんはわたしが座っているベンチのへりに頬杖をつき、わたしの頭をゆるりと撫ぜる。ずるい。本当にずるい。そんな聞き方をされてしまったら、会いたかった、と言うしかないじゃないか。

「……会いたかった、です」
「へ〜会いたかったのかァ」

仕方なく素直にそう答えると、沖田さんは意地の悪い笑みを浮かべる。この性悪、と言ってやろうとすると、突然顔が近づいた。

「可愛いな」

甘いリップ音を鳴らして唇が重なる。驚きに目を閉じる暇もなく、見開いたままの瞳に映ったのは、楽しそうに目を細めわたしの様子を窺う沖田さんだけだった。すっと唇が離れ、沖田さんが舌なめずりをした。キスされた、と理解すると途端に恥ずかしくなってきて、沖田さんの顔を見れなくなってしまった。どくどくと心臓がうるさい。

「んじゃ、俺ァ見廻りに戻りまさァ」

沖田さんは、驚きと嬉しさと恥ずかしさが一気に込み上げてきてついに何も言えなくなったわたしの首元に、自分の巻いていたマフラーを巻き直し、まるで何事もなかったかのように去って行った。さっきまでのお砂糖のように甘い沖田さんは、いつの間にか通常運転の飄々とした沖田さんに戻っていたらしい。

残されたわたしはというと、首元から香る沖田さんの匂いと残った体温に一人でくらくらする羽目になった。今夜はちゃんと眠れそうにない。だけど、もう寒くはなかった。



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