「ランサーにきいて、あたしにきかないで」
冷ややかな瞳が突き刺す。彼女はつまらなさげに立ち上がりその場を去った。
結果など、わかりきっていた。だからわざわざあたしにきかないでと。それが精一杯の自己防衛でもあった、のかもしれない。 港で釣りをしている男の背後から抱きつく。そっと掌で両目を覆い、くわえていた煙草を缶の中に棄てた。抱き寄せると此方に身を委ねるかのように、力がかかる。それを受け止めて額に唇を触れさせた。片方の腕を腰に回して、唇を唇で塞ぐ。歪む視界は決して美しくなどならない。 塞いでいた掌がおおきな掌によって退かされる。こちらを見上げる赤いふたつの目は、
「何処にも、行かねえよ」
(貴方の手で綺麗になる世界)
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