12/06 Fri 22:53:02


(幼馴染の家に転がり込む水柱@)

寒さが誤魔化しきれなくなり、箪笥からこたつ布団を引っ張り出してきてテーブルにセットした。スイッチを入れてひとたび足を突っ込めばそこは楽園。先程までの凍える部屋がオアシスへと早変わりする。身も心も温まろうと早くも横になって体全身をこたつの中に潜り込ませようとすると、チャイムが鳴り響く。どうせ勧誘か何かだろう。折角手先も温まってきたのに外気に触れるなんてとんでもない。無視していればそのうち諦めて帰るはずだと中に人がいるとバレないように静かに務めたが、段々チャイムの感覚が短くなっていく。あまりにもしつこいので渋々こたつから抜け出してモニターを覗くと笑顔でチャイムを押す幼馴染の姿があった。

「…なんの御用でしょうか。」
「居留守を使うな。さっさと開けろ、寒い。」

応答ボタンを押せば、錆兎は捲し立てるように言って玄関のノブをガチャガチャと回す。壊されたらたまったっもんじゃないと慌てて玄関まで行き、鍵とチェーンを外した。

「遅い、どれだけ待ったと思ってるんだ。お陰で手も冷え切ってしまった。」
「ひゃっ…!何で当てるの!あれ、義勇もいたんだ。」
「俺は夜遅いからやめようと言った。」
「おい今更一人だけいい子ぶるな。どうせあいつなら起きているだろうがと言っていたのを俺はしっかり聞いていたぞ。」

当然の様に靴を脱ぎ部屋に上がる二人を止めはしない。ドアを開けた時点で二人が泊っていくことはほぼ確定したようなものだからだ。今度は箪笥から布団を出さないといけないな、なんて思っていると後ろから感嘆の声が上がる。

「こたつだ…!こたつがあるぞ錆兎。」
「やっぱりここに来て正解だったな。」

バタバタと一直線に駆け出した二人は向かい合って腰を下ろすと布団を捲り上げて中へと足を飛び込ませた。だらしなく緩む顔を見ていると、突然押しかけて来たことを許してしまいそうになる。負けじと空いている場所まで言って座り込んだ私はふと気づいた。

「……私、足伸ばせないんだけど。」
Giyu Tomioka&Sabito






12/04 Wed 22:44:17


乳白色の湯に冷えたつま先をつけると、じんわりと熱が全身に伝わる。若干の痛みを感じつつもゆっくり肩まで浸かってから、背中を逸らして伸びをした。湯気が立ち昇るやや熱めに設定されたお湯は疲れ切った身体を癒してくれる。ああ、気持ちいい。早く帰宅した日はやっぱり長風呂に限る。普段は帰宅してご飯を食べたらあっという間に寝る時間で、追われるように風呂に入る為、シャワーで終わってしまうことも多い。手に湯を掬って遊んでいると、風呂の引き戸ががらりと音を立てた。

「え!?私入ってるんだけど!」
「知っている。」

涼しい顔をして入ってきたのは同棲している義勇で、全裸にタオルを引っ提げたあられもない姿だ。風呂に入るのだから当然なのだけども。裸を見るのは初めてではないが、明るいところで見るのと暗いところで見るのとは雲泥の差がある。そもそも一緒に入ることを許可していない。義勇はたじろいでいる私を横目にかけ湯を始める。

「なんで入ってくるの…。」
「今更出て行けと言うのか。」

濡れた手前、出て服を着ろとは言えない。仕方なしに湯船に体育座りをして場所を譲ってやれば、涼しい顔をして入ってきて足を延ばそうとする。

「後から入ってきたのに足を伸ばす?」
「…お前も伸ばせばいいだろう。」

水の中では抵抗も虚しく、体を引き寄せられて義勇に背を預けるようにして抱き込まれる。しっとりと肌と肌が合わさってむず痒い。折角長風呂をしようと思っていたのに、義勇と一緒ではゆっくりはさせてもらえないだろう。まだ背が触れているだけなのに、既に臀部を押し上げる存在が主張をしているからだ。

「…風呂場ではしないからね。」

義勇は返事をせず、腹に添えていた手を動かし始め、徐々に上へと這わせていく。あっ、こら、だから駄目だってば!
Giyu Tomioka






12/04 Wed 21:40:20


仕事終わりにスマートフォンの電源を入れれば幼馴染から来ていた「助けて」のメッセージに、慌てて鞄を引っ提げて電車に乗り込んだ。季節はもう冬だというのに焦りから汗が滲む。吊皮に掴まりながら「どうした」「何があった」とメッセージを送っても返事は来ない。倒れていたり、犯罪に巻き込まれていたりといった最悪の事態も考えられる。まずは倒れている可能性を潰すためにひとり暮らしをしている彼女の家へと向かった。

「あ、錆兎じゃんいらっしゃい〜。」

妙に間延びした声で出迎えた彼女からは濃い酒の匂いがした。

「あのメッセージはなんだ。」
「またフラれちゃったから慰めてもらおうと思って。」

悪びれず言う彼女に、額に青筋が浮かびながらも無事でよかったと安堵した。リビングに転がった酒の缶は一人で飲んだとは思えない量で、更に新しい缶のプルタブを引こうとしているものだから取り上げる。

「今回の人はちゃんと私のこと見てくれると思ったのに。」
「もう五回は聞いた。」
「なんで毎回浮気されちゃうんだろう。」
「…お前の男を見る目がないのが悪い。」

彼女が俺に紹介してきたのは、バンドマンに美容師、バーテンダーなどいかにも女に不自由してなさそうな男たちばかりだった。付き合っても長く続かないだろうと思った予想は今まで外れたことがない。誰が見ても釣り合わないのに、一目惚れしやすい彼女は後先考えずに付き合っては、数か月後には別れて今日のように俺を呼び出す。ただの幼馴染なのだから捨て置けばいいものを、その都度応じて彼女に付き合うのは紛れもなく好意があるからだ。フラれる度に優しい言葉をかけて慰めていたが、いつしかやめてしまった。優しくしてもこいつはどうせまたすぐに男を作って俺に紹介する。付け入る隙を与えてくれないならば、心の底まで傷つけばいい。散々傷付いたあと、俺が救ってやる。

「私には錆兎だけだよ。ありがとね、また明日から頑張る。」
「ああ。」

そっと彼女の頭に手を伸ばした。せいぜい頑張ってくれ。俺にしておけ、はまだ言ってやらない。
Sabito






12/01 Sun 22:57:40


「嫌です、他をあたってください。」
「お前しかいねえんだって!」
「三人も奥さんの誰で事足りるでしょう?」
「足りてたら最初からお前に声をかけたりしねえ!この通り!」

鬼殺隊の音柱として君臨する男が一般隊士の私に縋りついてまで頼んでいる光景に他の隊士の視線が突き刺さる。あの女、柱に頭下げさせてるよなんて会話も耳に届いている。頼みごとをするのにわざわざ人の目に着くところでやる辺り宇髄天元は策士なのだ。私が断れないように仕向けている。がっくり肩を落として大きくため息を吐いた。

「…分かりましたよ。」
「話が早くて助かるぜ、本当にお前は便利…いや、出来た奴だな!」

とても失礼なことを言われた気がするが、聞き流すことにする。問題は宇髄が頼み込んできた任務の同行依頼。夜な夜な若い女が消える街の調査だ。元忍の宇髄ならば、身を隠しながら一人でも調査ぐらい容易いだろう。態々囮役の女を遣わずとも事足りるはずだ。

「出発はいつですか?」
「今からだ。」
「…私昨日任務から帰ってきて治療を受けている最中なんですが。」
「任務は待ってくれねえ。行くぞ。」
「え!?ちょっ…!?」

逞しい腕が腰に回ったと思ったら、抵抗する暇もなく俵担ぎをされた。そのまま走り出した宇髄に落とされてはたまらないので口を噤み不服ながらも現状を受け入れる。

「やっと静かになったか。」
「…任務が終わったら甘いもの食べさせてくださいね。」
「お前がうまくやれたら、な?」
Tengen Uzui






11/29 Fri 22:36:33


私には昔から小指に絡まる赤い糸が見える。糸の先はきっと何処かの誰かの小指に繋がっているのだろう。果たして運命の相手に巡り会えるかどうかは神様の気まぐれなのだと思う。何故ならば、誰しもがその相手と巡り会えて恋に落ちていたら、人は簡単に付き合ったり別れたりしない。

「…突き指でもしたのか?」

じっと小指の付け根を見つめていたら、隣の席の錆兎が心配そうに声をかけてきた。彼には恐らくこの糸は見えていない。だから、彼の瞳に映る私は休み時間に友達と話もせず寂しく小指を眺める女子生徒にすぎない。

「ううん、何でもないよ。」
「それならいいんだ。食い入るように見ていたから気になった。」
「…赤い糸の先の運命の人は誰かなって気になってね。」

天井に向かって手を広げてみせると、今度は錆兎が自分の小指を見つめた。運命は自ら切り開くものだと言いそうな彼が、女子特有のロマンチックな話に反論しないのは意外だ。好きな女の子でもいるのかもしれない。残念ながら私には自分の糸しか見えないから応援はできないけれど。

「糸の先は見えるのか?」
「ううん、多分この街じゃないのかも。前に辿ったことがあるけど出会えなかったよ。」
「もしその相手と出会えたらどうする?」

運命の人とは出会いたいと思ったことはあるが、その先どうなりたいかを考えたことはなかった。子供の頃は漠然と結婚するのかな、なんて考えていたものの、相性だとか価値観だとか問題点は山積みなのだ。繋がりは絶対的でも、恋に落ちるかどうかは本人次第である。運命とは聞こえはいいものの、それが全てではない。返答に悩んでいると、錆兎は手を鋏の形にして私の小指の先から出る糸を切る真似をした。

「悩むような運命なら俺が繋ぎ直してやる。」

その言葉ではるか遠くへ伸びていた糸はぷつんと切られ、見えていない筈なのに錆兎は器用に自分の小指に巻きつけていく。

「悪くない運命だろ?」

小指を立てて見せつけてから不敵に笑った彼に、胸がきゅっと掴まれて鼓動が早くなる。この息苦しさと鼓動の早さは運命の相手に出会ったからではない。恋に落ちたから、と言えよう。
Sabito




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