11/29 Fri 22:36:33
私には昔から小指に絡まる赤い糸が見える。糸の先はきっと何処かの誰かの小指に繋がっているのだろう。果たして運命の相手に巡り会えるかどうかは神様の気まぐれなのだと思う。何故ならば、誰しもがその相手と巡り会えて恋に落ちていたら、人は簡単に付き合ったり別れたりしない。 「…突き指でもしたのか?」 じっと小指の付け根を見つめていたら、隣の席の錆兎が心配そうに声をかけてきた。彼には恐らくこの糸は見えていない。だから、彼の瞳に映る私は休み時間に友達と話もせず寂しく小指を眺める女子生徒にすぎない。 「ううん、何でもないよ。」 「それならいいんだ。食い入るように見ていたから気になった。」 「…赤い糸の先の運命の人は誰かなって気になってね。」
天井に向かって手を広げてみせると、今度は錆兎が自分の小指を見つめた。運命は自ら切り開くものだと言いそうな彼が、女子特有のロマンチックな話に反論しないのは意外だ。好きな女の子でもいるのかもしれない。残念ながら私には自分の糸しか見えないから応援はできないけれど。
「糸の先は見えるのか?」 「ううん、多分この街じゃないのかも。前に辿ったことがあるけど出会えなかったよ。」 「もしその相手と出会えたらどうする?」
運命の人とは出会いたいと思ったことはあるが、その先どうなりたいかを考えたことはなかった。子供の頃は漠然と結婚するのかな、なんて考えていたものの、相性だとか価値観だとか問題点は山積みなのだ。繋がりは絶対的でも、恋に落ちるかどうかは本人次第である。運命とは聞こえはいいものの、それが全てではない。返答に悩んでいると、錆兎は手を鋏の形にして私の小指の先から出る糸を切る真似をした。
「悩むような運命なら俺が繋ぎ直してやる。」
その言葉ではるか遠くへ伸びていた糸はぷつんと切られ、見えていない筈なのに錆兎は器用に自分の小指に巻きつけていく。
「悪くない運命だろ?」
小指を立てて見せつけてから不敵に笑った彼に、胸がきゅっと掴まれて鼓動が早くなる。この息苦しさと鼓動の早さは運命の相手に出会ったからではない。恋に落ちたから、と言えよう。 Sabito
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