01/28 Tue 23:41:19
仕事帰りに立ち寄った本屋でたまたま見かけたブライダル情報冊子。普段であれば一瞥して直ぐに通り過ぎるのだが今日は違った。雑誌の見出しに、今月号限定付録のキャラクター入り婚姻届の文字を見つけてしまったからだ。わざわざ発売日を確認して購入する程熱を入れている漫画で、尚且つ好きなキャラクターイラスト入りと知れば買わないという選択肢はないだろう。雑誌の内容とは縁がないために周りの視線を気にしつつも一冊手にとって会計に向かう。発売日が重なりに重なったのか、やけに長い列の一番後ろに並べば、見知った髪色と広い背中が目に入った。多分、恐らく、もしかして。飽きるほど見てきた後ろ姿を間違える筈がなくとも、恐る恐る名前を口に出してみる。 「錆兎…?」 ぴくりと耳朶が動き、声を捉えた男が宍色の髪を揺らめかせながら振り返る。藤色の目が私を捉えて少しだけ瞳孔が開いたかと思えば、直ぐに目尻を緩められた。 「驚いた、まさか後ろにお前が並んでるとはな。」 「人違いだったらどうしようかと思ったよ。それにしても本屋なんて珍しいね。」 「俺だって本を読むことだってあるさ。ほら、これ。」 体ごと振り返って片手に携えられた本の表紙を見せられる。作品名はピンと来なかったが、作者名は先日義勇が勧めていた作者だ。勧めるというよりかは半ば強引に読めと押し付けられた小説は本棚に並べられて手付かずになっている。錆兎も同じようなものだと思っていたのに、予想は裏切られた。 「これで読んでないの私だけか。」 「感想戦に参加したいなら今週中に読んでおいたほうがいいぞ。」 「そうやって二人して急かすんだから…。」 「で、ところでお前は何を買いに来たんだ?雑誌なんて滅多に買わないだろう。」 上からのぞき込まれる前に胸に押し付けて表紙を隠したかったのに反応が遅れてしまった。ぺたんと勢い良く雑誌を倒す頃には、錆兎の目はしっかりタイトルを捉えていた。いくら男性とはいえテレビ広告で散々流れる有名な雑誌を知らないわけがない。暫く考え込む様子を見せたあと、錆兎が放った声は幾分か低く怒気をはらんでいた。 「……お前、彼氏なんていつ作った?どこで?どれぐらい経つ?」 畳み掛けるように質問をしてくる錆兎の表情は真剣そのもので、気圧されそうになる。質問から、既に誤解を招いていることは明らかだ。まさか好きなキャラクターの婚姻届が欲しかっただけとは思わないだろう。正直に言えば呆れられるかもしれない為極力言葉を選択しようとするが、中々いい言葉が思いつかない。 「えっと、」 「早く答えてくれ。」 小説を持っていない方の手でがしりと肩を掴まれて恐怖から逃げ出したくなった。 「ほ、欲しかったの。」 「俺の質問の答えになっていない。」 中途半端な回答をしてしまったせいで、錆兎の額に青筋が浮かぶ。いよいよ不味いと思ったところで店員のお姉さんが、次の方と声を上げる。いつの間にかすっかり会計の渋滞は解消されており、残りは私と錆兎の二人だけ。丁度2つ会計が同時に空いたようだった。 「は、早く行ったら?店員さん困らせちゃ駄目だよ。」 「…先に会計が終わっても逃げるなよ。」
しっかり釘を差したあと会計に向かう錆兎は兎というより獲物を追う狩人の目をしていた。 Sabito
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