03/01 Sun 21:37:53
義勇さんと付き合って初めてのお泊りから帰宅して鞄を降ろすと、どっと疲れが湧いてきた。決して一緒に過ごしてみたら合わなかったわけではなく、緊張感から解放されたことによるものだ。外では全くベタベタしないから義勇さんはてっきり淡白なのだと思っていたら、家ではずっと引っ付いていて一人になる時間といえばお風呂とトイレぐらいだった。テレビを見る時は膝の間に入れられて、ご飯を食べる時はじっと見つめてくるし、布団の中では…存分に可愛がられた。一日中ドキドキさせられれば心臓も疲れたと言いたくもなる。今も落ち着かずどくどくと煩い音を立てる心臓は自分の物ではないみたいだ。気分を落ち着かせるために大きく息を吐くと、義勇さんが寝ている時の深い呼吸を思い出してまた心拍数が上がりそうになる。気を落ち着かせるために、お泊りセットの入った鞄の中身の片付けに専念すればスマートフォンが電話を知らせる通知を鳴らした。
「…足りない。」
酷く寂しそうな声色で電話をかけてきたのはつい先ほどまで一緒に居た義勇さんだった。耳元で囁かれていた声が機械越しで聞こえると急に寂しくなる。鼻をすすった音が聴こえてないといい。しかし、足りないとは何事か。足りない、足りない、足りない。もしかして義勇さんの私物を間違えて持って来てしまったのだろうか。具体的に何がとは言われてはいないが、口数の少ない義勇さんのことだから心の中では何が足りないかは言っているのだろう。すぐさま電話をかけてくるあたり、大切なものに違いない。スマートフォンを肩と耳で挟みながら鞄をひっくり返して慌てて漁るも、それらしきものは見つからなかった。
「取り込み中か?」 「足りないと言われたから鞄の中身を確認しているのですが見つからなくて。」 「そうではない。部屋が広くて静かなのが落ち着かない。」 「…もしかして私が足りないという意味ですか?」
自惚れだったら恥ずかしいが、口に出してしまったものは取り消せない。スマートフォンを持つ手に力がかかるも、待てど暮らせど返事を返ってこず恐ろしいほど静かである。時折聴こえてくる電話特有の機械音がもどかしい。今ならまだ冗談だと笑って誤魔化せばダメージを軽減できるだろうと口を大きく開いた時だった。
「来週の週末は空いている。」 「へ?」 「買い物に出たらお前が好きそうなチョコレートがあったから買っておいた。賞味期限は来週末だ。」 「え、はい。」 「…次はいつ来る。」
義勇さんなりの下手な誘い方に笑みがこぼれた。自分の欲をあまり出さない義勇さんが回りくどい言い方をしてまで誘ってくれたのが嬉しくてたまらない。返事は勿論来週末で。 Giyu Tomioka
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