十三年前、私達がそれぞれの養い親に引き取られた日の事を思い出す。
その日の数日前から、どの子を引き取ろうかと様子を見に来ていた養い親達。
その中に混じって、私達孤児を見ていた姉の養父は、明らかにその場に浮いていて異質な存在だった。


何が? と聞かれれば、答えられない。
私はまだ幼く、何となくそう感じ取っていただけだったから。
だが、子供の感性は鋭い。
あれは『異質』だと感じただけではなく、実際に『異質』だったのだ。
彼は他の養い親達と違う目的で、私達を物色していたのだから……。


「浅海さん。少し前の話になりますが、我がグラード財団の主催で行われた『銀河戦争』を覚えておいでですか?」
「あ、は、はい。とても盛り上がっていたのに、途中で中止になって……。結局、どうなったのか気になってましたが……。」


銀河戦争――、確か聖闘士とかいう人知を遥かに超えた力を持つ少年闘士達が、トーナメント方式でその強さを競い合った大会だった。
私もテレビでその試合の様子をチラリと見ていたので、途中で中止になってしまい、残念に思ったのを覚えている。


だが、それが姉さんの話と何の関係があるのだろう?
突然、そんな話題を振られて、当たり前に面食らう。
そんな私の表情を見てか、沙織さんは柔らかに微笑んだ。


「あの銀河戦争に出場していた少年達――、彼等は聖闘士と言いますが、その彼等が本来いるべき場所、所属している場所というのが、ギリシャにある『聖域』というところなのです。」
「ギリシャ……。」


少しだけ話が見えてきた。
姉さんは、その『聖域』とかいう場所に送り込まれたのだろう。
私は息を飲んで、沙織さんの次の言葉を待った。


「貴方のお姉さま、浅香さんは、日本でギリシャ語を学んだ後、ギリシャへ渡り、聖域に女官として潜り込みました。彼女の役目は、聖域内部の様子を逐一報告する事。勿論、それは聖域側に露見しないよう、細心の注意を払って行われていました。彼女から浅海さんへ手紙があまり来なかったのも、浅海さんから彼女へ手紙を送る事が出来なかったのも、そのためです。聖域内部にいては、頻繁に外との連絡は取れませんから。」
「……。」


沙織さんの話を聞きながら、未完成だったパズルのピースが少しずつ埋まっていく。
信じられないような非現実的な出来事にも係わらず、沙織さんの話によって、私の中で欠けていた姉さんの過去が綺麗な形を作り出していくのに、心がどう反応して良いか分からず、あやふやに揺れた。


「私は、ずっと聖域の目から隠れていました。見つかる訳にはいかなかったのです。時が来るまでは……。だからこそ、向こうの情報を少しだけでも良い、流してくれる人が必要だったのです。」
「隠れていた? あんな大々的に派手な大会を開いておきながらですか?」
「あれは『時が来た』から開催したのですわ。もう、私は隠れる必要などありませんから。今では、聖域と日本を自由に行き来しておりますもの。」
「そう、ですか……。」


いつの間にか、私は彼女のペースにはまっていた。
気付けば、到底、信じられそうもない話の数々を、間違いなく真実だと受け入れている自分がいるのだから……。





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