「納得がいかない。そういう顔をしてらっしゃいますね。」
「あ、あの……、すみません。」
「いえ、良いのです。私が貴女の立場でも、同じように思ったでしょうから。」


目の前の少女、否、グラード財団の総帥・城戸沙織さんは、とても十代とは思えない落ち着いた物腰と、優雅な微笑みを浮かべて、私の顔をジッと見ていた。
その視線に、更に困惑が深まる自分。
正直、彼女よりずっと年上の私がたじろぐ姿は、さぞかしみっともないに違いない。


「どうやら、まだ混乱してらっしゃるようですし、私の方から先にお話させて頂いても宜しいですかしら? その間に、貴女の考えも纏まるでしょう?」
「あ、はい。すみません、お気遣いをさせてしまって。」


沙織さんはゆっくりと首を左右に振ると、気にするなと私にその大きな瞳で伝えた。
私は深々と一つ頷き、フーッと息を吐く。
それを合図に、彼女はおもむろに話し出した。
私の知らなかった、姉のこれまでに関する話を――。


「貴女のお姉さまが、我がグラード財団の社員に引き取られたのには、訳がありました。前任の総帥――、私のお爺様なのですが、ある事情により幼い少女を必要としていたのです。ギリシャのとある場所に送り込むために。」
「送り込む?」


その言葉……、まるでスパイのようだ。
身寄りのない幼い子供を引き取り、どこぞとも知れぬ異国の地に送り込むなど……。
そんな映画のような非現実的な考えに捉われた私を、沙織さんが目を細めて眺めているのに気付き、思わず顔を赤らめる。
子供みたいな想像をした事を、見透かされたのではないかと思った。


「その通りですわ。」
「え……?」


一瞬、彼女が何を言っているのか、理解出来なかった。
細められていた瞳が、パッと見開かれ、真剣な眼差しを向けられるまでは。


「『スパイ』その言葉がピッタリです。当時のお爺様には、ある場所に潜り込み情報を流してくれる人が、どうしても必要だった。貴女のお姉さまは、そのために選ばれたのです。」
「まさか……。」


信じられなかった。
姉さんが死んだという事実よりも、更に現実味がなく、到底、信じるなど出来そうにない。
映画や小説以外の、本当の現実世界に、こんな事があるだなんて。
しかも自分のこんな身近なところに。


「大人では駄目だったのです。日本人の大人がそこへ行けば、否応なしに警戒される。それでは意味がなかったのです。その場所には少女達が数多く働いておりました。ですので、利発で人当たりが良く、誰からも好かれるような、そんな少女が潜入するには最適だったのです。」
「それで私の姉に白羽の矢が立ったと?」
「ええ。」


そう聞いてもまだ、その事実を私は受け入れられそうになかった。





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