「デスマスク、アフロディーテ。」
アイオリアが呼んだのは、彼等の名前だろう。
名は体を現すというが、こんなにもピッタリとくる名前があるなんて。
『死仮面』と『美の女神』。
まさか、それが本名だとは到底思えないが、その名前を聞いた後では、どんな名前も彼等に似合いはしないだろうと思った。
例え、それが彼等の実の名だとしても。
「丁度良かった、三人ともココに居てくれて。話がある。」
「何だい、突然?」
「女連れで話があるって事はだ。なンか重大発表でもすンのか? もしかして彼女出来ました宣言かぁ?」
デスマスクと呼ばれた銀色の髪に紅い瞳をした男の人から掛けられた言葉に、アイオリアは明らかにムッとした表情をした。
また怖い顔をして、眉を寄せて睨み付けるように見ている。
私は喧嘩でも始めてしまうではないかとハラハラして、思わず彼の服の袖を気付かれないようにキュッと握った。
「茶化すな、デスマスク。アイオリアは、何か真剣な話をしに来たようだからな。」
「アイオリア。キミもそんな蟹の戯言、いちいち真に受けていたら疲れるだろう? ほら、彼女も心配そうにしているよ。」
息を呑む程に目映い微笑を湛えて、長くしなやかな指を私に向けるアフロディーテさん。
一瞬、その美しさに気を取られて呆然としていた私だが、彼が指差しているのがアイオリアの服を握り締めた私の手だと遅れて気付き、私は慌てて手を離した。
が、それはやはり僅かに遅かったようだ。
「……浅海?」
「や、ほら。ね、アイオリア。ココで喧嘩なんて始められたら困るなぁって……。」
焦ってしどろもどろに言い訳する私を、キョトンとした顔で見つめて。
その後、やや遅れてフッと笑いを零すアイオリア。
目を真ん丸にした私の前でアイオリアの笑いは深まり、最終的にはクククッと笑いながら私の頭をクシャッと撫でた。
「アイオ、リア……?」
「いや、スマン、浅海。心配させて。大丈夫だ、喧嘩などしない。ココでそんな事をしようものなら、アフロディーテに怒られる。まぁ、その前に、シュラが全力で止めてくれるだろうがな。」
アイオリアのその言葉に、アフロディーテさんは面白そうに笑みを深め、シュラさんは表情は変えずに片眉を上げてみせる。
そして、デスマスクさんはつまらなさそうにチッと舌打ちをした。
「折角だし、お茶でもどうだい? 向こうに休める場所がある。」
「話があるなら、落ち着いた場所の方が良いだろう。」
「そうだな……、浅海?」
振り向いたアイオリアが、それで構わないかと視線で尋ねる。
私は勿論、うんと一つ頷いた。
「どうせ、大した話じゃねぇンだろが。」
「お前は黙っていろ、デスマスク。」
「そうそう。キミが口を開くと話がこじれる。」
不思議なコントラストだと思った。
全く違う雰囲気の三人。
それぞれに一癖も二癖もありそうなのに、一緒にいてもギクシャクしていない。
絶妙なバランスで成り立っている三人の後ろ姿を眺めながら、私は再びアイオリアの服の袖をキュッと握り締めた。
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