「何をしているんだ、こんな所で?」


合流したアイオロスさんは、草の上に座る私達と目線を合わせるためか、その大きな身体を屈めて話し掛けてきた。
にこやかな笑顔は今日も太陽のように眩しく、そして、爽やかで。
彼がニコリと笑っただけで、清々しさすら感じられる。
まるで、暑い夏の日差しの中に吹く、恵みの風のように。


「何って……、ちょっとした休憩だよ。ココは空が広くて気持ちが良いからな。」


ホンの僅か、目を見合わせた後で、アイオリアがそう答えた。
ココで亡き人の姿を見たなんて、そんな小説みたいな話、わざわざ伝える必要もないだろう。
例えアイオリアのお兄さんだとしても、そんな信憑性の欠片もない話、教えたところで馬鹿にされそうな気もする。
彼が答えるまでの僅かの時間で、そう目と目で伝え合った。


「なら、俺と同じだな。」
「兄さんも?」
「あぁ、ココは寝転がってボケッとするのに、最適な場所だ。」


空は高いし、草は柔らかいし、時間はのんびりと流れる。
ゴロンと身体を倒して草原に寝転がりながら、そう言葉を続けたアイオロスさん。
腕を頭の後ろに組んで枕にし、空を見上げた瞼は心地良さ気に閉じられていた。


まさかアイオロスさんも、ココに誰かの姿を求めて来たって事はないわよね?
ひっそりと一人で来たのに、アイオリアと私という先客が居て、だから、私達の話に合わせた、とか……。


一瞬、そんな考えが頭を過ぎったが、直ぐに振り払った。
十三年間も、現世から離れていた人だ。
彼に会いたいと思う人はいても、彼が会いたいと思う人がいるとは、到底思えない。


見下ろすアイオロスさんの整った顔は、伏せた睫が頬に影を作っていた。
アイオリアと同じく、男らしく凛々しい顔立ちの割には、思った以上に長い睫をしているのだと気付き、途端に昨夜の彼の寝顔を思い出して胸がトクンと高鳴る。
そう言えば、アイオリアも瞼を閉じると睫が長かったわ……。


もし、このまま聖域に残ってアイオリアの傍に居続けるのだとしたら、この人は私のお義兄さんになるのよね。
きっと、とても頼れるお義兄さんになってくれるだろう。
それは疑いのない事だと思う。
それでも、アイオロスさんがお義兄さんになるのだと思ったら、ちょっと怖い気もした。


こんなちっぽけな私が、彼等兄弟の間に入って良いものなのかな?
この人の家族になるには、私はあまりに普通の人間であり過ぎると、そう思える。
勿論、アイオリアへの愛は誰よりも深いと、そう言い切れる自信はあるけど。
だけど、アイオロスさんと近しい家族になれる自信はない。


理由がある訳じゃないけど、私は怖かった。
彼の鋭い洞察力と、何もかもを受け止めてしまえそうに広い、その心が…。





- 4/8 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -