その草原に辿り着くと、アイオリアと私は申し合わせたようにゴロリと寝転んだ。
背中に当たった草がヒヤリと冷たい。
二人共に同じ行動を取った事が可笑しくて、私達は寝転んだまま顔を見合わせてクスリと笑う。


こうして極自然に笑みを浮かべるアイオリアの表情が好き。
いつものキリッと引き締まった、凛々しくて、ちょっと厳しい表情も勿論、好きだけど。
彼が自然のまま力を抜いて柔らかな表情を見せた時、私の心はいつもトクンと音を立てるの。
毎日、沢山の時間を共に過ごしているのに、それでもなお、彼の見せる色んな仕草、色んな表情に心惹かれる。
どれだけ好きになっても足りない、そう思える程に。


アイオリアが視線を逸らし、空を見上げたのに釣られて、私も横に寝そべる彼から空へと視線を移す。
目の覚める真っ青な空。
フワフワと漂う真っ白な雲。


あの日は確か、こうして空をボンヤリと見ていて。
それから目を閉じて、瞼を閉じてても眩しいなと思って、また目を開けて。
そうしている内に、目を開けているのか閉じているのか分からなくなって。
夢現(ユメウツツ)のような状態にハッとして目を開けると、あの空に姉さんの姿が映って見えたんだ。


私は、その時と同じように、何度も目を開けたり閉じたりしながら、姉さんが現れるのを待った。
何度も何度も、次こそはと思いながら目を開けて。
でも、そこには青い空と白い雲しか見えなくて、その度に落胆する事を繰り返した。


「……浅海、どうだ?」
「ダメみたい。どれだけ経っても、姉さんのシルエットすら浮ばないわ。」
「俺もだ。あの日のように、友の姿が見えたりはしないな。ただ空が青いだけだ。」
「そうね……。」


あの日と違って、今は心に余計な邪念があるからだろうか?
真っ白な心で何も考えず、何も望まず、まるで座禅でもしているかのように無の境地にならないと、二度とあのような特別な現象は起こらないのかも知れない。
それはそうだ。
簡単に起きる事なら、何の神秘性もないものね。


「ダメだな、これ以上は……。もう戻るか?」
「そうね……。折角、来たのに残念だけど。」


そう言って、先に起き上がったアイオリアに腕を引かれ、私もゆっくりと起き上がる。
青い空だけが見える世界から、沢山の物が視界に映る日常の景色の中に戻り、途端にホッと息を吐いた。
風が心地良い。
数メートル離れた崖の方から吹く風は、遠く海の香りを運んできて、夏の気配をより強く感じさせる。


「……ぉお〜い!」


その時、遠方から微かな声が響いてきた。
誰かが呼んでいるのかと思い、辺りを見回せば、草原の向こうの林の中から、男の人が歩いて近付いて来ていた。


「あれは……、兄さんか。」
「アイオロスさん?」


近付くにつれ、次第にハッキリとする姿。
アイオリアに似た体格と髪色、それは紛れもなくアイオロスさんだった。
私達は草原に向かい合って座り込んだまま、彼がこちらに来るのをジッと待った。





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