私達三人は、暫く、その場でぼんやりとしていた。
優しい風に吹かれて、姉さんの墓とその背後に広がる青い空を黙って見つめていた。
遠くから流れてくる風は、新しい草木の香りを多分に含み、私達の鼻孔を擽る。
日差しは暴力的に強くとも、爽やかな初夏の朝を感じさせる、そんな瞬間だ。


もし姉さんが生きていたなら、私は今、ココにはいなかった訳で。
アイオリアと恋に落ちるどころか、出逢う事すらなかった訳で。


姉さんの死は悲しいものだけれども、それも運命の長い長い糸の一部なのだと思うと、凄く不思議な気分になる。
彼との出逢いは姉さんの死が導いたもの。
いや、姉さん自身が私をこの場所に導いてくれたんだ、アイオリアに出逢うために。
胸がいっぱいに締め付けられる。
でも、それは苦しい痛みとは違う、何処か心地良さすら感じられる甘い切なさ。


「……ぅおーい!」


風が運んできたのは草木の香りだけでなく、誰かが私達を呼ぶ声をも乗せてきた。
あの声は誰だろう?


「あれは……、デスマスクか?」
「珍しいな、こんなところにアイツが来るなんて。」


恐ろしい程、目が良いのね、二人は。
どんなに目を凝らしても、私には微かな人影しか分からないのに。
それも聖闘士故の身体能力なのかしらと、ぼんやりと思う。
そして、彼は瞬きする程度の短い時間に、私達の元へと辿り着いていた。


「どうした? デスマスク。」
「あぁ、嬢ちゃんがよ。アンタに用があるから来てくれって。」
「……私に?」


一体、何なのだろうか?
沙織さん、昨日は何も言っていなかったけど、急に思い出した事でもあったのかしら。
頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げていると、そんな私に代わって、アイオリアがデスマスクさんに尋ねた。


「何か急ぎの用があるとか仰っていたのか?」
「いや、別に。何も聞いちゃいねぇが、ちょっとアンタと話がしてぇ、って程度だと思うぜ。」
「そう……、ですか。」
「にしてもよ、人遣いの荒ぇ女神様だぜ。たかがアンタを呼ぶためだけに、黄金聖闘士の俺様を使うなんてな。」


グチグチ文句を言いつつ、ズボンのポケットから取り出した煙草を咥えるデスマスクさん。
だが、そこが姉さんの墓の前だと気が付いたのか、一瞬ハッとすると、直ぐに手を合わせ祈りを捧げる仕草をみせる。
それを終えると、おもむろに取り出したライターで、咥えた煙草に火を点けた。


「アテナがお待ちだ。行こうか、浅海。」
「うん。」
「あ、ちょっと待て。」


背を向け歩き出した私達を、その場に残っていたデスマスクさんが呼び止めた。
ピタッと立ち止まり、三人共に振り返る。


「オマエ等は行って良いぜ。用があンのはアンタだけ。」
「……俺?」


デスマスクさんが呼び止めたのは、どうやらアイオロスさんのようだった。
アイオロスさんは自分を指差し、不思議そうに首を傾げる。
直ぐにデスマスクさんの方へと戻り掛けて、だが、ハタと立ち止まると、アイオリアの方へと視線を向けた。


「俺の事は気にするな。行ってて良いぞ。」
「あぁ、そうさせて貰う。行こう、浅海。」


私がウンと一つ、軽く頷くと、当たり前と言わんばかりにアイオリアが私を抱き上げ、軽やかに走り出した。
そんなアイオリアの態度には、もう慣れたとは言っても、アイオロスさんとデスマスクさんの視線をヒシヒシと感じていた私は、そっと俯いて、恥ずかしさに赤く染まった顔を隠した。





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