沙織さんはテラスにお茶を用意して、私達を待っていた。
大きな木が暴力的な日差しを遮り、居心地の良い木陰を作っている。
木の陰は涼しげで、それでいて見晴らしの良い景色。
夏の気配をいっぱいに感じ取れる風景を前に、自分自身は木陰に身を置いて。
朝の光を浴びて輝く十二宮を見下ろしながらお茶だなんて、なんて贅沢なのだろう。


アイオリアは初め、同席する事を遠慮した。
女同士の時間を、邪魔したくないと思ったのだろう。
それに、昨夜は結局、私が沙織さんのところへお泊りするという話はなくなってしまったし。
だが、沙織さんの「構いませんわ。貴方も一緒に。」という一言により、彼も午前のティータイムに参加する事が決定した。


良く冷えたアイスティーが、渇き切った喉に潤いを与えてくれる。
暑い日差しと、アイオリアに抱きかかえられてきたという羞恥のせいで、私の喉はカラカラだった。
喉を通り過ぎる冷たい感覚が、萎んでいた私の心を奮い立たせてくれるような気がする。
一杯目のアイスティーをあっと言う間に飲み干したところで、沙織さんがおもむろに口を開いた。
この暑い中でも、彼女はにこやかな笑みを絶やさない。
その慈愛に満ちた優しい瞳で私を真っ直ぐに見つめ、傍に置いてあった小さな箱を、そっと差し出した。


「浅海さん、これを……。」
「これは?」
「今朝、こちらに届いたのです。どうぞ中を見て下さい。」


何の事だか分からず、私は疑問符を浮かべたまま箱に手を掛けた。
何故だか分からないが、箱を開く手が小さく震えていた。


「っ?!」
「分かりますか? 浅海さん。」
「これ……。これ、姉さんの……。姉さんの、服?」
「えぇ、そうですわ。」


小さな箱の中にキッチリと折り畳まれて入っていたもの。
それは子供用の真っ白なワンピースだった。
姉さんと私が、それぞれの養父の元へと引き取られていった、あの日。
その日も姉さんは、真っ白なワンピースを着ていた。


「残ってたんですね、まだ……。」
「浅香さんの養父となったウチの社員、彼に探すようにお願いしていましたの。本当に残っていて、私も驚いてますわ。」


私が今、着ているのも真っ白なワンピース。
亡き姉さんを偲び、ココに来てからずっと、私は白いワンピースを身に着けていた。
だが、目の前に広げた姉さんの服は、私が着ているのとは比べ物にならない程に小さくて。
十歳の子供が着ていたものだ、それは当然なのだろうけれど。
でも、当時はとても大人に見えていた姉さんが、実はこんなに小さかったのだと知って、胸の奥から溢れ出てくる悲しみの感情を、私は止められなかった。


姉さんの服に顔を押し付け、私は泣いた。
直ぐ傍に沙織さんとアイオリアがいる事も忘れ、私は溢れる想いのままに涙を流し続けた。





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