まだ朝早いというのに温度の高い風は、真夏に向けてのカウントダウンのように感じられる。
見上げる空には雲一つなく、青い空がこの聖域を包んでいた。


私は額の汗を手の甲で拭うと、自分の前にいる二人の男性の大きな背中を眺めた。
後ろ姿は本当に良く似ている。
髪の色が違わなかったら、間違ってしまうかもしれない。


もし、アイオリアと間違って、アイオロスさんの背中に抱き付いてしまったら、彼はどう思うだろう?
アイオロスさんは、きっと照れたように笑って、「俺はリアじゃないよ。」と言いながら、私の頭をグシャッと撫でてくれそうな気がする。
でも、アイオリアは……。


アイオリアはそれを見た瞬間に、絶対に怒ってムスッと押し黙るだろうな。
そして、また夜に激しく私を求めてくるに違いない。
昨日の夜のように、熱く濃厚過ぎる愛で貫いてくるだろう……。


そこまで想像して、私はクラッと目眩を覚えた。
こんな炎天下で、考える事ではなかったわ。
想像だけでのぼせて、顔が熱くなっていく。
あぁ、私ってば、いつからこんなに恥ずかしい事を、サラッと考えるようになったのだろう。
再び手で汗を拭うと、息を大きく吐いて、呼吸と心の乱れを整える。
そして、もう一度、目の前にいる二人の背中に視線を移した。


二人は姉さんのお墓に花を供え、祈りを捧げているところだった。
先に祈りを捧げた私は、後ろで二人の祈りが終わるのを待っていた。
何処からか流れてきた風が、淡い色をした二人の短い髪を優しく揺らす。
決して涼しくはない生暖かい風が、私達の身体に纏わり付き、そして、また遠くへと流れていった。


「ゴメンな。俺までついて来ちゃって。」
「いえ、そんな事……。それよりも、ありがとうございます。アイオロスさんは姉さんと面識がないのに、花まで供えて頂いて……。」
「良いんだ。彼女は生前、俺の墓に花を供えてくれていた。逆賊の汚名を着た俺の墓――、まぁ、墓と言っても形だけのものだったが、そこへ恐れる事なく来てくれていた。」


目を細め、遠くを見つめるアイオロスさん。
その目は、目の前に広がる景色を見つめているようで、でも実際は遠い過去の景色を見ているのだと思った。
彼が沙織さんを助け、逆賊となる前の聖域の景色を。


「会ってみたかったな、彼女に。そして、ありがとうと伝えたかった。」
「アイオロスさん……。」


遠くを見ていた瞳が、空へと向けられる。
まるで、そこに姉さんがいるかのように、彼は胸に手を当てて、細めていた目を閉じた。


姉さんも、きっとアイオロスさんに会いたかっただろうと思う。
沙織さんを救った彼に会って、話をしてみたかっただろう。
彼が本当の英雄である事、この聖域中の誰が知らなくても、姉さんだけは知っていた。
だからこそ、姉さんは毎日のように彼の墓に花を供えに行っていたに違いない。


アイオロスさんが手を下ろし、目を開くと同時に、強い風が吹いた。
まるで祈りに応えるかのような強い風は、姉さんが風になって私達の元へと来たのかと思えるように、私達の身体をフワリと包み込んだ。





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