「……で、丁度良かったとは、一体、何の事ですか?」
「そうでしたわ。貴方にお願いがありましたの。」


沙織さんはにこやかに微笑むと、今の今まで私達が話し合っていた事を、掻い摘んで彼に説明し出した。
その話を聞きながら、彼はその端整な顔を次第に歪めていく。
全てを聞き終わった頃には、深く眉を寄せて、考え込むように口元を手で押さえていた。


「それで、俺に何をしろと?」
「浅海さんが聖域に行くまでの間、彼女のお世話を頼みたいのです。」
「俺を……、疑ってはいないという事ですか?」


どうやら彼は、例の『金色』で表される人達の中に入っているらしい。
話を聞いて、自分も目的の人物に該当するだろう事に気が付いたらしく、真剣な、鋭いと言っても良い視線を沙織さんに向けた。


「カノンがどちらの人物にも該当しない事は、明白ですもの。浅香さんが亡くなった日、貴方は海界におりましわね。それに、この十三年間、聖域に足を踏み入れる事もなかった。」
「……確かに。」
「ですから、安心してお任せ出来るのですわ。」


だが、彼はまだ納得していないようだった。
息を呑んで、二人の遣り取りを見守る私の視界の中で、彼は心の警戒をまだ解いてはいない。
そんな雰囲気が漂っているのが、私にもはっきりと分かる。


「俺が仲間を庇うとは、思わないのですか?」
「思いませんわ。貴方はそんな人ではありません。そのくらい分かっておりますわよ。」


短い沈黙の後、彼がフーッと大きな溜息を吐いた。
その瞬間、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
そう感じた。


「流石です、アテナ。やはり貴女には敵いません。分かりました、引き受けましょう。ただし、聖域に到着するまでですが、宜しいですか?」
「構いませんわ。その後の事は、シオンに任せますから。」
「分かりました。聖域に送り届けるまで、彼女の事は俺に任せて下さい。」
「宜しく頼みますわよ、カノン。」


二人の間の話が尽き、部屋の空気も元の緩やかなものに変わる。
彼は私の方をチラッと見ると、小さく息を吐いた。
沙織さんは、同じく私を見ると、私を安心させるように小さく頷き、それから、また彼へと視線を戻す。


「それで、カノンは何か用事がありましたの?」
「あ、そうでした。聖域関係の書類が山積みになっているので、早めに処理して頂きたかったのですが。」
「分かりました。直ぐ行きましょう。それでは、カノン。浅海さんに聖域の詳しい話をして上げて下さいね。」
「承知しました。」


そして、沙織さんは今後の事に対しての激励の言葉と、別れの挨拶とを私に告げると、優雅に部屋から出て行った。





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