ミロの他に執務室にいたのは二人。
アルデバランさんと、アフロディーテさん。
どうやらミロとこの二人が、今日の執務当番らしかった。


「昨日、崖崩れが起きた時間って、ちょうど今くらいの時間だろ? だったら、皆、ココにいたよな。シオン様も、カミュもアフロディーテも。」
「あぁ、確かにそうだね。」


私達が昨日の話を切り出すと、ミロとアフロディーテさんが顔を見合わせて頷く。
十時を過ぎて、女官さん達がお茶を運んできてくれた後、直ぐの事だったので、ハッキリと記憶に残っていたようだ。


「書類も随分溜まっていたし、昨日のその時間は、黙々と執務をこなしていて、誰も席を離れなかったよ。誓っても良い。」
「あぁ、俺も誓って席を離れてない。」


という事は、シオン様を含む昨日の執務当番メンバーは、皆、アリバイ成立だ。
では、他の人はどうだったのだろう?


「アルデバランはどうしていた?」
「俺か? 俺は白羊宮に行っていた。」
「ムウさんのところですか?」


アイオリアが話を振ると、アルデバランさんは苦笑しつつ、バツが悪そうに答えた。


「シオン様にはしっかり静養しろと言われていたのだがな。どうも宮の中で大人しくしているというのは苦手で……。ムウのところにでも行けば、何か手伝える事でもあるかと思ってな。」
「で、白羊宮へ?」
「あぁ、ちょうど聖衣の修復をしていたので、その手伝いをしていた。貴鬼もいたぞ。」


ムウさんとアルデバランさんにも、アリバイが成立って事ね。
そこに貴鬼クン――、ムウさんのお弟子さんだという少年もいたと言うのなら、嘘はないと思える。
ならば……。


「やはり、怪しいのはサガ、か?」


ボソリと呟いたアイオリアの声。
周りの皆は肩を竦めたり、小さく溜息を吐いたりして、同調はしないが、誰一人、反対もしなかった。


だが、その時――。


「残念だが、サガもその時間は双児宮から動いていない。」
「シャカッ?!」


執務室の扉が静かに開き、中へと入ってきたのは、三日前、十二宮の階段の途中で出会った、あの神秘的な感じのする人だった。
黄金聖闘士にしては細身の身体に長く透き通った金の髪を揺らし、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる姿は、それだけで私を圧倒する何かがある。
威圧感というのか、その迫力に、すっかり飲まれて、私は目を見開くばかりだ。


「忘れたのかね、アイオリア。昨日、自分が私に頼んだ事を。」
「そう言えば……。」
「思い出したかね。そうだ、私はキミに頼まれて双児宮に行っていた。一人にしておくと、サガはこっそりと仕事をするから見張っていてくれとの、キミの言葉を受けてな。」


言われてみれば昨日、あの崖に行くために人馬宮へと向かっていた途中、処女宮に立ち寄ったわ。
アイオリアがシャカさんに、何やら短く言葉を掛けていたみたいだったけど、私には聞き取れなかったから、それが何かは知らなかった。
昨日、双児宮を訪れた時、サガさんがこっそりと書類を持ち込んでいたのを見つけたアイオリア。
それでサガさんを一人にしておくのが心配になって、あの時、シャカさんに見張りを頼んだのだ、きっと。


「最初は面倒だとは思ったがね。サガと二人で話を出来る機会はそうないし、なかなか有意義な時間だったよ。珍しくキミに感謝しよう、アイオリア。」


そう言って、シャカさんは手にしていた書類の束をシオン様のデスクの上に置いて。
そして、入ってきた時と同じように、音もなく静かに執務室から出て行った。





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