「あ、浅海。良かった、元気そうじゃないか。しっかし、まだ数日も経ってないってのに、凄い久し振りな気がするなぁ。」


黄金聖闘士の執務室に入ると直ぐ、声を掛けてきたのは書類が山積みになったデスクから顔を上げたミロさんだった。
サガさんが倒れた後、彼が仕事を引き受けてから、まだ二日しか経ってないというのに、酷くゲッソリした顔をしている。
余程、仕事が大変なのだろう。
サガさんの次に彼が倒れたらどうするのだろうと、ちょっと心配になってしまった。


「そりゃあ、ゲッソリもするさ。だって、あれから自宮に帰ってもいないんだぜ。睡眠時間は一日三時間程度だし。殺す気かって、言いたくもなるよ。」
「それもこれもお前が悪いんだろ、ミロ。サガの仕事量は、この程度じゃ済まなかったそうじゃないか。それを思えば、このくらい大した事はない。執務をサボった罰だな。」
「ちっ、分かってるよ。それくらい。」


アイオリアの言葉にプッと頬を膨らませる仕草が、愛嬌があって何とも可愛らしいミロさん。
疲れた顔はしていても、まだまだ元気そうだと分かり、少しホッとした。


「で、ミロさん。えっと――。」
「ミロ。」
「……え?」


言い掛けた私の言葉を遮ったミロさんに強い眼差しを向けられて、私は戸惑いを覚える。
真っ直ぐに私を見つめる彼の目は海のようにキラキラとした青い色をしていて、アイオリアの緑の瞳とはまた違う宝石のような美しさをしていた。


「俺の事はミロで良い。カミュの事だって呼び捨てにしてただろ? だったら、俺の事もミロって呼んでよ。何か『さん』付けされると余所余所しくってさ。」
「は、はぁ……。」
「別に余所余所しくても構わんだろう。馴れ馴れしいのも、どうかと思うぞ。」
「何でだよ! 折角、こうして知り合ったんだから、もっと仲良くなりたいじゃん!」
「ミロが浅海と仲良くなる必要は、何処にもない。」
「ちょ、ちょっと、アイオリアッ!」


ミロさんと私の間に割り込むようにして入ってきたアイオリアは、御機嫌斜めで毛を逆立てている猫みたいに酷くピリピリとしていた。
何だか、睨み付ける目がギラギラしていて、物凄く怖いんですが……。


「お前、独占欲強過ぎ! 俺だって浅海と仲良くなりたいし! 大体、いつから浅海はアイオリアのモノになったんだよ?!」
「ふんっ! 悪いがミロの入る隙など、俺達の何処にもありはしない! 俺と浅海は、きの――。」
「わーわーわー! ストップ! ストーーップ!!」


ヒートアップしたアイオリアが、とんでもない事を暴露しそうになって、私は慌てて彼等の間に割り込んだ。
腕をいっぱいに伸ばし、ピョンピョンと飛び跳ねて、背の高いアイオリアの口を何とか無理矢理に塞ぐ。
その甲斐あってか、危ないところで口を噤(ツグ)んでくれたアイオリアは、だが呆気に取られた顔をして私を見下ろしていた。


「落ち着いてよ、二人共。特にアイオリア! こんなトコで、こんな意味のない言い争いして、恥ずかしいと思わないの? ほら、皆も変な目でコッチを見てるよ。」
「あ、いや、その……。すまん、つい熱くなって……。」
「俺もゴメン。悪かったよ、浅海。」


多少、呆気に取られたままの二人だったが、素直に謝りヒョコッと頭を下げて見せた。
その仕草は、大きな身体をした美丈夫の二人が並んですると、何とも可愛らしくて、可笑しかった。


「分かってくれてありがとう、ミロ。」
「あ……、あぁ。いや、ははっ。」
「呼び捨てにされたくらいで照れるな。」
「うるさい。放っておけよ、アイオリア。」


それでも、まだ軽い小競り合いを止めない二人は、まるで小さな子供がじゃれ合っているような、そんな風にも見えて。
喧嘩するほど仲が良いって言うけど、この二人、本当はとても気が合うんじゃないのかと、そう思った。





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