結局、アイオリアに抱き上げられたまま、教皇宮まで上って来てしまった。
途中、好奇の目に晒され、かなり恥ずかしい思いをしながら。
入口の前でやっと、彼は私を降ろしてくれた。
だが、地に足が着き、ホッと息を吐くと同時に、アイオリアの長い腕が伸びてきて、私の腰を引き寄せた。


「やっ……、な、何? そんなにくっ付かなくても……。」
「ココでは誰が危険で、誰が安全かは分からないからな。用心に用心を重ねて、なるべく俺の傍を離れない方が良い。」
「それにしたって、これは……。」


くっ付き過ぎだわ。
これじゃ、傍に寄り添っているというより、ほぼ抱き締められている状態に近い。
よりにもよって、ココは教皇宮よ。
こんな風に堂々とイチャついて良い場所ではないと、私は思うのだけど。


「ね、アイオリア。歩き難いんだけど……。」
「少しくらいは我慢だ。」


何をどう言っても、離れる気はないんだわ。
それにしても本当に恥ずかしい。
勤務中の女官さんとか、皆でコッチをジロジロ見てる。
何だか、物凄く視線が痛い。


「ちょっとだけ離れてくれれば済む問題なのに……。」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何も……。」


アイオリアの気持ちも分からないではない。
昨日のあの崖崩れ、あれが人為的なものに寄るならば、必ず犯人がいる訳で。
だとすると、私を始末する事に成功しなかったからには、必ずまた私を襲ってくるのは間違いない。
相手が黄金聖闘士であるなら、アイオリアも気が抜けないだろう。
だからこそ、私を抱き締めてでも傍を離れないのが一番安全、そういう考えに至ったのだ。


「でも、ねぇ。これはちょっと……。」


溜息も吐きたくなる程の密着具合。
アイオリアには周囲の好奇に満ちた視線を感じ取る感覚がないのかしら?
それとも神経が鈍い?
他人の視線や噂なんて、どうでも良いと思えるの?
ならば、その図太い神経を少し分けて欲しいくらいだわ。


「浅海。」
「何? アイオリア。」
「言いたい事があるなら、ハッキリ言ってくれ。さっきから何だかしどろもどろで要領を得ない。」
「はぁ……。」


はっきり言ったところで、彼が却下するのは目に見えてるんだけど。
言うだけ無駄な気がしないでもないが、言って欲しいというならハッキリ言うべきよね。


「あの、恥ずかしいから、もう少し離れて欲しいの。私を守るといっても、こんなにくっ付いている必要はないでしょ?」


そう言うと、アイオリアはその凛々しい眉毛をグッと寄せて、厳しい顔付きになる。
こういう表情は歴戦の勇者というか、大きな戦いを潜り抜けてきた人だけあって、やはり相当の迫力がある。
間近で彼のキツい眼差しを見て、尻込みする思いだった。


「ダメだ。何が危なくて、誰が危険かも分からぬ場所で、浅海を守り抜くためには、抱き締めていても足りないくらいだからな。」


やっぱり……。
思った通りに却下してくれるのね、アイオリア。
私は小さく溜息を吐くと、満足気に私を包み込む彼の腕に抱かれて、廊下を進んでいった。





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