「あぁ、やっと終わった……。」


カラカラと投げ出したペンがデスクを転がる音が響き、同時にアイオロスは「う〜ん!」と声を発しながら大きく伸びをした。
一体、どれだけの時間、仕事に没頭していたのだろう。
気付けば窓の外が夕焼けに染まっている。
夏程には陽が長くないとはいっても、任務から戻って執務室に顔を出したのは早朝の事。
それから食事を摂る事すら忘れて集中していたとは、ただ驚きの一言に尽きた。


「何だ、アイオロス。そんなオヤジ臭い声など上げおって。まだ三十路前ではないか。これしきの事で。」
「その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ、サガ。」


疲れた顔に苦い笑みを浮かべたアイオロスの視線の先には、肩と首をグリングリンと回すサガの姿。
一体、どれだけの時間、この仕事に拘束されていたのかは知らないが、相当に気力と体力を磨り減らしたのだろう。
目の下には青黒い隈が浮び、頬が心なしが痩せて見える。
前ボタンを数個外したために僅かに肌蹴た法衣の隙間からチラリと覗くのは、肩に貼られた湿布の一部。
昨日の朝、任務に向かう前にココへ寄った時、サガは既に徹夜三日目だった。
それからこの激務が彼を襲ったとなると、疲労の上に疲労を重ね、幾ら黄金聖闘士とはいっても倒れかねないだろうレベルの労働過多に違いない。


「何がどうなってこうなったかの説明は明日聞こう。とりあえず休め、サガ。」
「いや、それは無理だ。お前も知っているだろう。今、この聖域にいる黄金聖闘士は私とお前の二人だけだ。」
「それがどうした?」
「任務明けで、お前だって疲労困憊しているだろう、アイオロス。私は良いから、お前が先に休め。」


二人共に休む訳にはいかない、何かが起こった時に対処出来る人物がいなくなってしまう。
サガはチラリと視線を横に落とした。
サガの真横のデスクでは、アシュが突っ伏して眠っていた。
昨日の昼過ぎから、ずっとココでサガの仕事を手伝い、一緒に徹夜までしたのだ。
疲れていて当然だろう。


「お前の大事な彼女を、こんなになるまで扱き使ってしまったからな。侘びとは言えんが、やはりお前が先に休むべきだ。」
「しかし……。」


どちらも相手の身体を思いやり、休憩を譲り合う。
二人共に休めれば問題ないのだが、他の黄金聖闘士がいない現状で、どちらも動けない状態というのは避けなければいけない。
極度の疲労状態を思えば、サガを休ませて上げたいと思うアイオロス。
任務明けから直ぐに執務を強行したことを思えば、アイオロスを休ませて上げたいと思うサガ。
どういう訳か、こういう事に関しては二人揃って頑固だったりするせいで、なかなか自分が休もうとは言えずに時間だけが過ぎていく。





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