11.予想外の出来事



これは一体、どういう事だ?


翌日の早朝。
アイオロスが任務から戻って来てみると、人馬宮はおろか、磨羯宮も空っぽで人の気配がない。
アシュは何処かへ出掛けているのだろうかと思いながら、とりあえずは報告を先にしてしまおうと教皇宮まで上がってきた。
そして、そこで思わぬ光景に出くわしたのである。


「何でアシュがココに? 何故、サガと一緒に仕事をしている?」


執務室の中には、そこにいる筈のないアシュがいて、まるでサガの秘書にでもなったかのように付ききりで仕事をしている。
一体、何がどうしてこうなったのか?
まるで分からないアイオロスは、ただ呆然と立ち竦んで、その光景を眺めていた。


視界の中、そんなサガの元に女官やら文官やらが入れ替わり立ち替わり訪れて、指示を仰いでは、またバタバタと足早に去って行く。
そうしてやっと何事か予想外の事が起きたのだろうと思い至り、アイオロスはハッとしてサガのいるデスクへと駆け寄った。


「おい、サガ。これは一体……。」
「アイオロスか。任務、ご苦労だったな。だが、女神は今、聖域の外に出ている。私も報告を受けている暇がない。見ての通り猫の手も借りたい状態だ。悪いが、今直ぐに、その聖衣を脱いで、これを手伝ってくれ。」
「は? ――って、ええっ?!」


展開の速さについていけないアイオロスが呆然としている間に、その手に大量の書類を渡したサガは、彼が事態を飲み込むのを待たずして、山積(サンセキ)した目の前の仕事に戻る。
そんなサガと、その直ぐ後ろでカタカタとキーボードを叩くアシュの姿を交互に眺めやり、未だ呆けた状態から戻れないアイオロスは、ただただサガのデスク横に立ち尽くすばかりだった。


目の前では、普段はどちらかといえばおっとりとした様子のアシュが、必死になってキーボードを叩いている。
不意に手を止め、プリントアウトした書類をサガに渡すと、また別の書類を手渡されたようで。
再び、パソコン画面と睨めっこしながら、キーボードを叩く事に没頭するアシュ。
こんなに必死な様子で仕事をする彼女を、これまで一度も見た事がない。
初めて見るアシュのそんな姿に、アイオロスの目は奪われていた。


「アイオロス。何をボーッとしている。今は一分一秒でも惜しい。早く手伝ってくれ。」
「あ、あぁ。すまない……。」


サガの声に急かされ、聖衣を身体から外して邪魔にならないよう執務室の隅に置くと、自身のデスクで渡された書類の処理を始めた。
最初のうちこそ、視界の片隅にチラチラと映るサガとアシュが気になって仕方なかったのだが、どうにも今は緊急事態らしい。
意識を散漫にした状態で仕事をしている場合ではない。
気持ちを切り替えた後のアイオロスは、同じ場所にアシュがいて、自分の目の届くところで同じ仕事をこなしているのだと思う事で、逆に集中力を高めていった。





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