一般人の居住区内にある自分の家に帰り着くと、そこはサウナのように酷い蒸し暑さだった。
教皇宮と同じく、この家にも冷房なんて素敵なものはない。
窓を開け放し、風の通りを良くして、何とか普通に呼吸出来るくらいにはなったけど。
それでも暑い事には変わりなくて、私はうんざりしながら夜のひと時を過ごした。


寝苦しい夜だった。
それは勿論、この蒸し暑さのせいだろうと思う。
それに加えて、夕方のアイオロス様の表情が頭から離れず、私は切ない溜息を零しながら、何度も寝返りを打った。


浅い眠りを繰り返し、中々、深い眠りへと落ちる事が出来ない。
このままでは、明日は寝不足のまま仕事へ行かなければならなくなる。
それは避けたいと思えども、眠れないのをどうする事も出来ずに、私はキツく目を瞑った。
もう何度目になるか分からない寝返り。
横向きだった身体を仰向けに戻す。


と――。


不意に思い掛けない圧力が両肩に掛かり、浅い眠りから急速に意識が引き上げられた。
次いで、身体に圧し掛かってくる確かな重み。
そして、人の感触と体温の熱さ。
私は驚いて、パッと瞳を開いた。
が、暗闇に慣れない視界には、ぼんやりと人型のシルエットが映るだけ。
恐怖で身が竦み、私は微かな声を発するだけで精一杯だった。


「……だ、誰?」
「あ、起きちゃったか、アナベル。」


聞き慣れた声に、ハッとした。
この声、夕方に聞いたばかりだ。
良く知っている人、毎日、執務室で顔を合わせている、あの人の――。


「あ、アイオロス、さ、ま……?」
「あぁ、そうだよ。」
「……ど、どうして?」
「どうしてって言われても……。まぁ、見ての通り。」


やっと闇に慣れた視界に、アイオロス様の顔がいっぱいに映っていた。
こんなに至近距離から、彼の顔を見た事などない。
暗闇に光るブルーグリーンの瞳が、溢れん程の情熱を湛えて、私を真っ直ぐに見つめていた。


胸が激しい音を立てて鳴り出す。
これは夢だろうか?
アイオロス様の事を想い過ぎて、こんなとんでもない夢を見てしまっているのだろうか?


だが、ゆっくりと伸びてきた手が私の頬を包み込み、その感触と熱い程の体温で思い知らされる。
これは現実だと、夢ではないと。
その瞬間、胸の高鳴りは、全身を打ち付けるような衝撃に変わった。
身体が一つの心臓になってしまったかのように、ドクンドクンと大きく波打つ感覚。


これって……、これって、もしかして……?





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