「はぁ。夕方とはいえ、まだまだ暑いですね。」
「そうか?」
「どうして、そんなにケロッとしていられるのです?」
「どうしてって、言われてもなぁ……。」


階段を二・三段下りただけで、私はもうへたばってしまいそうだった。
夕方六時を越えているというのに、熱中症になりそうだ。
私は隣で平然とした顔をしているアイオロス様を、恨めしげに見上げた。
どこをどう鍛えれば、こんなに丈夫な身体になれるのだろう?
それとも、もしや特異体質?


「何? 今日はヤケに俺の事、見てるね。」
「いえ、あの、それは……。その爽やか笑顔が眩しいなと、思いまして。この暑さにその笑顔は有り得ないなぁ、と……。」
「有り得ないって、酷い言い様だなぁ。」


アイオロス様は苦い笑顔で、自分の髪をバリバリと掻き毟る。
その後、何かを思い付いたのか、パッと表情を明るくして、彼は階段の途中に立ち止まった。


「良い事を思い付いた。俺がアナベルを抱き上げて、居住区まで走って連れてって上げるよ。少しでも早く帰れる方が良いだろ?」
「とっても素敵な考えですね! ……と、言いたいところですが、無理です。」
「どうして?」


少し屈んで顔を覗き込んでくるアイオロス様から逃れるように、私は顔を背けた。
そうしないと、赤く染まった顔が彼に見つかり、不審に思われてしまうもの。
今の、このドキドキしている気持ちが、何とかバレないようにしなければと、私は手を額にかざして空を見上げた。
そこには、カッと照り付ける太陽が、夕方とは思えないくらいに、その威力を発揮している。


「だって、ただでさえ暑いのに、抱き上げられては、もっと暑くなるに違いないですもの。」
「ホンの少しの時間だよ?」
「アイオロス様は暑くないでしょうけど、私は間違いなく暑いです。」


誤魔化しの言葉だった。
本当はアイオロス様に抱き上げられる事を想像しただけで、目眩がしそうだったのだ。


そう、私は彼に恋をしていた。
いつも変わらぬ爽やかな笑顔に目が眩み、そして、心も眩んでしまった。
暖かな風のように、皆を、私を包み込んでくれるアイオロス様。
彼の事を密かに想い、こうして近くに接するだけで幸せだと思うのに、これ以上、傍に近付いたなら、私はきっと発光して溶けてしまうのではないだろうか。


「残念だな……。」


そう言って、本当に残念そうに微笑んだアイオロス様の反則的に魅力的な切ない表情。
それを目の当たりにして、益々、私の胸がドキドキとしたのは、言うまでもないだろう。





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