困惑した私の表情から伝わったのだろう。
アイオロス様は押さえ付けていた私を上から見下ろして、ニコッと笑って見せた。
真夜中のこんな時間、こんな状態、こんな体勢なのに、まるでいつもと変わらぬ爽やかな笑顔で。


「そうだよ、気付いた? キミを夜這いしに来たんだ、アナベル。」
「よっ……?!」


夜這、い……、夜這い?!


言葉が出なかった。
何で、どうして、アイオロス様が私を?
冗談ではないの?
本当に私を襲いに来たというの?


不意に、昼間の事を思い出す。
何度も感じた、あの熱視線。
あれは、やはりアイオロス様だったのだろうか。


私は首を回して、窓の方を確認した。
カーテンの向こう側で、窓が開いている気配はない。
女の一人暮らしだ、聖域内とはいえ、下衆な雑兵辺りが忍び込んで来ないとも限らない。
私は戸締りだけは、いつも念入りにしていた。


「でも、どうやって入って来たの、ですか? 鍵、は……?」
「鍵? あぁ、それなら……。」


そう言ってアイオロス様は、何かを握った手元を私に見せた。
見覚えのある形、それは私の家の鍵だった。
だが、自分の鍵はちゃんと自分で持っているし、その鍵には愛用のキーホルダーが付いていない。


「無用心だよ、アナベル。デスクの引き出しに入れっ放しじゃ、合鍵を作ってくれと言っているようなものだ。」
「あ、合鍵……?」


確かに、仕事中は引き出しの中に鍵を置いたままにしていた。
アイオロス様は、私がデスクから離れた隙に、いつの間にか鍵を持ち出していたのだろう。


でも、何で……。
何で、アイオロス様が私を襲いに、夜這いなんてしに来たの?
まるで分からなくて、私は混乱した瞳を彼に向ける。
それを受けたアイオロス様は、ただでさえ近い顔を更にグッと近付けて、私の耳元に囁いた。


「どうしても、キミが欲しいんだ。だから、来た。」
「そんな……。アイオロス様、何で……?」



混乱から逃れられず目を見張るばかりの私に、彼は全身が溶けてしまいそうな眩い笑顔を投げ掛けて。
クラリと目眩に襲われた私の耳元に、今まで聞いた事のないような甘い囁きを、吐息と共に零す。


「アナベルが好きだから、もうこれ以上、我慢出来ないんだ。だから、ゴメン。今からキミを貰うよ。」


……す、き、……好き?


アイオロス様が、私の事を好き?
嘘でしょう?
まさか、そんな事が……。


夢と現実の区別が付かない展開に、私の頭はパニックに陥る。
だが、そんな事はお構いなしに、アイオロス様の大きな手が、私の夜着を剥ぎ取りに掛かった。
それに気付き、慌てて彼を押し退けようと試みる。


「やっ、待っ……、んっ!」


「待って。」という言葉は、声になる前に飲み込まれた。
言葉を発しようとした唇が、彼の熱い唇に塞がれて、言葉も呼吸も、全てが飲み込まれてしまった。
そして、その後はただ、その巧みな舌に翻弄されて。
蒸し暑さなど、もう分からなくなっていた。
感じられるのは、ただただアイオロス様の熱い身体と、執拗な唇の感触ばかり。
あまりの熱さに彼から逃れようと何度も試みたけれど、押さえ付けるアイオロス様の力には敵わなかった。


「綺麗だよ、アナベル。」
「やっ、見ない、で……。」


キスを交わす内に、あっという間に剥ぎ取られてしまった夜着と下着。
満足そうに唇を離したアイオロス様は、自身の上体を持ち上げて身体をいったん離すと、上から下まで堪能するようにゆっくりと私の身体を眺めた。
その熱い視線に晒されて、私は全身から火が出そうな気分になる。
何とか逃れようと身体を捩るも、アイオロス様の力の前ではビクともしなくて。
羞恥に赤く染まった顔を逸らした私の耳に、彼が零した微かな吐息の音が聞こえた。





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