ソファーに降ろされたカプリコちゃんは、その場に留まらずに、直ぐに床へと飛び降りて、部屋の中を駆け回り始めた。
一方で、アイオリア様と思われる金茶の猫ちゃんは、不安そうにキョロキョロとしながら、大人しくデスマスク様の横に座ったままだ。
私は腕に抱いていた黒猫ちゃん、もといシュラ様を、アイオリア様の横に降ろした。
二匹並んで私を見上げてくる姿は……、ううっ、本当に可愛らしい。
ギュッと抱き締めてスリスリしたい、その小顔にスリスリしたい。


「アンヌ、気持ちは分かるが我慢しろ。ソイツ等、見た目は可愛い猫だが、中身はアレな成人男子だ。しかも、二人共にムッツリだしな。」
「わ、分かっています……。」
「ホントに分かってンのかぁ?」


私の読み取り易い心の中など、デスマスク様には全てお見通しなのだ。
思わず吐きそうになった溜息を飲み込み、私は伸ばし掛けていた手を引っ込めて、猫ちゃん達と同じ高さになるよう床に屈み込んだ。
きゅるんと目を丸めて見つめてくる猫ちゃんの頭を、二匹同時にポフポフと撫でるだけ。
それだけで我慢する。
あぁ、こんなに可愛らしい生き物にスリスリ出来ないだなんて、とんだ拷問だわ……。


「で、アンヌ。何がどうなって、こうなったよ?」
「わ、分かりません。今朝、目が覚めたら、シュラ様が黒猫ちゃんに変わっていて……。」
「て事は、夜までは普通だったのか。」
「はい……。あの、アイオリア様の方は?」


どうやってデスマスク様が発見したのだろう?
まさか、アイオリア様が猫の姿のままで自宮を飛び出し、そのまま巨蟹宮へと駆け込むとは考え難いし。
かといって、デスマスク様が獅子宮で猫に変わったアイオリア様を見つけ出したとも思えないし。


「アイオロスのヤローだ。アイツが、朝っぱら早くに、俺の宮に駆け込んで来やがった。コイツを抱えてな。」
「では、発見者はアイオロス様ですか。」
「おう。」


なのに、姿が見えないのが不思議だった。
アイオリア様、特に猫ちゃんと化したアイオリア様を、文字通り猫可愛がりする彼が、こうしてデスマスク様に預けて姿を消してしまうものだろうか。


「あ、もしや、アイオリア様が猫ちゃんになったのを見て、パニックに陥ったとか……。」
「パニックつーか、まぁ、いつものアレだ。」


アレと言われて思い至るのは、アイオロス様の分かり易い行動パターン。
早朝トレーニングにアイオリア様を誘うため、獅子宮へ。
だが、アイオリア様の姿が見えない。
一頻り捜した後、ベッドの下で小さくなっている猫ちゃん発見。
これは以前、アイオリア様が猫化した時と同じ姿だと直ぐに気付き、ベッド下から引っ張り出す。
その後、いつもの加減を知らない調子で無理矢理に抱き締めたり、撫で回したりと、一方的に可愛がる。
暫くしてから、グッタリと瀕死状態になった猫ちゃんに気付き、慌ててデスマスク様のところへと連れてきた。
と、いったところでしょうか。


「大正解。アイツ、どンだけ学習能力ねぇンだかな。前の時に、あンだけ無理に可愛がるなっつったのに。」
「アイオリア様、災難でしたね。」
「ミイィィ。」


もう一度、金茶の猫ちゃんの頭を優しく撫でて上げる。
すると、目を細めたアイオリア様の頭を、まるで私の真似をするかの如く、長くしなやかな前足を伸ばしてきたシュラ様が、ポフポフと頭から首に掛けてを撫でるように突っ付いたのだった。





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