「……で、シュラ様。どうして、そんな姿になってしまったのですか?」
「ミャミャミャ、ミャン。」
「ミャンでは分かりません。ちゃんと人の言葉で説明してください。」
「ミャー。」


はぁ……。
もう溜息しか出てこない。
猫になってしまったシュラ様は当然、猫の言葉しか話せないし。
どうしてこうなってしまったのかと尋ねても、可愛らしい鳴き声が返ってくるばかり。


まぁ、想像が出来る範囲では、また何やら怪しげなお茶かお菓子かをアフロディーテ様に勧められて、それを何も考えずにシュラ様が口にしてしまったといったところかしら。
シュラ様の事だ、深く考えずに食べ物に釣られてしまう可能性は高い。
そうだとしても腑に落ちないのは、昨夜までは猫化の兆候が微塵も見えなかった事。
いえ、その兆しがあったのなら、こんなにも驚かなかったのだけれど。
兎に角、双魚宮産薔薇毒由来の怪しい薬を口にして、朝まで変化が起きなかったとしたら、ちょっと効果が遅過ぎる。


「本当に……、何があったのですか? 何をしたのですか、シュラ様?」
「ミミャッ?」


自分だって分からんと言わんばかりに、眉間を寄せて首を傾げる黒猫ちゃん。
という事は、彼にも心当たりはないのだろう。
確かに昨日は、シュラ様は朝から夕方まで聖域の外で任務に当たっていたし、アフロディーテ様は教皇宮での執務当番で、二人は顔を合わせていない筈。
そうなると、アフロディーテ様の改良した危険な薔薇毒以外の要因があったのかしら?


「……おーい、アンヌ。居るかぁ?」
「あ、はい、居ます。どうぞー。」


そこに響いてきたのは、お馴染みの声。
ドカドカという聞き慣れた足音と共に現れたデスマスク様だった。
慌ててソファーから立ち上がり、入口のドアへと向かった私。
その際、シュラ様を抱き上げたのは、多分、無意識の動作だ。


「あ、デスマスク様……。」
「オマエ、それ……。」


デスマスク様と私の声がハモる。
ドアを開けた瞬間、目に飛び込んだのは彼が腕に抱いていた二匹の猫ちゃんの姿だった。
間違いなく、デスマスク様も同じ。
その視線が、私の胸元に抱かれている黒猫ちゃんに釘付けになっている。


「えっと……、その黒い猫ちゃんは、アイオリア様のところのカプリコちゃんですよね。で、もう一匹は……。」
「オマエの抱いてるソレと同じだろうぜ。」
「やっぱりですか。」
「ヤッパリだよ。」


デスマスク様が右手に抱いているのは、私が抱っこするシュラ様と瓜二つな黒猫ちゃん。
彼女は目を細めてコチラを窺っている。
一方、デスマスク様の左腕の中で、心なしか怯えた様子に見える金茶毛のモフッとした猫ちゃんは、うん、物凄く見覚えのある猫ちゃんだ。
黒猫になったシュラ様と一緒に、じゃれて遊んで、取っ組み合いして、暴れ回っていた、猫化したアイオリア様の姿そのまんま。


「何で、このような事に……。」
「知らねぇよ、俺に聞くな。」


私の身体を押し退け、ズカズカと部屋の奥へと入っていくデスマスク様。
猫ちゃん二匹をソファーの上で離し、自分もドッカリと座り込むと、彼はバリバリと銀の髪を掻き毟りながら、溜息なのか呻き声なのか分からない音を、「うあー!」と喉の奥から漏らした。





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