窓の外は、いつの間にやら真っ暗になっていた。
だが、俺達は変わらずベッドの上で抱き合ったままだ。
宣言通りというか、あれから俺はずっと、アイリーンをこのベッドの上に釘付けにしていた。
体内に籠もる熱は治まりようもなく、何度抱いても抱いても、再び燃え上がるばかりで。
思うままにコイツを抱いて、疲れて眠り、目覚めてはまた激しく愛し合う。
そンな事を繰り返して、俺達は今日という一日を過ごしていた。
――クスクス……。
「……なンだぁ? 何がおかしい?」
暗い部屋に、不意に響いたアイリーンの、小さく噛み殺した笑い声。
理由を聞いても、コイツは俺の腕の中で笑い続けるばかりで、俺の問いに答える気はサラサラないらしい。
ちょっとムッとした俺は、アイリーンをベッドに押え込むと、赤い痕が残る首筋に強く口付けた。
「やっ! あ、あぁん!」
「ほら、早く言え。言わねぇと、どうなるか……。」
俺は今日の何度とない交わりの中で、そこがコイツの弱点だと見抜いていた。
首を振って避けようとするのを押え付け、音を立てて更に強く吸い上げる。
「やん! 言います、言いますからぁ……。あっ!」
「ホントか?」
この上もなく可愛らしくも色っぽい反応に、また俺の中にムクムクと湧いてきやがる欲望の熱。
が、とりあえずは一旦、攻める手を止め、自分を抑えるために深く息を吐いた。
「あの、ですね。デスマスク様の髪の毛って、想像してたよりも、ずっと柔らかいんだなぁと思いまして。」
「はぁ? 髪ぃ?」
「この銀色の髪、好きです。あと、この紅い瞳も……、凄く好きです。」
アイリーンが腕を伸ばして撫でる髪を、自分も軽く摘んでみた。
自分で触ってる分には分かんねぇが、他人には、そンな硬そうに見えてンだな。
俺自身も気に入ってる外見的特徴を、コイツも気にいってくれたって事は、正直に言えば嬉しい。
「俺も好きだぜ。オマエの金茶色の髪と、緑の瞳。」
「あ、有難う御座います。あの……、デスマスク様は、私の何処を気に入ってくださったんですか? 外見ではないですよね?」
嬉しさのあまり、ついガラにもなく相手を褒め返してしまったのがマズかった。
俺の髪に指を通したまま、更に突っ込んで聞いてくるアイリーンに、しまったと思った時には、もう遅い。
参ったな、クソ。
正直、こういう事は、照れ臭くて言いたくねぇンだが……。
マトモに答えるか、はぐらかすか。
どうするか迷ったが、目の前の期待に満ちた瞳を見れば、はぐらかすなんて出来そうにない、そう感じた。
「あ〜、それはだな……。」
自分の意思とは関係なく、顔が熱を帯びるのが分かる。
ヤベェ、こンな顔見られた日には、後々、何を言われるか。
髪に触れていた手を引き離すと、俺はグイッとアイリーンの身体を抱き寄せた。
「あ、デスマスク様。苦しっ!」
俺の顔がコイツから見えないようにと、自分の胸に顔を押し付けて抱き締めた。
少々、苦しそうだったが、まぁ、我慢出来る範囲だろう。
胸に顔を埋めているせいか、アイリーンの声や、息遣いまでも、直接、俺の身体に響いて聞こえてくるのが、不思議と心地良かった。
「オマエの笑った顔だな、俺が好きなのは……。意識せずに、顔をクシャクシャにした、あの表情。」
「私の……、笑い顔?」
「あぁ。あの笑顔にヤラれちまった。」
「笑顔……、ですか。」
それはアイリーンにとって、思い掛けない答えだったンだろう。
俺の胸の中に収まったまま、何やら考え込んでいる様子だ。
多分、自分が笑う時、顔をクシャクシャにしてる事も知らなかったンだろうし、それが好きだなんて言われてもピンとこないのかもしれない。
「まぁ、今はもっと好きな表情があるケドな。」
ゆっくりと腕の力を緩める。
すると、俺の胸の中から解放されたアイリーンは、緑の瞳を期待に輝かせて俺を見上げてきた。
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