あの日、教皇宮の書庫で二人を見掛けた時。
シュラとアイリーンが交わしていた会話の内容。
今にして思えば、あれは恋愛がどうのとかいう、そういう類のモンではなかった。
シュラが窪みにアイツを閉じ込め、まるで関係を迫っている、そンなように見えたから、ついつい俺も勘違いしちまったが。
今、改めて思い返してみると、そんな内容ではなかった筈だ。


『もう何も問題はない。』
『躊躇する必要など何処にある?』


確か、そンな事をアイリーンに言って、アイツが何がしかの決意をするのを促している様子だった。
全てを理解した今、一から総合して考え直してみれば分かる。
その『何か』ってのは、たった一つしかないだろう。


「オマエはアイツに、真実をアイオロス達に告げろと、そして、ヤツ等に妹である事を認めてもらえと、そう促してたンだな? そうだろ、違うか?」


中々、口を割らないシュラに、俺は少しずつ言葉巧みに追い討ちを掛けていった。
こうして僅かばかりに外堀を埋め、中堀を埋めて逃げ道をなくしてやれば、その内、全部を話すしかなくなってくる。
こういった言葉の遣り取り、駆け引きに掛けては絶対の自信がある俺と、元より寡黙で話下手なシュラ。
勝負にならないのは、コイツ自身も分かっている筈だ。


「デスマスク。お前……、それを聞いて、何をどうする気だ?」
「どうするって、オマエ。そりゃあ……。」


顔を上げたシュラの鋭い眼差し、真っ直ぐ俺を射抜く漆黒の瞳に宿る真剣さに、胸の中で何かがコトリと動いた。
そうだ。
俺は、何を、どうする気でいたんだ?
何のために、それを聞こうとしていた?


「……決まってンだろ、そンな事。」
「何だ、俺には分からん。ちゃんと言葉にして言え。」
「あぁ、言うぜ。その役に立たねぇ耳の穴かっぽじって、良〜く聞けよ。イイか、俺は真実を全部知った上で、アイツに『好きだ』って言うつもりだ。そのために、全てを知っておかなきゃいけねぇ。そうだろ、シュラ?」


気が付けば、そンな事を口にしていた。
そして、その言葉を口走った自分自身が、シュラよりも、何よりも、激しく驚いていた。


あぁ、そうか。
俺はそのつもりで、全てを知ろうとしたんだな。
全く、俺とした事が、こうなってやっと自分の気持ちに気付くなんてな。
ホントに、どうかしちまったとしか思えねぇ。


「そう、か……。そうなのか……。いや、すまん。流石に、少し驚いてな。」


俺の言葉に、シュラは呆然と、それこそ酷く驚いた顔をしていた。
だが、目の前に座る俺の真剣な瞳を見て、気が付いたのだろう。
これが冗談でも、嘘でもなく、本気の言葉だと。
シュラの中で戸惑いの気持ちは、かなり大きいようだったが、なじる事も、怒る事もせず。
混乱した頭の中が漸く落ち着くと、納得した様子で頷き、それから、全ての真実を話すために、小さく息を吐いた。





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