まるで溜息のように長い息を吐き、目を閉じたシュラ。
一呼吸置いて目を開き、俺を真っ直ぐに見遣ると、おもむろに口を開き、事の次第を話し出した。


「アイリーンと出会ったのは、十三年前の事だ……。」


随分と躊躇っていた割には、淡々と話すシュラの低い声。
俺は一切の口を挟まず、黙って耳を傾けた。


十三年前、それはまだ聖域が混乱に陥る前――、アイオロスの事件が起こる前の事だ。
俺達は時折、必要なものを揃えにロドリオ村や、そこでも買えない物があれば、アテネ市街へと足を伸ばす。
その時のシュラも、そうだった。
アテネ市街に必要な買い物に出掛けたシュラが、偶然に立ち寄った店。
その雑貨屋で、アイリーンと出会ったそうだ。
当時、アイツはまだ六歳で、見た目には今のような女らしさはなく、まるで男の子のようだったと言う。


「今よりも、ずっとアイオリアに良く似ていた。ショートカットの短い髪がクリクリと踊り、澄み切った緑の瞳は強い輝きを持っていて。俺は一目で、アイリーンが彼等の親戚なのではないかと疑った。」


疑いは、会話を進めている内に、確信に変わっていった。
彼女のその声。
当時、まだ声変わりをしていなかったアイオリアの声と、良く似通っていたのだ。
喋り方、アクセントの癖までも。
そして、シュラは湧き上がる興味には勝てずに、その場で彼女に聞いていた。


『お前、聖域に家族か親戚はいないか? 俺は、お前と良く似た少年を知っているのだが。』


僅かに驚いた表情をみせた半瞬後、その顔に浮かんだ満面の笑み。
シュラの質問に対する彼女の答えは、単純明快だった。


『はい。私には母親の違う兄が二人います。二人共、今は聖域にいるそうです。聞いた話ですけど……。』


そうして、アイリーンの口から語られた事実。
それは聖闘士だったアイオロス達の父親が、妻を亡くした後に密かに通っていた女がロドリオ村にいた事。
そして、その女の子供が自分である事。
父が任務先で亡くなった後、母親も後を追うように病気で亡き人となり、彼女は叔母の経営するアテネの雑貨店に引き取られて、今は一緒に暮らしている事。
その全てが聖域では知られていない事実だった。
勿論、アイオロス達兄弟にも、だ。


「つまり、異母兄妹だったってコトか?」
「ああ、そうだ。そして、異母妹がいる事実を、アイオロス達も全く知らなかったんだ。」


偶然のこの出会いに、大きな運命の流れを感じたシュラ。
その日以来、用があってアテネ市街に赴く度に、その雑貨店に寄り、彼女と話をするようになった。
そして――。


『シュラ様。私の夢は、いつか兄さん達に会って、一緒にお話する事なんです。一生、叶わない夢かもしれないけれど……。』


そう、その言葉が全ての『きっかけ』だった。
この時、シュラの中に芽生えた思い。
彼女の夢、自分ならば、間違いなく叶えてやれる。
そうだ、ならば彼等に会わせてやろう。


この時のシュラは、まさかあんな事件が起こる事、予想だにしていなかっただろう。
そして、熱心にアイリーンと、その叔母を説得して。
意気揚々と、彼女を聖域へと連れてきたのだった。





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