3.彼女の秘密



教皇宮を飛び出した俺が向かったのは、そこから下りて三番目の宮。
俺の同期で、良い事も悪い事も共に乗り越えてきた悪友でもある、あの目付きの悪い男が守護する宮――、磨羯宮だった。


アイツは今日、休みの筈だ。
昨日、話していた時には、出掛ける予定もないと言っていたのを覚えている。
となれば出不精のアイツの事だ。
間違いなくプライベートルームの中で、ゴロゴロと一日を過ごしている筈。


「シュラぁ! いるかぁ! ちょっと顔出せや!」


――ドタドタドタッ!


俺はワザと大きな足音と、派手なドアの開閉音を立てて、部屋の中へと入っていった。
ゆっくり休んでいるだろうアイツの神経を苛立たせ、まるで挑発するように。


「シュラぁぁぁっ!!」
「煩いぞ、デスマスク! そんな大声を出さんでも、聞こえている! お前は何処のマフィアだ!」


部屋の奥から現れたシュラは、明らかに不機嫌な様子。
タダでさえ悪ぃ目付きがキリキリと吊り上り、元来の悪人顔が、より一層、凶悪になっている。


「折角の休みだというのに、何の用だ?! 下らん用事なら、叩っ斬って、ゴミと共に捨てるぞ!」
「おっかねぇなぁ。ンな目くじら立てンなや。オマエにな、ちょっと聞きてぇコトがあってよ……。」


宥めるようにポンポンと肩を叩くと、どうやら、それまでの怒りよりも、俺の質問に興味が移ったらしい。
分かり易いシュラの反応を見て、俺は勝手知ったるリビングのソファーにドッカリと座った。
そンな俺の姿を見て諦めたのか、湧き上がる興味に勝てなかったのか、シュラも渋々ながら腰を落とす。


「……で、何なんだ? お前の聞きたい事というのは?」
「それなら、アレだ、アレ。この前、オマエが教皇宮の書庫で言い寄っていた、あの女の事だ。」
「言い寄ってなどいない。お前の目は、いつからそんな節穴になった?」
「分かってるよ、ンな事くらい。聞きてぇのは言い寄ってた事じゃねぇ。その女自体の事だ。」


元々、渋い表情をしていたシュラの顔が、一気に曇る。
内心、かなり苦々しい気持ちなンだろう事が見て取れたが、俺は話を止める気は皆無だった。


「あの女……、アイオロスとアイオリアの血縁なンだろ?」
「っ?!」


ハッキリと目に見て分かる反応。
シュラの常に無愛想な顔付きが歪み、切れ長の目が見開かれている。


「教えろ。なンでアイツは、その事を本人達に言わない? オマエはアイツと、一体どういう関係なんだ?」
「…………。」


長い沈黙が、俺達の間に横たわる。
シュラは眉を寄せ、顔を顰め、深く考え込んでいる様子で。
俺はコイツが自ら口を開くまで、目を逸らしたその顔を睨み付けながら、根気強く待っていた。





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