黄金聖闘士の執務室へと戻ると、そこでは既に言い合いが始まっていた。
いや、言い合いというよりは、集まった他の黄金聖闘士様達を前に、デスマスク様が一人で文句を吐き捲っている、という方が当っている。


「まぁったくよぉ。イイ大人が、しかも黄金聖闘士様がこンだけ揃っていて、手も足も出ねぇとはなぁ。どうなってンだ、オイ。」
「……デスマスク。」
「おー、シュラか。オマエも、この役立たず共のお仲間かぁ。つか、アンヌ。なンでオマエまで居やがンだ、オイ?」
「す、すみません……。」


予想外にデスマスク様の攻撃の矛先が私に向いて、咄嗟に謝ってしまった私。
が、それに対して、シュラ様が思い切り顔を歪めたのが見えた。
これは、もしやまた、あの恒例の蟹と山羊との貶め合いが始まるのでは……。
今は戯れ合ったり、いがみ合ったりしている場合ではないのに。


「アンヌが謝る必要などないぞ。休み中に呼び戻された腹いせに、お前に八つ当たりしてるだけだ。ヤツが勝手にムシャクシャしてるだけで、お前のせいではない。」
「は、はい……。」
「なンだぁ? 今更、フェミニスト気取りか、メーメーさんよぉ。普段、コイツを散々に扱き使っておいて、こーンな時だけ紳士気取りか? あ?」
「止さないか、デスマスク。今は時間が惜しい。」
「チッ……。」


結局は、サガ様の仲裁が入って、デスマスク様の毒舌は閉ざされた訳だが、勿論、それで彼の腹の虫が治まる筈もない。
イライラと足を揺らし、数秒に一回は「チッ。」と舌打ちの音が聞こえてくる。
いつもならば、ムウ様辺りから注意の声が飛びそうなものなのだが、それもない。
先程、デスマスク様が言った通り、これだけのメンバーが揃っていながら、手も足も出なかった事に対する不甲斐なさと、休暇中の彼を呼び戻さざるを得なかった事への罪悪感からか、今日は流石に誰一人として彼の非礼を咎めようとはしなかった。


「で、俺はどーしたらイイんだ?」
「現状では、こちらからはどうする事も出来ん。相手が動くのを待つ事になる。」
「多分、そう長くは待つ事もないでしょう。このまま、あの鬼神が黙って大人しくしているとは思えませんからね。」
「そうかよ。なら、動きがあるまで休ませてもらうぜ。」
「あぁ、そうしてくれ。」


背を向けたデスマスク様は、そのままズカズカと足音を立てて執務室を出ていってしまった。
誰もが、そんな彼の行動を放っておく中、シュラ様だけが後を追う。
少しだけ迷ったけれど、私も後を追う事を選び、慌てて静かな廊下を駆けていった。


「……一服か。」
「おう。突然、呼び戻されたンだ。一息くらいつかせてくれ。」
「女はどうした? 諦めたのか?」
「ンな事、ある訳ねぇだろ。連れ帰ったぜ。緊急事態だからな。巨蟹宮から一歩も出るなっつって、部屋ン中に押し込んできた。」
「そのような事をしたら、また逃げられるぞ。」
「うっせーよ。」


息を切らした私が外へ出ると、教皇宮の中庭で煙草を吹かすデスマスク様と、ベンチの横に立って彼を見下ろすシュラ様の、そんな遣り取りが聞こえてきた。





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