その後も続く、シュラ様とアイオリア様の言い合いや罵り合いをしながらの汗だくトレーニングを、私は真横に立ち尽くし、呆然と眺めていた。
こうして見ていると、仲が悪いように見えて、実際は、とても仲が良いのではないかと思える。
まるで二匹の猫がじゃれ合ってるみたいだ。
金色のクリクリした癖っ毛の人懐っこい猫と、艶々した毛並みの良いツンと澄ました黒猫。
一見、仲が悪そうに見えて、実は互いに理解し合ってる、みたいな感じ。


「重いっ! お前、無駄に筋肉付け過ぎなんじゃないのか、アイオリア?!」
「筋肉に無駄なんてものはない。俺の立派な筋肉が羨ましいからって、そのような負け惜しみを言うな。」
「いつ、俺が負け惜しみを言った?! 羨ましいなどと思った事もないわ! 大体、そんなに筋肉ゴリゴリになってしまっては、ジャンピングストーンのような返し技は掛けられなくなる!」


強く否定の言葉を返しながらも、次第に息が上がっていくシュラ様。
それはそうだろう。
八十五キロもあるアイオリア様を背に乗せて腕立てをしながら、全力で罵って(寧ろ叫んで)いるのですもの。
あれでは、余計な体力を使うわよね。


「えぇい、面倒! グダグダ言ってないで集中して腕立てしろ、シュラ!」
「ぐ、うぐが……、ぐ、が……。」


ただ、目の前で繰り広げられる言い争いの激しさとは裏腹に、背の上にアイオリア様を乗せたままのシュラ様が、汗を振り零しながら物凄い速さで腕立て伏せをしているという光景は、何だか微笑ましくすら見え、思わずクスリと笑いが込み上げてきた。
しかし、私が零した小さな笑いにも気付かない程、腕立て伏せと、そして、互いへの罵り合いに注意が向いているのだろうシュラ様とアイオリア様は、こちらを見咎める事もなかった。
多分、私の存在を忘れてしまっているわね、あれは……。


だったら、いつまでも二人の事をぼんやりと見ていても仕方ない。
私は気付かれぬようこっそりと、その場を立ち去ると、キッチンに向かった。
あのトレーニングが終わる頃には、丁度、夕食の時間だ。
今の内に、さっくりと食事の用意をしてしまっておくのが良いだろう。
私は、リビングの方から微かに聞こえてくるシュラ様とアイオリア様の罵声をBGMに、テキパキと夕食の準備に取り掛かった。


そして――。


一時間ちょっと経った頃。
夕食を作り終えた私は、未だリビングでトレーニングを続ける二人のところへと向かった。
絶え間なく聞こえていた罵声に、よくもまあこんなに頑張ってトレーニングしてるものだわと、呆れ半分に思いながら歩を進める。
だが、聞こえてくる罵りの声は変わりないものの、リビングで繰り広げられていた光景には若干の変化があった。


「……あれ?」


先程は、アイオリア様が背に跨って、シュラ様に腕立て伏せをさせていた。
でも、今は何故か、シュラ様が背に乗って、アイオリア様が必死の形相で腕立て伏せをしている。
いつの間にか、形勢逆転して立場が入れ替わったのかしら?
兎に角、目の前でトレーニングを続ける二人は、共に大量の汗を流し、海にでも飛び込んできたかのように全身がぐっしょりと濡れていた。





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