あれ?
こんなシチュエーション、前にも何処かであったような……。
えっと、こういうのって、何て言うんでしたっけ?


「な、な、な、何をしているんだ! ま、また、そんなハレンチな事を!」


キーンと耳の奥に響く声に顔を上げれば、そこには身体をワナワナと震わせたアイオリア様が、こちらを見下ろし立ち尽くしていた。
握り締めた拳には血管が浮き上がり、怒りで吊り上がった目は真っ赤に充血していて、まさに鬼の形相。
足元には手に持っていたのであろうバスケットが、転がり落ちている。
シュラ様に跨っている私のこんな姿を見て取り乱し、手から落としてしまったのだろう。


「ただのトレーニングだ。」
「た、ただのトレーニングで、何故、アンヌがお前の背に乗っている、シュラ!」


あ、思い出したわ。
『デジャブ』って言うんだったわよね、こういうの。
でも、この場合は、昨日と全く同じシチュエーションが繰り返されただけなのだから、デジャブとは言わないのかしら?


「普通に腕立てしても、大した運動にはならんからな。錘の代わりだ。」
「錘、代わり……、だと?」


少しだけ冷静になったのだろうアイオリア様は、真っ赤だった顔色も次第に落ち着いていき、怒りに吊り上がっていた目も緩んでいった。
それと同時に、疑うように目を細め、腕立てを続けるシュラ様を胡散臭そうに見下ろす。


「また宮主の特権とか言って、無理にアンヌにそういう事をさせているのではないのか?」


当たってます。
大いに当たってます、アイオリア様。
口下手な筈のシュラ様に言葉巧みに誘導されて、何だかんだで気が付けばこんな状態に……。


「仕方なかろう。他に頼める者がいないのだからな。」
「なら、俺が錘になってやる。アンヌ程度の重さでは、物足りないだろう?」
「なっ?! よせ、アイオリア! お前じゃ重過ぎる!」
「黄金聖闘士のクセに、これくらいで何を言う。丁度良いトレーニングだろ。」


唖然と二人の遣り取りを見ている内に、私はアイオリア様の手に寄って、シュラ様の背から引き摺り下ろされていた。
それに代わって、うつ伏せたままのシュラ様を押さえ付け、デスマスク様みたいなニヤリ笑顔を浮かべたアイオリア様が、徐にその背に跨ろうとしている。


途端に上がる強い抗議の声。
そして、抵抗して暴れるシュラ様。
だが、上から乗られては分が悪いのか、いとも簡単にあっさりとアイオリア様に主導権を握られてしまった模様で。
その背に黄金イチの肉体を誇る彼を乗せ、明らかな積載オーバーのために、シュラ様の腕と身体がプルプルと震えている。


「ほら、早く腕立ての続きだ、シュラ。」
「ぐっ、重い! お前じゃ、アンヌの二倍はあるだろ! トレーニングには重過ぎる!」
「失礼な。俺はそんなに重くないぞ。俺の体重は八十五キロだ。」
「失礼なのはお前だ! アンヌはせいぜい四十二キロ程度だ。彼女の倍よりお前の体重の方が重い!」


大正解です、シュラ様。
でも、いつの間に私の体重を……。
あ、前に抱き上げられた、あの時でしょうか?
それにしても、一回、抱き上げただけで正確に私の体重を把握するなんて、シュラ様って一体……。





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