「まだバテるのは早いぞ、アイオリア。これしきでダウンなど、黄金聖闘士の名が廃る。」
「ぐっ! ば、バテてなどいない、ぞっ! 俺はまだまだ、元気……、いっぱい、だっ!」


そう言いつつも、全身の筋肉がプルプルと震えているアイオリア様。
ギリギリと歯を噛み締め、気合だけでシュラ様を乗せた身体を持ち上げようとしている。
凄い、腕の血管が切れそう……。


一方、涼しげな顔をして背に跨っているシュラ様といえば。
相変わらず無表情なのに、とても楽しんでいる事がヒシヒシと伝わってくる。


「あのぉ、お二人共……。お夕食の用意が出来ましたけど……。」
「あぁ、アンヌか。あと十回で終わる。それまで待ってくれ。」
「あと十回ですか……。一体、何回、こんな事をされているのですか?」
「十万回だ。」


じゅ、十万回っ?!
今、サラッと言いましたけど、本当に十万回?!
ゼロ二つ程、間違ってませんか?!
いや、千回でも凄いですけど、十万回って!
しかも、体重八十キロ越えのシュラ様を背に乗せた状態で。


「俺もそれだけやったんだ。アイオリアも同じだけやって貰う。」
「黄金聖闘士って、凄いんです、ね……。」
「何を今更。それよりも、この程度だと思われる方が心外だ。」


つまりは、「もっともっと凄いんだぞ!」って、仰りたいんですね、シュラ様。
そして、顔を強張らせて気合で身体を持ち上げようとしているアイオリア様も、その言葉にウンウンと頷いている。
黄金聖闘士にとっては、腕立て伏せ十万回(しかも筋肉質な成人男子を乗せた状態で)程度は、朝飯前って事なんだろう。
凄い、本当に凄いです。


「き、九……。じ……、十! 終わった! 終わったぞ、十万回! 早く降りろ、シュラ!」
「どわっ! 急に起き上がるな!」


最後の一回が終わると同時に、力任せに起き上がったアイオリア様によって、その背から振り落とされてしまったシュラ様。
ゴツッ! と鈍い大きな音が響いたところから思うに、かなり強かに頭を床に打ってしまったのではないだろうか?
いつも無表情な顔を、珍しく大きく歪めて、頭を擦りながら起き上がる様子に、少々、心配になる。


「痛っ……。」
「大丈夫ですか、シュラ様?」
「ちょっと油断しただけだ。問題ない。」
「騙されるな。アンヌに心配されたいがために、大袈裟に言っているだけだ。」
「大袈裟だと? 俺がいつ、そんな真似をした?」
「今、していただろう。黄金聖闘士が、この程度で痛がるなんておかしい。」


そして、再び始まるエンドレスな言い合い・罵り合い。
正直、そろそろお付き合いするのも飽きてきました。


「はいはい、お二人共、そこまでにしてください。お食事はアイオリア様の分も用意してありますから、ムサカが焼き上がるまでにシャワーを浴びて来てくださいね。」


汗だくの二人に、そう言い放ち、持ってきたバスタオルを手渡す。
案の定、シュラ様からは激しい抗議、アイオリア様からは歓喜の声が上がった。
だが、ややうんざり気味だった私は、シュラ様の文句をサラリと聞き流し、アイオリア様に向かってニコリと微笑んでみせた。





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