――夕方。


「何を怒っている、彩香?」
「怒ってない。」
「いや、怒っているだろ。」
「怒ってないよ。」


仕事を終え、磨羯宮へとぼんやり十二宮の階段を下りていた途中、後ろから追い駆けてきたシュラに追い着かれた。
どうにも昼間の彼女の事が頭から離れず、話し掛けられても、マトモに返事が出来ない。
元々、シュラも私も口数が多い方ではないから、いつも会話はあまり弾まないのだけど。
言葉を交わさなくても居心地の良い関係というか、傍にいるだけで和んだ空気になる、それがいつもの私達なのに。
今日の沈黙は息苦しくて、何とも嫌な雰囲気だった。


「理由を教えてくれ。じゃないと分からん。」
「何を?」
「彩香が、怒っている理由だ。」
「……。」


どう考えたって、シュラもこの嫌な空気に気付いている。
だから、いつもと同じ無言の中でも、私が怒っていると感じ取ったに違いない。


「俺が女官達から、プレゼントを受け取ったからか?」
「そう、だね……。」
「だが、それはいつもと変わらないだろう? 彩香だって、いつも苦笑しながらプレゼントの中身を覗いてたじゃないか。」
「うん。でも……。」


私だって、笑って見逃せない事もある。
いつもと同じならば、こんな気持ちにはならないけど、同じじゃないものが一つだけある。


そう、あの子だ。
あの子がシュラにプレゼントを差し出した時、シュラは一瞬だけ驚いた顔をして、そして、「ありがとう。」と小さく笑みを浮かべた。
無表情を崩さなかった他の子達への対応とは、違う。


「シュラ……、一人だけ違った対応した子、いたじゃない。どうして? どうしてあの子にだけ、微笑んで見せたりしたの?」
「それは……。」


見ていたのか? と言わんばかりに、驚きで目を見開いたシュラ。
無意識の誤魔化しなのか、自分の黒髪をクシャッと掻き毟る。
彼自身気付いていない、それは困った時に良く見せるシュラの癖だった。


「あの子は、他の子達とは違ったんだ。何と言うか、凄く真剣でな。心無い対応をするのは、あまりに可哀想で気が引けた。だから、つい……。」
「だから、怒っているのよ、私は! どうして分からないの、シュラ?!」
「彩香……?」


思わず高くなってしまった声を、私は抑える事が出来なかった。
ココが外だという事も忘れて荒げてしまった声を、落とす余裕すらなくて。


「彼女、真剣だったんでしょ? だったら、そんな気を持たせるような事をしたら、余計に傷付くわ。それくらい、何で分かんないのよ! 今頃、私と別れてくれるかもなんて、彼女、期待しているかもしれないわ。手応えを感じて、一層、シュラに夢中になるわよ、きっと!」
「そう……、だろうか?」
「そうよ。そうに決まってる。酷いよ、シュラ……。」


何故だか分からないけど、酷く惨めで、とても悲しくて。
涙が頬を伝った。
でも、それをシュラに見られたくなくて、唇を強く噛んで俯いた。





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