絶対温度黄金聖闘士の執務室前。
何やらソワソワとした様子でうろつく何人かの女官の姿。
バレンタインデーとか、誕生日とかに良く見掛ける光景。
今日もほら、可愛らしくラッピングした包みを抱えて、執務室の中を覗く子が数人。
だって、今日はシュラの誕生日だから。
「平気なの?」
「何が?」
女官仲間の子が、不思議そうに私を見て言う。
何故なら、私は仕事の手を止めはしないけど、たまにシュラの方をチラリと見ては、女の子に取り囲まれてたじろぐ彼の姿に、クスッと笑みを浮かべる程度だったから。
「心配じゃない? あんなに沢山の子からプレゼント渡されているのよ。」
「別に……。」
シュラは真面目な人だ。
キャーキャー言いながら自分に近寄ってくる女の子達に対して、気のある素振りは見せないし。
贈り物を受け取らない事はないけど、嬉しそうな顔をしたりはしない。
いつもの仏頂面で、「ありがとう。」の一言。
ただそれだけ。
そして、執務が終わって自宮に帰れば、苦い笑みを浮かべて、私にこう言うの。
「すまん、彩香。断れば良かったな。」
「良いよ、断るのも大変でしょう? それに折角のプレゼントだもん。断れば、女の子達もがっかりするだろうし。」
いつだって私を一番に思ってくれている。
だから、心配なんてしない、しなくて良い。
プレゼントを持った女の子達に囲まれる姿を見ながら、「私の恋人はモテるのね。」って、ぼんやりと思うだけ。
シュラは私から心を動かさないと、知っているから。
だけど、それは自信過剰だったのかもしれない。
人の心なんて分からない。
いつ何時、心が離れてしまうかもしれないし、私よりも、もっと好きだと思える相手に出会ってしまうかもしれない。
そう思ったのは、あの子のせいだった。
シュラを取り囲む他の女の子達とは、明らかに違う雰囲気。
キャーキャー騒いだりしない。
言葉もなく、ただジッと輪の後ろの方で、シュラの事を見つめているの。
離れた所から、その様子を見ていた私は、刹那、背筋にゾクッと悪寒のようなものが走るのを感じた。
あれは、本気の目だ。
あの子は、彼女は、憧れとかそういった類でシュラのところに来たんじゃない。
本気でシュラが好きで、本気で想っていて、本気で気持ちを伝えに来たんだ。
本能的に察した私は、もう微笑んでなどいられなかった。
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