猫耳メイドさんのお話。3*


 ───えっちの気持ちよさの最大が100%だとするなら、初めて抱かれてから4〜5度目のえっちで、100%の気持ちよさを得ることができる。
 という話を、どこかで聞いた。
 実体験に基づいた話らしいけど、個人差はあるし、そんなものはただのネタだと思って信じていなかった。

 でも、今更になって思う。
 あながち嘘じゃないのかもしれない、と。
 だってもう、お腹の奥が寂しくて寂しくて仕方ないんです。





「んっ、あぅ、あっ」

 自分のものとは思えない、甘ったるい喘ぎ声が室内に響き渡る。
 快感から逃れるように身を捩っても、両手首は頭上で拘束されたままで思うように動けない。
 お陰で必死な抵抗もままならず、私は本日、何度目かの絶頂を迎えていた。
 メイド服だって着たままだし、猫耳しっぽも健在中。
 そんな格好で大胆に両脚を開かされて、千春くんの顔が、けしからん場所に埋まってる。
 中心から溢れ出るえっちな蜜を、千春くんの舌が丁寧に掬い取った。

 達したせいで敏感になっているナカが、ジンジンとした疼きを私に伝えてくれる。
 もっと強い刺激がほしい、そう主張し始めたソコは私の愛液でしとどに濡れ、内股にも蜜を散らし始めていた。

 じゅる、と唾液を含んだ水音が下半身から響く。千春くんの濡れた舌先が、執拗に敏感な蕾をコリコリと捏ね回す。同時にナカを掻き回す指が、手前の奥を執拗に責め尽くしていた。
 そこは千春くんしか知らない、私の弱いところ。弄られる度にビクンッと派手に腰が跳ね、いやいやをするように首を振った。

「や、それ以上いじめたらイっちゃう……あぅ…」
「……ん? いきそ?」
「んっ、いく」
「いきたい?」
「いきたいっ……ふぇ」
「泣かないで。ちゃんとイかせてあげるから」

 違うのに。
 本当に望んでいるのはそれじゃない。
 わかってるのに言葉にする勇気が出ない。

 たっぷりと愛された身体はぐずぐずに蕩けていて、一番望んでいる彼自身の刺激を欲してる。
 身体も心も、ついでに濡れ具合も十分で、受け入れ体制も準備万端なのに、千春くんがそう簡単に、私が欲しがっているものを与えてくれるはずがない。
 性悪なことに、千春くんは私を焦らすのが大好きみたいだ。

 最後まで致したあの日から、もう3回以上彼に抱かれてる。
 さすがに身体も慣れたし、それ以前に私は、千春くんとの触れ合いでナカを慣らされていた。主に指で。
 ナカでの快感を覚えてしまったら、指だけじゃ足りなくなる。私の膣はもう、彼がくれる形も、快感も、全部覚えてしまったみたい。
 だから今、奥がきゅうきゅうして辛いのに、それさえも与えられず焦らしのオンパレードを受けている私は半泣きだ。

 舐められて、指でイかされるだけの行為はこれで何度目だろう。既に4回はイった気がする。
 回数はよく覚えていないけど、絶頂を迎える度に、体力を一気に奪われる感覚を味わう。
 額には汗の粒が浮かび、身体は既にクタクタ。挿れてくれないなら休憩させてほしいところ。
 勿論そんな時間を千春くんが与えてくれるはずがなく、私の身体は無情にも、再び上り詰めていく。

「っあ、またいっちゃ……あッ、……っ!」

 追い討ちをかけるように激しさを増した指の動きに、私はあっさりと全身を痙攣させる。
 はあはあと呼吸が乱れ、ぎゅっと閉じた瞳から涙がこぼれ、目尻を濡らす。

 ナカに埋まった指が抜けて、千春くんが上半身を起こした。
 うっすらと開いた視界の中に、優しげに微笑む顔が見える。頭を撫でられ、ちゅ、とこめかみにキスが落ちた。
 甘やかされている感覚に、うっとりとした吐息が漏れる。

「ん……千春、くん」
「……なに?」
「なんで、いれてくれないの……」

 もう私の中で羞恥心というものは薄れかかっている。
 頭がぼんやりして、気持ちよくなりたい気持ちだけが、心もカラダも支配していた。

「挿れてほしかったの?」
「うん……」
「んー、どうしようかな」

 もったいぶるような口調に涙が溢れてくる。
 意地悪も度が過ぎれば、ただのイジメです。

「ふえぇ」
「ああ、泣かないで。ほら」

 腕を引っ張られて身体を起こされる。ネクタイで拘束されていた両手首を、千春くんの手が解放した。
 やっと自由になった腕を、千春くんの体に巻き付けてしがみつく。胸に頬を擦り寄せれば、ゆっくり頭を撫でられた。

「今日はあんまり挿れたい気分じゃないんだよねー。意地悪した後に甘やかしたい気分」

 なんて、残酷な答えが頭上から降ってくる。
 その一言に怯みそうになった心は、何故か次の瞬間に火がついた。千春くんがその気になるように仕向ければ挿れてくれるんだって思ったら、またもや変なスイッチが入ってしまった。

 彼から身体を離して、ポロシャツをくいくい引っ張る。
 上へ上へと押し上げるように捲れば、私の意図を悟った千春くんが小さく吹き出した。

「脱がしてくれるの?」
「うん」
「いい子だね」

 千春くんも素直に応じてくれて、私の動きに合わせてくれる。ゆっくりとシャツを引き抜けば、引き締まった上半身が披露された。
 そのカラダに、ちゅっと私からキスを送る。
 されるがままの千春くんは、ゆっくりと私の頭を撫でながらその光景を見つめていた。

「珍しいね、莉緒から責めてくるなんて」
「んっ……」
「もしかしてスイッチ入っちゃったの?」

 その問い掛けに答えられなかったのは、彼の言葉の意味が純粋にわからなかったから。
 私は何かの拍子で従順な子になるようで、でも無意識だから自覚なんてない。
 千春くんが挿れたいって気分になるように尽くさなきゃ、そんな意志が脳内を埋め尽くしていて、彼の言葉の意味を深く考える余裕もなかった。

 もそもそ動く私の手が、千春くんの下半身に触れる。
 淫らな意志を纏った指先がベルトに触れたとき、「えっ?」と千春くんから驚きの声を上がった。

 その声音に、何故か加虐心を煽られて私の行動は大胆さを増す。
 弟達の着替えをよく手伝うから、男の人のベルトを外すのはお手のもの。難なく外してジーパンを脱がそうと引っ張った時、「こら」とたしなめるような声が落ちた。

 両手首を捕まれて動きを止められる。
 私が服を脱がそうとしている本当の目的に、千春くんも気づいたようだった。

「莉緒はそんなことしなくていいの」
「する」
「莉緒」
「するもん」
「できないでしょ」
「できるもん」

 売り言葉に買い言葉。
 千春くんの決めつけるような言い草が気に入らなくて、むっとしたまま断言する。
 でも、本当はできるかどうか不安で仕方ない。
 男の人を悦ばせる奉仕のやり方に、そういった行為があるのは知識として知っている。
 でもそんなことをするのは初めてだし、絶対に下手くそだし、そもそもやり方なんて当然だけどわからない。
 でも、私にも意地というものがある。
 このままでは引き下がれないのです。

「……莉緒、ほんとにいいから。そこまでやる必要ない」
「なんでっ、千春くん、こういうの嫌い?」
「嫌いっていうか……というか、どこでかじったのそんな知識。まさかまた美咲さん?」
「ちがうよ。自分で知識を蓄えました」
「最近の子はませてるねー」

 茶化しながら言いつつも、千春くんは腰を上げてくれない。
 ズボンを下げることができなくて、彼が行為を拒んでいる証拠だと実感させられて悲しくなる。
 しょぼんと頭を垂れると、ネコ耳としっぽもふにゃりと悲しげに沈む。

「そんなにしたいの?」

 力なく首を振る。

「したくないことは、無理にしなくていいんだよ」
「したくない訳じゃないけど、したいとは思ってなかったよ……でも」
「でも?」
「千春くん、いれてくれないから」
「え?」
「……うまくできたら、いれてくれる……?」

 すごく、馬鹿な発言だってわかってる。
 でも、もう奥が疼いて仕方ないの。千春くんが欲しい欲しいって、カラダが言うこときかないの。
 それに、千春くんのことも気持ちよくしてあげたいって思ってるのも本当だから。

 こうなったら、強行突破です。

「って、コラ。引っ張るのやめなさい」
「やるもん」
「わかったわかった。脱ぐから。急かすのやめて? ね?」

 そんな風に懇願されたら、従わずを得ない。
 とりあえず動きを止めて大人しくしてみたものの、両手だけは服を掴んで離さない。
 離したら覚悟が挫けてしまいそうで、離せなかった。

mae表紙tugi

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