猫耳メイドさんのお話。4* そんな私の頑なな態度に、千春くんも苦笑混じりに折れてくれた。脱ぎの体勢に入って、私も一緒にお手伝いをする。 否応にも視界に入ってしまうソレを直視する勇気はなくて、視線と意識は斜め下に向けておく。 「莉緒、ほんとにする気?」 「……す、る」 何度も断言した手前、撤回なんてできない。 怖気づきそうになる心を叱咤して、仄かに勃ちあがっているソレを、そっと握った。 指先から、熱と感触が伝わってくる。 ちょっとだけ、かたい。 「……え、えっと」 すると言ったくせに、この先どうしたらいいのか全然わからない。 撫でるのがいいのか擦るのがいいのか、はたまた舐めた方がいいのか。さすがにそれは性急すぎるかと思いつつ、いきなり擦っても痛いんじゃないかと思うと手が思うように動かない。 縋るように千春くんを見上げれば、困ったように微笑んでいた。 「だから言ったのに」 「う……」 「ま、その心意気だけは認めてあげます。はい、おいで?」 後頭部に添えられた手に引き寄せられて、顔の距離が一気に近づく。目を見張った私に、ちょっと強引なキスが落ちてきた。 貪るように口づけられて、唇の隙間をこじ開けるように、彼が舌を差し入れてくる。互いに絡み合う熱が、新たな快感を生み出した。 右手は依然として、彼のものを緩く握ったままだ。 「……ゆっくり、上下に動かして?」 唇を触れ合わせながら、そんな指示が下る。 その言葉通りに手を動かしてみた。 ゆっくり、ゆっくりと。 ただ上下に動かすだけの行為は単調なもの。 力加減も全くわからない。 「もう少し強く握ってもいいよ?」 「う、は、はいっ」 勢いよく頷く。 千春くんの表情はまだ余裕がある感じで、声は愉しげな響きを纏っていた。 やっぱり、私じゃ無理なのかな。 できないのかな。 内心落ち込んでいた時、手の中にあるモノがぴく、っと僅かに動いた、気がした。 「え?」 「……今の、よかった」 ぼそ、と聞こえた声音は、今まで聞いたことがない程に艶めいていてドキッとする。 今の、ってなに? わたし、何かした? 「ち、千春、くん」 「……もっかいやって。今の」 ……そ、そう申されても、私は今、なにをシてしまったんでしょうか。 状況判断もままならないままに、とりあえず行為を続けてみる。千春くんの表情の変化を見逃さない為に、視線はチラチラと彼の方へ。 先っぽを手の内できゅっ、と擦った時、微かに千春くんから、呻き声に近い吐息が聞こえた。 もしかして痛かったのかと、焦って力加減を緩めた時。突然、啄むようなキスが落ちる。 ───え? なんだろう。うまく言えないけど、今までの空気がガラリと変わった気がする。 「……千春くん?」 不安に駆られて呼び掛ける。 何かを堪え忍ぶように閉じられていた彼の瞳がうっすら開いた時、背筋をぞくっとしたものが走り抜けた。 欲を孕んだ彼の瞳。 そこには私しか映っていなくて、薄い唇から吐き出される吐息はやけに熱い。 余裕の無さそうなその表情は、今まで見てきた彼とは全く別人で。尋常ではない程の色気を纏い、私を戸惑わせる。 知らなかった。 千春くんは、こんな雄の顔を隠し持っていたんだ。 今までたくさんの彼を見てきたつもりだったけど、こんな、オトコの部分を隠し持っていたなんて、今までの私は知る由もない。 私が怯えないように、逃げ出さないように、千春くんはきっと、色んな感情や欲をずっと抑えてくれていたんだ。自惚れでも何でもなく、私は本当に、この人から凄く大事にされている。そう強く感じた。 そして同時に、千春くんのこんな表情を引き出したのは私だという事実に優越感すら覚えた。 もっと見たくて。 もっと悦んでほしくて、千春くんに我慢してほしくなくて、私は無意識のうちに彼の足元に身を屈めていた。 ゆっくりと口元を近づけていく。 私がしようとしている事に、今度は制止する声は掛からない。 降り注ぐ熱視線を受けながら、彼のモノをばくっと咥えた。 慣れない異物感に軽く咳き込みそうになって、ぐっと喉に力を入れて我慢する。 だって今咳き込んだら、千春くんは絶対に私を止めようとする。それだけはどうしても嫌だったから。 「っん……っ、ぅ、んッ……」 咥えたまま、舌をゆっくり動かしてみる。歯が当たっちゃうのが怖くて、動き自体はかなりのスローペース。徐々に溜まっていく唾液のせいで、ちゅるっと湿った音が漏れた。 少しだけ首を動かせば、今度はじゅぼ、と淫らな音を発する。卑猥な行為を連想させる湿った水音に、急激に込み上げてきた感情が爆発しそうになる。 でも、口淫も手の動きも止めなかった。 自分が何をしているのか、どんな格好で、どんな痴態を晒しているのかなんて考えちゃいけない。 何も意識しちゃだめ。 考えない考えない考えない。 考えてしまった瞬間に、私はきっと羞恥で死ぬ。 考える暇を作らないように、一心不乱に舐めては擦る。段差のある部分を舌先でなぞった時、またもやピクッと口の中で反応があった。 これはもしかして、痛いんじゃなくて気持ちいい反応なのかな? 一旦唇を離して、彼の様子を窺う。 「千春くん……」 「……、ん、どうしたの?」 「きもちいい……?」 千春くんの目元が、赤く染まってる。 熱っぽく掠れた声が、私の興奮を更に煽る。 「気持ちいいいよ」 「ほんと……? ほんとに……?」 「ん……、もう少し、シてもらっていい?」 余裕のない彼の表情が、くしゃりと緩んで。 弱々しく紡がれた一言は、私の不安を一掃させて気分を舞い上がらせる。 催促の言葉に気を良くした私は、うんっ、と潔く頷いて、再び彼のものをパクリと咥えた。 舌を動かす度に硬さを増す、千春くんのモノ。 決して可愛いものと言えないソレが、どうしてかすごく可愛く思えて、いっぱい気持ちよくしてあげたい気持ちが溢れ出して止まらない。 たくさん舐めて、舐め尽くして、手も忘れずに一緒に動かしていく。懸命に、奉仕に精を出す。 「上手だよ、莉緒」 千春くんの指先が、私の髪を耳に掛け直してくれる。大きな手のひらがいい子いい子してくれて、褒められてる気分になって嬉しくなる。 もっともっと気持ちよくしてあげたいのに、慣れない行為に顎が限界を迎えていた。 ちゅぽんっ、と名残惜しげに解放する。 乱れた呼吸を整えていたら、ふ、と頭上から艶かしい笑みが聞こえた。 「疲れちゃった?」 「ん……」 「頑張ったね」 顔を上げれば、優しげな瞳と視線が交わる。 逞しい腕が私の身体を抱き寄せて、そのまま横倒れになった。 大好きな人の腕に閉じ込められて、広い胸に顔を埋める。身も心も満たされていく。 「莉緒にハジメテ奪われちゃったかな」 そんな一言が聞こえて、私は目を瞬かせた。 「俺、高校と大学時代、結構遊んでたのね」 「う? うん」 「でもフェラって、して貰ったことないんだよね」 「う、え?」 直接的な単語を口に出されると動揺してしまう。声が裏返ってしまった。 「あれって、女の子側がしんどいでしょ。しかも相手は恋人ですらないし、気持ちよくなるどころか罪悪感が先に沸いて萎えちゃうんだよね。だから絶対させなかったし、断ってたんだけど」 「……わ、わたししちゃったよ……?」 「……うん、まあ。俺に尽くしたいって莉緒の気持ちが嬉しかったからね。欲に負けた」 「………」 わたしが千春くんの初めての相手。 千春くんが、過去の女の子達に絶対させなかったことを、私にはさせてくれた事実が嬉しい。 そう思う反面、不安もよぎる。 「へ、下手だった……?」 「……予想以上」 「ふえ!?」 そんなにダメダメだったのかと落ち込んだのは、一瞬のこと。 「予想以上に、よかったかも。……また今度、してくれる?」 そんな一言に心が弾む。 こくこく頷けば、より一層、ぎゅうっと強く抱き締められて私はホクホク。 千春くんの初めてを奪ったうえに、まさかのお墨付きをもらえました。 千春くんが私のために、必要以上に我慢することなんてないって証明できたことが嬉しい。 知識も経験値も、圧倒的に彼より劣る私。 でも、そんな私でも、千春くんを気持ちよくしてあげられる方法を見つけた。 それがわかっただけで、もう十分……、 「よいしょ。」 「へ、」 ころん、と反転した身体。 覆い被さっているのは、意地悪く笑う彼氏様の姿。 「ち、ちはるくん? え、なにっ、」 「あれ? おかしいね莉緒。挿れてほしいから頑張ったんじゃなかったの? うまくできたら挿れてほしいって、俺にそう言ってたよね?」 「………」 そうでした。 「わ、わすれt「じゃあ思い出させてあげる」 不穏な言葉に戦慄が走る。 メイド服をぽいぽい脱がされ、私の中心に腰を寄せた千春くんは、あらぬ所に硬いナニかを押し付けてくる。 私を見下ろしながら、唇の端をぺろっと舐めて妖艶に微笑む千春くんが、すごくエロチックでですね……、 うん、嫌な予感しかしません。 「ままままって、まって千春くん」 「待ちません。安易に大人を煽ったらどうなるか、ちゃんとカラダに教えてあげます。明日から連休でよかったね莉緒。 ───お陰で、朝まで抱ける」 死刑宣告された。 いまだに装着中の猫耳が、恐怖でふるふる震え出す。 私達の長い長い夜は、まだ始まったばかり。 トップページ |