奪われるお話。2*


 恥ずかしさで内心悶えまくっている間も、千春くんの手は休まることがない。するりとショーツを脱がされて、脚を左右に開かれた。
 呆気に取られている私を気にも止めず、彼の顔が下半身に移動する。

「……え、やだうそ、千春くんそれだめっ!」

 彼が何をしようとしているのか、本能で悟った私の身体に衝撃が走る。がばっと勢いよく体を起こし、間一髪で大事な場所を両手で隠した。
 やろうとしていた事を目前で阻まれて、千春くんの動きがぴたりと止まる。目線だけを私に向けて、互いの視線が絡んだ。

「……莉緒ちゃん。手、どけようね」
「だめ、見ちゃだめなのっ」
「手。どけるの」
「う、やだあ」

 必死に拒否を示す私はもう半泣きだ。まだ誰にも見せたことがない、女として最も恥ずかしい場所なのに、ぐちゃぐちゃに濡れてしまっているソコを見られるなんて羞恥以外の何者でもない。
 両足を大きく開いたはしたない格好に、秘所を見られるという凄まじい羞恥心。濡れているのは既にバレていたとしても、目視されるのはまた別の恥ずかしさがある。

 私だって、性の知識が無いわけじゃない。ここまでされて、今度は何されるかなんて、何となくだけど察することはできる。
 でも好きな人に「えっちな子」だと思われたくない乙女心が、私の心にブレーキを掛けていた。

「莉緒、大丈夫だよ。見られて恥ずかしいのは最初だけだから」
「……で、でも」
「ね、お願い。莉緒のこと、もっと気持ちよくしてあげたい」
「う……」

 千春くんの頼み事に弱い私。
 甘え口調でお願いするあたり、千春くんは私の弱点をよくわかってる。


 ──……わかってるんだ、ちゃんと。


 千春くんに抱かれるという事は、全てを曝け出すという事。
 彼に全てを見てもらいたい、全てを捧げてもいいと。そう思うほどに溺れている。私が唯一、身体を許した男の人。
 千春くんを拒否したくない。
 彼の気持ちに応えたい。
 その想いが、今の私を突き動かす。

 根気よく説得を続ける彼の姿勢に、最終的に私が折れた。ゆっくりと両手を離せば、付着した蜜が指先にまとわりつく。恥ずかしさで震える手をぎゅっと握り締めて、秘所を晒した。

 感じる、千春くんからの熱視線。
 彼を直視できなくて、ぎゅっと目を瞑る。
 頭のてっぺんから爪先まで、燃えるように熱い。

「っ……あ、あんまり、見ないで……?」

 情けない声で懇願する。
 でも千春くんは、私のお願い事にはてんでお構いなし。内股に軽くキスをして、はむっと食して弄ぶ。くすぐったさに鳥肌が立つと同時に、彼の纏う空気に違和感を覚えた。
 薄く瞳を開けてみれば、私の太ももを持ち上げながら口づけている、千春くんの姿がある。どことなく、この状況を楽しんでいるように見えてしまって、少しだけ冷静さを取り戻す。
 一人でわあわあ騒いでいる私の方がおかしいんじゃないかと錯覚してしまうほど、千春くんは至ってマイペースだ。

「………、千春くん」
「なに?」

 千春くんが顔を上げる。
 表情自体は穏やかだ。
 だけど瞳がきらきらと輝いていて、浮かれている様を隠しきれていない。

「……面白がってる?」
「面白いというか、楽しんでるよ」
「……楽しい?」
「莉緒は楽しくない?」

 はた、と瞬きを落とす。

 確かに、前に言われた。楽しんでくれたらいい、その一言に、それまで抱いていた男女の行為に対する重圧が軽くなったのも本当。
 でも今の私に、この状況を楽しむ心の余裕がある訳がなく。

「それは困る。俺ひとりが楽しんでも意味ないからね。だから莉緒にも楽しんでもらいます」
「ふえ?」

 意味深な一言を残して、脚の間に千春くんが顔を埋める。それを、ただ呆然と見つめることしか出来なかった。
 内股を這う唇が中心へと近づいていく。
 ぬるりとした感触が直に伝わった時、全身に甘い刺激が走った。

「っ、ふ、あっ!」

 ビクンッと身体が仰け反る。胸の内で渦巻いていた葛藤や羞恥が、一瞬にして吹き飛んだ。
 指で触れられたり挿れられた時の刺激とは、また別物の感覚が襲う。

 ───なにこれ。

 なにこれすごい。ぞくぞくする。気持ちいい。

「あぁ、ん、やぁ」
「……気持ちいいでしょ?」
「んっ、すごいの、変になりそう……っ」

 新たな快感を見出した身体は、まるで彼から与えられる愛撫を悦ぶかのように、淫らな蜜を生産していく。溢れれば溢れるだけ、彼の舌が丁寧に掬った。

 わざと水音を立てられる感覚に、否応なく欲を掻き立てられる。抵抗感も薄れ、次から次へと襲う刺激に、成す術も無く身体が弱っていく。声なんて抑えられる訳がない。
 舌の動きはゆっくりで優しいものなのに、慣れない快感はあっさりと、私の理性を崩していく。
 とはいえ、乱れる程の強い刺激かと言えばそうでもなく、時間が経てば、ある程度は感覚に慣れてしまう。馴染んでしまえば、少しだけ気持ちに余裕がでてきた。

 無意識に閉じていた瞳を、そっと開ける。
 視界に映るのは、私の内股に顔を埋めている、千春くんの姿。
 表情は太ももに隠れて見えないけれど、その代わり、普段は見れないものが見えてしまった。

「………」

 つむじ。

「……ふふ」

 妙に可愛く見える、千春くんのつむじ。
 胸に湧くのは、愛しさと小さな優越感。
 なかなかお目にかかれないそれに、自然と笑みが漏れてしまった。
 頭の中心をツンツンすれば、ぴくっと動きを止めた千春くんの顔が上がる。私のしていることが不思議だったようで、こてりと首を傾げてた。

「……何してるの?」
「つむじ、かわいいの」
「ん、そう? 薄くなってない?」
「なってる」

 嘘です。

「やっぱり? もう三十路まで一歩手前だしね。そろそろ俺も真剣にハゲ活しないとマズイかな───、っと。」
「ふぎゃあ!」

 唐突に肩を捕まれて押し倒される。焦る私ににっこりと微笑みながら、千春くんが覆い被さってくる。その笑みはどこか黒い。
 ベッドがギシリと嫌な音を立てて、不吉な予感を感じさせた。

「この状況で男をからかうなんて、随分と余裕じゃないの莉緒ちゃん」
「あう、ごめんなさい」

 素直に謝れば、千春くんの口からため息がひとつ。くしゃりと、綺麗な顔が柔らかく崩れた。

「全く。心配して損したよ」
「心配?」
「ずっと表情が固かったからね」

 その一言に、あ、と声が漏れる。

 どんなに振り切ろうとしても、胸に残る恐怖は消えない。そして平然を装うフリが出来るほど、私は嘘が上手くない。
 そんな態度は必ずボロが出てしまうもので、彼は当に、私の強がりなんて見抜いていた。それでも千春くんが何も言わなかったのは、彼に応えたいという私の気持ちを汲み取ってくれていたからだ。
 彼はやっぱり経験豊富な大人で、未熟で子供な私より、一歩も二歩も先を読む。

「あのね、前にも言ったけど。本当に、重く考え過ぎないで? 怖いことじゃないから、気楽に楽しんでくれたらいいよ。出会った時から、俺達はこんな感じだったでしょ」
「……こんな感じ?」
「緩い感じ」
「ふふっ」

 思わず笑ってしまったのは、納得できる部分があったからだ。

mae表紙tugi

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