FF夢


 4-08





1階の玄関ホールに辿り付いた私達は、踊り場の陰に隠れながら外の様子を伺った。

3人は完全包囲されている外を見て愕然としているが、そんなものは問題じゃない。
ここからがミッドガル脱出劇のクライマックスだ。
上層から現れたクラウドとティファの姿を確認してから、全員に声をかけた。


「2人とも怪我はないみたいだね。さぁ!正面玄関からは脱出不可能、勿論裏口や一階窓ガラス付近も包囲済み。どうやってこのビルから脱出するのかだけど、手段があるから、こっちに来て!」

愛しのハーディ=デイトナが展示されている展示ルームへと入る。まぁ、愛しのっつっても私のじゃないんだけど。
外を見ていた3人も声に反応して、展示ルームの方へ走ってくる。

展示ルームに入ったら、あとはゲームの通りに事を進めるだけだ。
どの車に乗ればいいのか、あたふたしている5人に指示を出す。

「そこのガラスぶち抜いて脱出するよ。エアリス、ティファ!そっちの青いsA-37式自動3輪に乗って!27式よりも性能がいいから。フロントガラスも丈夫だし、身を守れる筈。バレットとナナキは悪いけど荷台に乗って、自分で身を守って!」


4人が言われた通りの行動をしているのを目視して、今度はクラウドを展示ルームの3階へと連れてくる。

「神羅製のブ厚い防護ガラスをぶち抜ける子を連れて来るから、ちょっとだけここにいて」

それだけ言い残して、私は奥に安置してあるハーディ=デイトナにまたがった。
エンジンを入れてクラウドの元まで転がしていくと、彼は茫然としたままだった。

「早く後ろ乗って」
「あ、いや、俺が前に乗った方が良いんじゃないか?」
「大丈夫。コレの運転は慣れてるし、クラウドには後列でやってもらう役割があるから」

首をかしげながらも私の後ろに座り、腰に手を回すクラウド。遠慮しているのか、手の力は緩い。


「気をつけてね?デイトナは人をぶっ飛ばすのがだーいすきだから」

グリップを捻ると、ドッドッドッド・・・と安定していたエンジン音が一転してけたたましい音を鳴らす。
発進してからものの1,2秒でデイトナはスピードを上げ、ティファ達が待つ展示ルームへ続く扉を簡単に吹っ飛ばした。
あまりの加速に、クラウドが腕の力を強める。


「これは・・・確かに化け物だな」
「でしょ?私の愛車もコレと同じヤツだよ!」
「ああ、覚えてる」

耳元で懐かしそうにつぶやくクラウドのセリフを聞いて、少しこそばゆい感覚がする。
まさか、覚えていてくれるとは。

「・・・ふふ、前もこうしてクラウドが後ろだったよね」
「懐かしいな。つい最近の事なのに」

まるで世間話をするかのような空気だったが、思い出話に興じている場合ではない事を思い出す。
3輪のハンドルを握るティファに合図を出し、思い切りグリップを捻る。
勢いよく発進した車体の前部分を跳ねあがらせ、所謂ウィリーの状態にして、ガラスを蹴破る。


バガシャァン!!と音を立てて粉々に砕けるガラス。

顔を何箇所か切るが、お構いなしにハイウェイに飛びだす。
続けて3輪が飛び出してくる。空中にはまだガラスの破片が舞っているが
エアリスとティファはフロントガラスに守られ、ナナキとバレットはちゃんと顔を手で庇っている。


そのままの勢いでハイウェイを滑走すると、後ろにいるクラウドから嬉しそうな声をもらう。

「上手く行ったな。流石だ、奈々」
「大変なのはこれからだよ。あの神羅があれしきで諦めると思う?」

そんな言葉に反応したかのように、後ろからバイクに乗った兵たちが追いかけて来る。
ああ、これがフラグってやつか。そんな思いもいざ知らず、クラウドはニヤリと笑ってバスターソードを片手で構えた。


「成程、確かにこれは俺の役割だな」
「でしょ?」
「後ろは任せろ」
「頼りにしてるよ、ソルジャーさん」
「元、ソルジャーだ」

長い事乗っていただけあって、デイトナは私の手足のように自在に動いた。
そしてクラウドのリーチの長い攻撃のおかげで、4人が乗る3輪自動車には傷一つついていない。

「2人とも、すごい!」
「おう!頼りになるぜえ!!」

エアリスとバレットに褒められてちょっと嬉しくなるが、クラウドの鋭い声でそれもすぐに消える。

「奈々、反対側から接近されてる!」
「了解!」

車体を大きく傾けても、クラウドは動じることなく剣を振るう。
そうしているうちに追手の数が減り、空が白みかけてきた。




「逃げ延びたか!?」
「いや・・・そうでもないらしい!」


バレットの声にこたえるように、クラウドが大きな声で言い返す。
そう、常に後ろを確認していたクラウドには見えている。
物騒な重火器を装填した、いかつい機械が猛スピードでこちらに向かってくるのが。


「何だありゃあ!?」
「モーターボール。神羅カンパニーの兵器開発部が所有する追跡・抹殺用のメカニックだよ。走行しながらの戦闘は不利だから、ここで迎え撃つ!!」
「やっとオレの出番だな!」

私とクラウドががバイクを止めて武器を構えると、同じようにティファも車を停める。
荷台からは意気揚々とバレットが飛び出して、片腕の銃を真っ直ぐ構えた。

「バレット」
「あ?」
「これとこれ、連結マテリア穴に装備しといて」
「んだこりゃ?」

首をかしげながらも言う通りにするバレット。
先程の反省点を活かして、今度は戦闘前にマテリアを渡しておくことにしたのだ。

「戦いが始まればわかるよ」

バレットが身に着けたぞくせいといかずちのマテリアを確認しつつ、眼前に迫る敵を見据えた。




***




とうとうモーターボールの間合いに入り、戦闘が始まる。
攻撃の前にまず、味方全体にプロテスをかける。

バレットがすかさず銃弾を撃ち込むと、着弾と共にバリバリと青白い電撃が走った。


「うおっ!なんだこりゃ、すげえ効き目だな!」
「あいつは電撃に弱いの!バレットはサンダー唱えるの、苦手でしょ?」
「おお、こいつの方がオレに合ってるぜ!!」
「んじゃあその意気で、ひとつよろしくー!」

私も繰り出される銃撃を横っ飛びで避けつつ、サンダラを詠唱する。
クラウドは隙をついて切りかかり、ティファとナナキは魔法攻撃に徹している。
エアリスは後方支援をしながら、隙を見てサンダーを打っていた。


しばらくその攻防が続き、モーターボールの車体がドドドドド、と揺れ始める。

来た、と思うのと同時に全体化ブリザドの詠唱を始める。
このボスモンスター、モーターボールの必殺技であるローリングファイアが繰り出されるタイミングを見計らって、全体化ブリザドで強力な冷気と氷の塊を発し、全体を狙う炎を無効化する。


「やだ、すっごい!」
「器用なモンだぜ・・・!」
「魔法のコントロールだったら任せてー!」
(ゲームじゃあできない応用だよね。うん、対機械のバトルは楽しい)

全員が無事にローリングファイアを回避した瞬間、大技の反動が来たのか、モーターボールが攻撃を緩めて動きを鈍らせる。
その隙を見逃さなかったクラウドが、大きくバスターソードを振り被った。

「これで、終わりだっ!」


掛け声と共に放たれたリミット技、ブレイバーによってボスバトルが幕を閉じる。

流石に主人公はタイミングが上手いなぁ、なんて思いながら、仲間たちと共にクラウドを褒め称えた。





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