4-07
最上階の社長室までたどり着くと、そこには予想していた通りの光景が広がっていた。
仰々しいまでの社長用デスクに俯せの状態で倒れこんでいるプレジデント神羅と、彼の背中に深々と突き刺さっている長い刀。
その部屋に足を踏み入れた者が茫然としている中、ティファの「この剣は・・・?」という疑問にクラウドが答えた。
「セフィロスのものだ!」
その一言を皮切りに「セフィロスは生きているのか?」という呟きや
バレットの「これで神羅も終わりだぜ!」という喜びの声が響き始める。
つかの間の喜びを味わっているバレットには悪いが、神羅は終わりなどしないだろう。
プレジデントは、立派な後継者を育て上げているのだから。
場が騒然となり始めると、柱の陰に隠れていた人物が姿を現した。
「うひょっ!」
分厚い脂肪に覆われた体を持つその男性は、宇宙開発部門統括のパルマーだった。
気の抜けるような声と共に現れ、そのまま社長室から立ち去ろうとするパルマー。
だが、通り抜けようとした場所が悪かった。
よりによってこの中で腕っぷしの強い、クラウドとバレットの間をすり抜けようとしたのだ。
案の定、クラウドとバレットに両腕を掴まれた挙句、ここで何があったのか尋問されている。
「せ、セフィロスだ!セフィロスが・・・たた、頼む、ころ、ここ、殺さないでくれ!!」
彼は酷くパニックに陥っているようで、言葉のどもりが激しい。
パルマーが言うには、この場にセフィロスが現れ、プレジデントを殺害し、何かをブツブツ呟きながら去って行ったという。
まぁ、彼が目撃したセフィロスも、これから私たちが遭遇するセフィロスも、全てジェノバが擬態した姿なのだが。
『約束の地は渡さない』
セフィロスが呟いたというそのセリフも、ゲームの通りだった。記憶の通りに事が進むのも、今更だが少し気味が悪いものだ。
セフィロスは神羅カンパニーの手から約束の地と呼ばれる場所を守ろうとしているのか、とバレットが言うと、クラウドは少しヒステリック気味にそれを否定した。
2人が動揺した一瞬のスキを狙って、パルマーは拘束を振りほどく。
そしてそのままヘリポートへと走り去っていった。
ヘリポートには原作と同じように黒い機体のヘリコプターが着地しようとしていた。
ルーファウスは既に長期出張から帰還している筈なのだが・・・どこぞへ所用でもあったのだろう。
とりあえず今、ルーファウスの前に顔を見せて、彼に友好的な事を言われたらまずい。
私はパルマーを追いかけていく一団には混じらず、社長室の柱に身を隠したまま様子を伺う事にした。
しばらく様子を見ていると、階下から騒々しい声が聞こえてくるのが分かった。
「いたぞ!脱走者だ!」
「大人しく観念しろ!」
あの不気味なモンスターまみれのフロアを潜り抜けてまで、彼らは私たちを捕まえに来たのだろうか。
そう思うと、彼らの神羅に対する忠誠心がとても立派なものに思えるが、生憎ほいほい捕まってやれるほど暇ではない。
「あーあ、こんな展開聞いてないよ・・・ま、しょうがないか。殺しはしない。でも、ちょっと眠ってもらうからね」
女1人に、ソルジャー2人。この状況に、あちら側は目に見えて油断しているようだ。
よくよく見ると2人は3rdクラスのソルジャーらしく、濃いブルーの制服を着ている。
ふっ、と思わず笑みを浮かべてから、素早く剣を構えて踏み出す。
幸いなことに、どちらも大きな支給品のソードを使用している。
対両手剣なら、アイシクルロッジに居た時に散々経験したよ!と口の中で呟きながら切りかかる。
軽い一撃目はキンッと音を立てて弾かれるものの、様子見の攻撃を弾かれたところで何のダメージにもなりはしない。
むしろ軽い衝撃にソルジャーの方が気を緩め、大きな隙を作った。
その隙をついて勢いよく足払いをかけると、転倒までは至らなかったがソルジャーが体勢を崩した。
もう1人のソルジャーが切りかかってくるが、それをバックステップで避ける。
大振りの攻撃だったようで、相手は前のめりによろけた。
すかさずその顎に一撃蹴りを入れると、上手く脳震盪を起こしてくれたようで、そのソルジャーは勢いよく床に倒れこんだ。
「さて、もう一人」
そう呟いてから、剣を構え直す。
体勢を立て直し、先ほどよりも殺気立っているソルジャーを目の前に、ニヤリと笑いながら、空いている方の手でチョイ、と挑発をする。
「どんな時でも余裕の表情を崩すな!」と、ザックス師匠から教わった精神戦のテクニックの一つだ。
女である私は、特にペースを乱されてはいけない。
それを念頭に置きながら、挑発に乗って切りかかってきたソルジャーに意識を向ける。
剣術、体術、と続いて繰り出すのは、魔法攻撃。
ぶっちゃけて言うと、私程度の筋力で真正面からやりあえば、一般兵にも負けてしまうだろう。
だからこそ、スピードを活かして動き回り、確実に急所を狙い、相手の裏をかく事が必要不可欠だ。
ファイアの短い詠唱をすぐに終え、火の塊を相手の顔面向けて放つ。
ボン!と火の粉を散らして襲い掛かる魔法に、咄嗟に腕を顔の前に出すソルジャー。
(ん?なんか、思ったよりも炎が大きい・・・あれ、魔力上がったかな)
それでも所詮はファイア程度の炎。すぐにそれは消えてしまったが、飛び散った火の粉が目に入ったらしく、男の瞼が閉じている。
思い通りに進む戦況に、口角がニヤリと吊り上るのを感じる。
「ちょっと卑怯だけど、勘弁ねっ!」
その掛け声と同時に、相手のヘルメットのフチを狙って剣を振り上げる。
カンッ!と小気味よい音が響いたと思うと、ヘルメットは2mほどむこうへと飛んで行った。
頭が露出され、相手のソルジャーが思わず身を屈めた瞬間、この時を狙っていた。
背の高い男でも、危険に身を縮めている瞬間ならば脳天を狙うことができるからだ。
勢いよく振り上げた踵を落とすと、綺麗な踵落としが決まった。
それをまともにくらったソルジャーも、もう一人と同じように地に這いつくばり、意識を手放した。
「ふぅ・・・サイファー戦術にスコールのヒールクラッシュ、結構使えるね」
ファイアを陽動にした剣術、それに加えてのヒールクラッシュ・・・別名、踵落とし。
あくまで私は"FFシリーズ"のファンなのだ。憧れのアクションが披露できて、少し嬉しくなった。
ちょうどこちらのバトルが終わったころ、ヘリポートではルーファウスとクラウドの戦いが始まったらしく、バレット、ティファ、エアリス、ナナキがこちらに走ってきた。
「奈々!」
「急いでここから逃げるぜー!って、うわ、なんだこりゃ!」
昏倒しているソルジャーを見たバレットが、私の方を驚きの表情で凝視する。
お前実は強いのか!?と、その瞳が言いたいことを物語っている。
「ん?ああ、軍隊にも連絡行ってるっぽいね。急いだ方がいいみたいだよ」
「じゃあ早く行きましょ!」
エアリスがそう言うのと同時に、全員が走り出して社長室を出る。
だが、69階の中間に差し掛かったあたりでティファが足を止めた。
「・・・ねぇ、私やっぱりクラウドを待つわ」
心配そうな面持ちで背後を振り返るティファ。
これも進行通りなので、彼女を引き留めるようなことはしない。
「ティファ、ひとりで大丈夫?」
「うん。後でクラウドを連れて合流するから」
バレットは何か言いたげだったが、ここで問答している暇があったら一歩でも早く進みたい。
それを遮ってティファに声をかけてから、エアリス、バレット、ナナキと共に歩き出す。
「オーケー・・・んじゃ早く退路を確保しに行くよ。また後でね、ティファ!」
「気を付けてね!」
***
3人と共に外観エレベーターに乗り込むと、反対側のエレベーターに大きな兵器が乗り込んでいた。
戦車型のそれは、ハンドレットガンナー。大きな機体の横をちょろちょろ飛び回っているのが、ヘリガンナー。
どちらも銃撃戦に特化した兵器だ。
「このエレベーターの中じゃあ直接攻撃は届かない。バレットはそのまま武器攻撃!ナナキは魔法攻撃でダメージを与えて!エアリスは後方支援お願い!」
「おう!」
「了解だ」
「うん、わかった」
3人に指示を出し終わると同時に、ハンドレットガンナーが銃弾を撃ち込んでくる。
ガシャガシャと割れるガラスがこちらに飛んでくるが、バレットが全て撃ち落としてくれた。
(ああ、バレットにあらかじめぞくせいマテリア渡しとけばよかったなぁ・・・見た感じ、今の装備はアサルトガン。マテリア連結穴がついてたハズ・・・いかずちマテリアでもつければ、戦闘が早く終わったんだけど)
戦闘が始まってから考えたところで、もう遅い。
まぁ、今のままで倒せない敵でもないので、続けて指示を出す。
「まぁ、しょうがないか・・・。どうせ遠距離攻撃しか当たらないから、こっちもギリギリまで後退して戦うよ!銃弾に当たらないようにね!」
その言葉の通りに、3人はギリギリまで後退して攻撃を受け流す。
私も同じように後ろへ下がると、銃弾の弾道がよく見えた。
攻撃を躱しながら、ナナキと同じようにサンダラを撃ち込んでいくと
先程のソルジャー戦でも感じた違和感が、またもや私に降りかかった。
「・・・やっぱおかしいな、ラ系魔法の威力じゃない」
「ああ!何だって!?今はバトルに集中しろよ!」
「分かってるよ」
私の呟きを聞き取ったのか、バレットが厳しい声で注意を促す。
それに応えつつも、私の頭の中は自分の能力のことでいっぱいだった。
(さっきも思ったけど、魔法が強力になってる・・・。それに動き易い。魔晄のせいかな。こんなに弾道が見えるなんて、前の私には到底無理な話だし)
考え事をしていても体は勝手に動いているようで、私の口は再びサンダラの魔法詠唱を始めていた。
魔法を使うのに疲れてきたタイミングで、体を覆う回復感。
きっとエアリスがエーテルか何か使ってくれているのだろう。
時々暖かい風が後方から吹き、体についた傷を治してくれている。やっぱり、彼女のリミット技はすごく有難い。
しばらく攻防を続けると、ハンドレットガンナーの車体からブスブスと煙が出始める。
「よし、エネルギー切れてきたね。もうひと踏ん張りだよ」
「おっしゃ!」
そう意気込んでからはあっという間だった。
ナナキの放った渾身のサンダーが決定打になり、ヘリガンナーを巻き込むほどの爆発と共にバラバラになった。
私達はつかの間の休息を味わうことなく、一階へと歩を進めて行った。
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